1stフルアルバム『クリープ・ショー』インタビュー

Creepy Nutsが問う、ジャンルの定義「“いわゆる”を作ることって本当にヒップホップなの?」

「自分の根源的な部分と向き合うべき時期に」(R-指定)

ーーその意味でも、今までの作品を回収する、決着させる作品であり、そこに今までの曲が入ってることが今回は重要だとも感じて。中でも「トレンチコートマフィア」から、「だがそれでいい」への展開は、非常に重要だと感じました。

2人:そうですね。

ーー「トレンチコートマフィア」は元々は松永くんのアルバム『サーカスメロディ』で、Rくんが客演した曲であり、その意味でもクリーピーの原点的な曲だと思うんだけど、同時にクリーピーにとって「トラウマ」でもあると思う。それは、クリーピー自身の過去のトラウマを作品として表出させたという意味でもあり、それを今のR-指定のリリカルセンスとは違った剥き出しの形で言語化したということも、そしてその内容性がクリーピーの持つ側面として強調されたということなど、色んな側面において「トラウマ」なんだと感じます。そして、あの楽曲は現実の事件にインスパイアされて、その犯人に自分たちを同一化したりシンパサイズしていますね。その曲のリスナーが、リリース当時の規模やリテラシーなら問題はなかったかもしれないけど、現在のように、より多くの、広範なリスナーに聴かれることになった時に、あの曲に同調してしまうリスナーを数多く生むことは、実は非常に危険なことでもあって。

R-指定:うん。

ーーその劇薬に対する処方薬が、「だがそれでいい」だと思うんですね。今回、「トレンチコートマフィア」は当時のRECのまま収録されている。その楽曲に昨年作られた「だがそれでいい」を繋げて、「トレンチコートマフィア」を“今”が救出することで、当時生み出した“過去のみにくいアヒルの子”がしっかりと白鳥になったと思いました。この回収がなければ、トレンチコートマフィアだった子たちは、ずっとあの盤やYouTubeの中で、ストレスフルな環境で、鬱屈して、銃を撃ち続けることになる。だけど、その子達を「だがそれでいい」と慰撫し、肯定して、未来を見せることで、救って、解放した。それは本当に感動的だし、見事な“決着”だと思いました。

R-指定:あの曲順にしたのは、そう思って欲しかったんですよね。だから、既発曲だけど

バラバラにリリースされたあの二曲を、繋げて展開させることに意味があったなって。

ーーその部分が一番強いけど、他にも「Stray Dogs」と「新・合法的トビ方ノススメ」が、射精のメタファーで繋がってたり、展開や構成がスゴく良くできてるなって。

松永:結構流れは考えたからね。

ーーそりゃそうでしょ(笑)。しかし「Stray Dogs」は、今みたいに真面目にこのアルバムを分析したことが損した気分になるぐらいしょうもない曲で(笑)。

R-指定:その反応が正解です(笑)。

松永:でも、これを入れないと俺らが俺らでなくなる! と(笑)。

ーー嫌なアイデンティティだな(笑)。

R-指定:アルバムの流れという部分で言えば、今はあんまりアルバムの曲順が重要な時代でもないじゃないですか。

松永:サブスクリプションだったら、プレイリストで切り取られるし、CDを買って、それをコンポに入れて聴く人って現状何人いるよ、って話で。だから、どれぐらいの人間が気づいてくれるか分からないけど、とりあえずアルバムとしてリリースするからには、CDとしてパッケージした時に、面白いモノにしたかったんですよね。

ーー「かいこ」のような、今の時代の話であり、同時にアーティストとして普遍的な内容の楽曲も興味深いですね。

R-指定:ラップの上手さって、年単位を越えて、月単位で更新されてると思うんですよね。同時に「何をもってしてラップが上手いか」という基準が、「韻を沢山踏むのが上手い」「フロウの乗せ方がアメリカと遜色ない」とか多様化しすぎて、明確な定義ができない。でも「これぐらいは全員できる」っていうハードルも年々上がってる。ラッパーとしては、そこはクリアし続けたいし、負けたくないんですよね。TRAPをクリーピーでやる気は現状ないけど、客演とかでそういうビートを渡された時に、たじろいだらあかんなって。今っぽいビートもちゃんとできることは、見せなきゃいけないと思いますね だから、ラップがもっと上手くなりたいというのは常に思ってます。

