『Hibana』インタビュー
THE SIXTH LIEが『ゴールデンカムイ』ED曲に込めたもの「“生と死にまつわる戦”の雰囲気を」
「アイヌの考え方に自分の中にはないものがたくさんあった」(Ray)
——そういったバンドの幅広さを証明するのが、今回のニューシングルの表題曲「Hibana」だと思います。こちらはTVアニメ『ゴールデンカムイ』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマに起用されていますが、最初にお話をいただいたときはどう思われましたか?
Arata:「キターッ!」って感じでしたね(笑)。本当にサプライズでした。
Reiji:宝くじが当たったのかと思った(笑)。
Ray:僕らは海外でもアニメ好きとか日本のカルチャー好きの人が集まるイベントに出演する機会が多かったので、そういう場所でアニメの曲があれば盛り上がるんだろうなとは思ってたんです。なので、今回初めてアニメの曲のお話をいただいて「やった!」と思いました(笑)。
——みなさん『ゴールデンカムイ』という作品にはどんな印象を抱きましたか?
Arata:僕はヤングジャンプ(『ゴールデンカムイ』の原作コミックを掲載している漫画誌)を読むことがあるんですけど、実は『ゴールデンカムイ』は読んだことがなかったんですよ。なので今回の作品を作るにあたって読んでみたら、物語はしっかりしてるのにシリアスな笑いのセンスがあって、めちゃくちゃおもしろくて読み入ってしまいましたね。何でいままで読んでなかったんだろうと思って(笑)。
Ray:僕は歌詞を書くので、最初は勉強のつもりで、必要になりそうなことや歌詞で使えそうなテーマをメモりながら読んでたんですよ。そしたらコミックスの最後に載ってる参考文献のリストが、巻を重ねるごとに膨大な量になっていって、いろんなことをちゃんと下調べしたうえで書いてるんだなと思って。なので歌詞もそれに負けないようにしっかり下調べしましたし、アイヌの考え方に自分の中にはないものがたくさんあったので、そういう視点で歌詞を書けばおもしろそうと思いました。
Reiji:僕も最初は勉強のつもりで読んでたんですけど、全巻読み終わったときにはもう作曲のことを忘れちゃってて(笑)。それで「あれ? そういえば曲作らなきゃいけないんじゃん!」と思って取り掛かったら1日かからないぐらいでできちゃったんですよ。それぐらいインパクトの残る作品なんだと思いました。
——読み終わった後に曲のイメージがパッと浮かんだ?
Reiji:全体的に生と死を扱う描写が多かったので、儚くも激しいイメージが頭の中にできて。それを曲にするのはすぐでした。
——楽曲を作るにあたってアニメ制作サイドからリクエストはあったのですか?
Reiji:僕らは普段は電子音をよく使うバンドなんですけど、今回は電子音を控えめにしてほしいというお話でした。でも、それは自分たちでも思ってたことなんですよね。
Ray:『ゴールデンカムイ』は明治初期の北海道を舞台にした作品なので、それにEDMはどうなの?と思って(笑)。
Reiji:それに僕はアニソンみたいな曲も好きなので、やっとそういう曲が作れると思ってすごく楽しかったですね。普段はやらないようなギターやドラムのフレーズとかサビのメロディを、ここぞとばかりに入れることができたので。
——アニソンだとどういった楽曲がお好きなんですか?
Reiji:ちょっと懐かしいんですけど『灼眼のシャナ』のKOTOKOさんとかですね。
——まさに〈NBCユニバーサル〉のレーベルメイトじゃないですか(笑)。
Reiji:だからビックリしました(笑)。
——歌詞に関しては何か指定はありましたか?
Ray:物語が主人公の杉元(佐一)だけじゃなくて、いわゆる杉元、土方(歳三)、鶴見の三すくみになるので、その“男同士の戦い”を主眼に置いてほしいとは言われましたね。
——自分は歌詞を読んで、これから新しい場所に飛び込んでいくバンドの状況も含めて表現されてるように思ったのですが。
Ray:ああ〜。そんなことはないんですけどね。
Reiji:たしかに言われてみたらそんな感じはしてくるけどね。
Ray:どのキャラの視点でも成立する歌詞にしたいと思ったので、たぶんいろんな見方に当てはまる普遍性みたいなものが出たんだと思います。でも、この歌詞は完全にカムイのことだけを考えて書きました。最初は戦いから連想できる言葉を考えていきつつ、アニメは雪山の中で血が流れたり、松明を燃やしたりで、白の中に赤があるイメージがすごく強かったので、それを歌詞で見せたいと思ったんです。そこで“戦い”と“雪の背景の中で赤く見えるもの”を表すテーマとして“火花”が出てきました。
——先ほど歌詞に入れたとおっしゃってた“アイヌの考え方”というのは?
