森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.102
THE ORAL CIGARETTES、吉井和哉、菅原卓郎…ロックボーカリストの“歌”を堪能できる新作
本格的なブレイクが近づいているTHE ORAL CIGARETTESの山中拓也、ソロデビュー15周年を迎えた吉井和哉など、さまざまなスタイルのロックボーカリストの魅力が堪能できる新作を紹介。激しさ、叙情性、色気、退廃、高揚感などを兼ね備えたボーカリストたちの“歌”をたっぷりと楽しんでほしい。
バンドシーン、フェスシーンでの知名度はもちろん申し分なし。ここからどこまで高くジャンプアップできるか? というタイミングでリリースされる4thアルバム『Kisses and Kills』でTHE ORAL CIGARETTESは、本来の個性をさらに突き詰めることで臨界点を超えてみせた。鋭利にしてトリッキーなフレーズが刺激的に絡み合うアンサンブルも素晴らしいが、中心にあるのはやはり山中拓也のボーカル。ダークな官能性とポップな響きを兼ね備えた彼の声は、濃密さ、緻密さを増したバンドサウンドのなかで、これまででもっとも強いアイデンティティを放っている。たとえば7曲目「リブロックアート」における激しさと色っぽさを混ぜ合わせた歌いっぷりは、同世代のボーカリストには絶対にマネできないと思う。
吉井和哉のソロデビュー15周年を記念したアニバーサリーライブアルバム『SOUNDTRACK ~Beginning & The End~』。ソロ活動12年の集大成である本作は“ソロ活動が1本の映画だとしたら、サントラのようなもの”というテーマで制作された。叙情的なブルース感とでも名付けるべきムードが生々しく響く1曲目「MY FOOLISH HEART」から、サイケデリックな音響と<ノーパンで眠るあなたが愛しいよ>と歌い始める「ノーパン」まで。たしかに本作は、吉井和哉を主役にした人生という名のロードムービーの様相を呈している。それは“リアルな日々を等身大で歌った”なんて生易しいものではなく、虚実が混ざり合うヤバい世界。シャウト一発で聴く者をあちらの世界に引きずり込んでしまう吉井はやはり、希代にして異形のロックボーカリストなのだ。
どんなに鋭く叫んでも、詩的な情感は決して失われることなく、歌としての魅力が真っ直ぐに伝わってくる。The Birthdayの約1年ぶりのニューシングル『THE ANSWER』でもチバユウスケ(Vo/Gt)はシンガーとしての特異な才能をこれでもかと見せつけている。<エゴンシーレと 戯れて/虹を見て 何色かと>という繊細な美しさに溢れた詩をエッジの効きまくったロックンロールに乗せられるシンガーは、チバ以外には考えられないだろう。今年の夏に50代になるが、匂い立つような色気、凡庸な世界を睨み付けるような激しさも健在だ。カップリングには「VICIOUS」を収録。Joy Divisionを想起させるようなギターリフ、冷徹なムードを放つビートを軸にしたナンバーだ。破壊衝動と抒情性を共存させたボーカルも素晴らしい。