ーー「上手いこと言うな!」という、話芸としての構造の高さも今回は顕著だなって。

松永:それは俺も思います。

ーー相方大好きだな(笑)。

R-指定:俺も話芸としてのラップがスゴく好きなんやけど、それを表現する人、ラップを話芸として楽しく表現する時代では、今はなくなってきた感じがするんですよね。だからこそ、それを形にしたいなって。

ーー「紙様」が顕著ですが、色んな解釈ができるような構造を作る時に、作った側が再解説しないと伝わらないような、複雑すぎる構造にはなってないですよね。単純ではないけど、小難しくはない。

R-指定:例えばバトルでも、呂布カルマさんの影響とかもあって、韻やフロウではなくて、上手いことを言うとか、内容性で戦うラッパーも増えてるんですよね。だけど、バトルの一瞬じゃ分からない、後々で分かるぐらい難しい構成を出してしまって、いまいち伝わらないまま負けたりしてる子もいて。そこで思うのは“尻尾の出し方”の重要性なんですよ。ヒントが少ない多重構造だと、理解する手がかりが掴めない。でも、あまりにもわかり易すぎると、ベタであったり、駄洒落やん、みたいなことになってしまう。だから、伝えるための“尻尾の出し方”のバランスが重要やと思うんですよね。

松永:ただ難しいだけの独りよがりだと、いやらしくも感じるよね。

R-指定:でも後で分かってそういうことか! みたいなのも面白いし、そのバランスも一概には言えんのやけどな。

ーー「月に遠吠え」は、Rくんのソロ「使えない奴ら」と同じように、ワルツで展開しますね。

R-指定:三拍子の良いところは、言葉を詰めても不自然にならないところなんですよね。

松永:ビート的にも、三拍子の方がキャッチーなメロディが書けるんですよね。ドラムの手数も増えるから、クールすぎない構成にできるんですよね。

R-指定:三拍子って温かくなるよな。

松永:ノリが良くなるから温かくなるのかな。

R-指定:それに、メロも詰めたラップも、伸ばすフロウも、ワルツだと自由度が増すんですよね。

ーークロスリズムにもできるから、小節とリズムの構造性に幅が広がりますね。

松永:そうか。俺はハイハットを三拍子で打てば良いんだろう、って思ってただけだった(笑)。

R-指定:ワルツ展開で個人的に普及の名作だと思ってるのはSCARSの「1step,2step」なんですよね。

ーーBESがソロを取った曲ですね。

R-指定:日本語で「三拍子にラップを乗せられるのか」っていうことに対して、100%の回答を出した曲だと思うんですよね。とにかくスゴいレベルの曲やし、あの曲は「使えない奴ら」を作る前に、自分で歌えるようにしたんですよ。三拍子でラップをすることのお手本として、自分の身体にまず入れたのが、あの曲。お手本を体に入れないと、リリックを書くこともできないぐらい、三拍子のラップって難しいんですよ。だけど「1step,2step」は、詰める部分も伸ばす部分も、キレイに良いバランスで組合わさってるし、音楽的に三拍子になってる。その感覚を思い出しながら、「月に遠吠え」は作りましたね。

ーー今回のアルバムを「スポットライト」で終わらせた理由は?