Ray:アイヌの人たちの考え方に“死んだらみんな神になって戻ってくる”という輪廻転生的な考え方があるらしいんですよ。そういう部分が<旅立って さまよって いつかまた、ここに来るんだ>とか<星達は明日もまたそこにいるんだ>という歌詞に入ってます。
——今回が初のアニメタイアップということで、そのように何かの物語に寄り添って歌詞を書くのは大変だったのでは?
Ray:でも『SINGularity』のアルバムに入ってる曲は全部SF映画を観て書いたんですよ。例えば「One More Spark」という曲は『ゼロ・グラビティ』を観て書いてたものだったりして。
Reiji:それ、知らなかったなあ(笑)。
Ray:もともと自分のことを歌詞に書くのは苦手で、そういう何かの物語に着想を得て書くのが得意なんです。それと僕は美術館に行くのが好きなんですけど、そこで展示されてる作品には「この作品は作者がこういう気持ちで書きました」という説明書きがあるじゃないですか。それを読んで「なるほど」と思って歌詞を書くこともあったりして。歌詞というのは人の考え方を表現するものだと思ってるので。
——Arataさんは歌う時にどのようなことを心掛けましたか?
Arata:作品を読んで“荒々しく歌うべき”という印象を受けたので、いちばん最後のサビの<火花が今、散った>というところは本当に魂を込めて、自分が出したことのないような男臭さを出せたらと思って本気の叫びを出しました。全体的に“生と死にまつわる戦”の雰囲気が出るように歌ってます。
——「Hibana」という楽曲は、バンドがこれまで発表してきた“EDMや洋楽テイストを取り入れた楽曲”という方向性とは趣きの異なるストレートなバンドサウンドになりましたが、その点で恐れのようなものはありませんでしたか?
Reiji:僕らの本心としては、まずは目の前にあるチャンスを掴んでいこうという気持ちが大きかったんです。たぶん『ゴールデンカムイ』のファンの方もこういう音楽が好きだと思いますし、そこは割り切るというよりもノリノリの気持ちで作ってましたね。
——普段から海外のトレンドを取り入れるやり方と同じような意識で、今回は『ゴールデンカムイ』という作品にチューニングを合わせて新しいことにチャレンジした、と。
Reiji:それにアニソンはアニソンで海外でも熱いじゃないですか。だからどっちの方向性をやるにしても悪いことはないなと思って。普段自分たちがやってるサウンドも海外で受け入れられてほしいし、アニソンも海外でわかりやすく盛り上がるので、そこは別に何の抵抗もなかったです。
——海外展開も見据えた活動をされてるTHE SIXTH LIEならではの発想ですね。それと「Hibana」はみなさんが『ゴールデンカムイ』の舞台さながらの雪山で演奏してるMVも印象的でした。映像周りは基本Rayさんが制作されてるんですよね。
Ray:はい、今回のMVも僕が監督してて、さすがにカメラは自分が被写体なのでやってないんですけど(笑)、企画から編集までやらせてもらってます。今回はもともとアニメの映像と合わせるお話だったので、それと合わせても違和感がないように雪山をロケ地に選んだんです。でも衣装で撮ることを考えてなかったので、ひたすら寒かったです(笑)。
——Rayさんの衣装は袖がありませんし、そりゃあ寒いですよね(笑)。撮影はいかがでしたか?
Ray:MVも歌詞の世界観と同じように、白の中に赤が映えるような映像にしたいと思ったので、僕らも松明を持ったり、CGで火の粉を散らせたりとかして。でも松明は火の勢いが弱かったので、結局後からCGで合成したんです。それとカメラマンさんが持ってたドローンで撮影してみたらすごく良い絵が撮れたので、MVの最初の場面に使ったりして。撮影中は本当にカムイの世界観にいるような気がしました。
Arata:でも、ロケ地で誰も足を踏み入れないようななところまで入ったら、太ももまで沈んじゃうぐらい雪が積もってて、歩くのが困難な状況で撮影したりもして。衣装が白いので、いかに汚れをつけないようにするかも苦労しましたね。
Reiji:あれはヤバかったね。MVだから動かないといけないんですけど、動くたびに自分が沈んでいくんですよ(笑)。
Ray:雪の上で演奏シーンを撮ったんですけど、スネアを叩くたびに沈んでいくんですよね(笑)。ペダルもつるつる滑ってすごくやりにくかったです。しかもロケ地がスキー場だったので、スノボをやりにきたお客さんがめっちゃ見てたんですよ。
Reiji:あれは恥ずかしかったよね。
Arata:ワンシーン終わるたびに拍手されてたからね(笑)。