乃木坂46、ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』なぜ起用? 新たな層へのリーチ力強めるか

 『乃木坂46版 ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」』が6月と9月に上演される。全世界に根強いファンを持つ武内直子原作漫画『美少女戦士セーラームーン』のミュージカルは「セラミュ」の愛称で親しまれ、1993年から2005年までをバンダイ版、2013年から2017年までをネルケプランニング版として上演。特に2.5次元舞台の火付け役として知られるネルケプランニング版以降は、演劇分野の中で一つのジャンルを確立している。

乃木坂46『シンクロニシティ』(通常盤)

 今回上演される乃木坂46版では、『美少女戦士セーラームーン』25周年プロジェクトの一環として、乃木坂46が主要キャストとして登場。選抜メンバーが「Team MOON」「Team STAR」の2チームに分かれ、Wキャストでセーラー5戦士を演じる。メンバーはTeam MOONの山下美月、伊藤理々杏、高山一実、能條愛未、樋口日奈、Team STARの井上小百合、渡辺みり愛、寺田蘭世、梅澤美波、中田花奈の計10名だ。

 人気ミュージカルであるセラミュの特徴や乃木坂46の起用について、『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』作者・劇団雌猫のメンバーであり、2.5次元舞台や女性アイドル事情に詳しいもぐもぐ氏に話を聞いた。

「セラミュの特徴として、キャストに新人を多く起用し、何作かの上演を経て“卒業”するという流れがあります。同じ演目でも代ごとにキャラクターのイメージが変化し、演技の違いを楽しむことができるんです。今回の乃木坂版でもキャストが2チームに分かれているため、それぞれのチームの演技を楽しむというセラミュの醍醐味に近いものを味わうことができるのでは。また、乃木坂版ではフレッシュで未知数な3期生メンバーと舞台で評価の高いメンバーが起用されていて、バランスが取れている印象。個人的には能條さんが主演を務めたミュージカル『少女革命ウテナ~白き薔薇のつぼみ~』の評判がよかったので楽しみなのと、センター映えする井上さんが演じるセーラームーン役が楽しみです。高身長で存在感のある梅澤さんのセーラージュピター役もぴったりだと思いました」

 本作の演出は2.5次元ミュージカルなどさまざまな舞台に携わってきた劇作家兼演出家・ウォーリー木下が担当。物語では原作の第1期が描かれ、6月は「天王洲 銀河劇場 Ver.」、9月は「TBS 赤坂 ACT シアターVer.」として一部内容の異なるかたちで上演されるという。

「セラミュは原作の人気エピソードをかいつまんだ内容なので親しみやすく、変身シーンやアクションが見どころ。『ムーンライト伝説』が流れる中、漫画やアニメで見てきた世界が目の前に広がる様子には感動してしまいます。演出のウォーリー木下さんはミュージカルの『ハイキュー!!』なども手がけていて、プロジェクションマッピングを用いるなど、舞台演出に今っぽさを加えるのが得意な方です。映像や音楽の使い方も凝っていて、これまで東京パフォーマンスドールのライブ演出にも携わっていました。乃木坂版でもそのような演出を取り入れ、今までとテイストを変えてくるのか。セラミュファンとしては気になるところです」

 熱心なファンの多いセラミュへの出演は、乃木坂46の演劇への取り組みにおける一つの到達点となるかもしれない。AKB48グループの公式ライバルとして結成された乃木坂46は、48グループのように楽曲パフォーマンスのメンバーを決める『選抜総選挙』ではなく、舞台『16人のプリンシパル』出演のための選抜投票を行ってきた。その他にも『じょしらく』『すべての犬は天国へ行く』『あさひなぐ』などグループが主演を務める舞台を多く上演するなど、演劇や舞台は乃木坂46というグループを語る上では欠かせない要素の一つである。

 女優やモデル、タレントなどのソロ活動を通してファン層を広げている現在のグループにとって、ポピュラーで女性人気の高い『セーラームーンミュージカル』に出演することは、ある種自然なかたちでグループの根幹にある演劇や舞台にふれてもらうことができる機会となり、さらに新規女性ファン獲得のきっかけにもなりそうだ。

「舞台はどんな題材でも女性客が多いのですが、セーラームーンは特に女性の原作ファンが多い。乃木坂も近年女性人気が高まっていますし、セラミュから乃木坂メンバーと彼女たちが演じる舞台に関心を持つ人が増えるかもしれません。あと、セラミュの特徴として圧倒的な原作人気・認知度の影響で、海外ファンが多く駆けつけるということがある。『テニスの王子様』や『弱虫ペダル』などの2.5次元演目と比べても目立つ印象があります。乃木坂46が今後日本だけでなくアジアを中心にファン拡大を目指していくとしたら、ひとつのプラス要素になるかもしれませんね。また、セラミュはいい意味で間口の広い作品なので、2.5次元やミュージカルに足を運んだことのない方にもおすすめ。乃木坂版のセラミュは、様々なファンが混ざり合う面白い客席になりそうです」

 イベントや握手会などでメンバーたちがコスプレを披露するなど、アイドルたちからも人気の高い『セーラームーン』。“女の子の憧れ”として25年もの間愛され続けるキャラクターを演じるという経験は、乃木坂46のメンバーにとって大きなやりがいにつながるだろう。自身にとっても馴染み深いキャラクターを各メンバーがどのように演じるのか。そして、乃木坂46とセラミュが相乗効果を生み、双方を盛り上げていくことはできるのか。上演開始後の反響にも注目が集まる。

(文=久蔵千恵)

※記事初出時、一部表現に誤りがございました。訂正の上、お詫びいたします。

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