松永:今までの動きを総括して、次の一歩へ進めるっていう意思を込めた曲だったんで、一歩目を踏み出すっていうリリックのある、この曲で終わらせるのが相応しいなって。

R-指定:特にあの曲の最後のヴァースがあったから、ですね。次に進むために、あのリリックが必要やった。それぐらい重要な曲になったと思いますね。

ーー「スポットライト」のブレイクビーツで引っ張るスタイルは、サウンド的にクリーピーに欠けてたポイントを埋める曲にもなったと思いますね。

松永:それは完全に意図的ですね。内容としても今までの流れを回収した曲を一発出さないといけないと思ったし、アルバムの新曲でMVを作るなら、絶対に最初はこの曲だなって。そういう意味でも“このタイミングで必要な曲”というイメージで組み上げた曲ですね。

ーーではその“次のステップ”はどうなるでしょう。個人的には、今回のアルバムは本当にスゴくいいアルバムだけど、イズムをストレートに表現する、クリーピーを一曲で表すような、クラシックとなる曲は、まだ生まれてないとはと思ったんですよね。

松永:でも、逆にまだ決定打が出てないっていうのは、後ろ向きなことじゃないですよね。

ーーそうそう。ネガティブな意味ではなくて、「スポットライト」のその先に、そういう曲が生まれる希望を感じています。

R-指定:俺もラッパーとして「これです!」っていうものが、まだ自分の中で形作れてないと思うんですよね。でも逆に俺は、味やキャラの濃い、登場しただけでクラシックみたいなラッパーと違って、「これ」っていう明確な濃さがないことこそが、自分のオリジナリティやと思ってたんですよね。だからこそ「みんなちがってみんないい」みたいな曲を作ることもできたと思う。だけどこのアルバムを作ったことで、いよいよ自分の根源的な部分や、培ってきたオリジナリティと向き合うべき時期になった。それが何なのかさえも、まだ見えないけど、それが見えたら作れると思いますね。

ーークリーピーってとにかく手が広いし、それをこの一枚で表したからこそ……。

松永:中心になるような曲が必要ですよね。マジで作りたいよね。

R-指定:こいつらといえばこれ、っていう。

松永:「クラシック作るぞ」と思ってクラシックを作ったら、めっちゃ格好良くない?

R-指定:めっちゃ格好いい。

松永:やろうよ!

R-指定:頑張って行きましょう!

(取材・文=高木“JET”晋一郎/撮影=山田将史)

Creepy Nuts『クリープ・ショー』

■リリース情報
1stフルアルバム『クリープ・ショー』
発売:4月11日(水)
価格:¥3,000+税

<収録曲>
M1.手練手管
M2.ぬえの鳴く夜は ※リード曲
M3.助演男優賞
M4.紙様
M5.Stray Dogs
M6.新・合法的トビ方ノススメ
M7.俺から退屈を奪わないでくれ
M8.かいこ
M9.トレンチコートマフィア
M10.だがそれでいい
M11.月に遠吠え
M12.スポットライト

Tower Records

■ライブ情報
『Creepy Nuts ワンマンツアー「クリープ・ショー 2018」』
6月8日(金) OPEN18:00 / START 19:00
会場:神奈川 川崎クラブチッタ
info : DISKGARAGE 050-5533-0888
6月10日(日)OPEN17:00 / START 18:00
会場:兵庫 神戸Harbor Studio 
info:GREENS 06-6882-1224
6月14日(水)OPEN18:30 / START 19:00
会場:茨城 水戸ライトハウス 
info:エイティーフィールド 03-5712-5227
6月15日(木)OPEN18:30 / START 19:00
会場:群馬 高崎club FLEEZ
info:エイティーフィールド 03-5712-5227
6月27日(水)OPEN18:00 / START 19:00
会場:岡山 YEBISU YA PRO OPEN18:00/START 19:00
info:夢番地岡山 086-231-3531
6月29日(金)OPEN18:30/START 19:00
会場:熊本 熊本B.9 V2 
info : BEA 092-712-4221
6月30日(土)OPEN18:00/START 18:30
会場:長崎 長崎DRUM Be-7 
info : BEA 092-712-4221
7月5日(木)OPEN18:15 / START 19:00
会場:静岡 浜松窓枠 
info:JAILHOUSE 052-936-6041
7月6日(金)OPEN18:00 / START 18:30
会場:京都 磔磔
info:GREENS 06-6882-1224 

チケット価格:前売り¥3,500円(税込/ドリンク代別)※全公演共通
チケット一般発売日:4月14日(土)10:00~
ツアー特設サイトはこちら

■関連リンク
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