兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第19回

ヤバイTシャツ屋さんはなぜ“普通歌にしないこと”を歌うのか 兵庫慎司がその作詞法を考える

 先日、『ROCKIN’ON JAPAN』の2万字インタビュー(ミュージシャンに自分の半生を語ってもらうこの雑誌の名物企画)を、こやまたくやに行う機会があった。このインタビュー、2018年3月30日に発売になった『ROCKIN’ON JAPAN』5月号に掲載されています。誕生から現在までを、ミュージシャンこやまたくやとしても、映像作家寿司くんとしても、そして素の小山拓也としても、正直に、しっかりと語ってくれているので、ぜひぜひ読んでいただきたいのですが(詳しくはこちら)、それはともかく。

 もちろん、その「なんでこの音でこの歌詞?」問題についても、改めて聞いた。彼の答えをざっくりまとめると、こんな感じだった。

①高校ぐらいの頃、曲を作ろうとしたことはあるが、とてつもなくダサいものしかできなくて、誰にも聴かせることなく葬った。今思うと、曲はかっこつけて作るものだと思いこんでいて、歌詞に普通にメッセージを込めようとしたり、韻踏んでみようとしたり、英語を入れようとしてみたりしたから、ダサいものになったんだと思う。

②大学3年でヤバイTシャツ屋さんを組む直前に、四星球のライブを観てショックを受けた。ダンボールの小道具を使ってむちゃくちゃなことをやっているのが衝撃的で、政治的なネタまであって、「うわ、こんなんやっていいの? 俺もやりたい!」と思った。

③ずっと好きなのはマキシマム ザ ホルモンや10-FEETやdustboxだったので、曲はそういうのがいい。でも歌詞やバンドのスタンスは四星球的な方法論もありなのか、と思って、「ネコ飼いたい」をはじめ、今自分が思っていること、自分の目の前にあること、自分の身近なことを歌詞にするようになった。

 以上、本人の弁でした。なぜこうなったのか、流れとしてはわかったが、さらにこの先のことも勝手に考えてみたい。その結果、彼が選んだのが「普通歌詞にしないような日常の些細なことをユーモア視点で書くこと」だったのは何故なのか、についてだ。

 まず、こやまたくやが好きなのがdustboxだけだったら、普通に英語で書いたのではないかと思う(dustbox、英語中心で、日本詞の曲は1割もないし)。つまり、彼がそれ以上に大好きで、自分のルーツにしているのが、マキシマム ザ ホルモンと10-FEETだったことが大きいのではないか。

 マキシマム ザ ホルモンの歌詞が、メロディに日本語を乗せる際の手法、それ自体をゼロから新しく作り直した、画期的でワン&オンリーで真似するのが不可能なものであることはご存知だろう。あのボキャブラリーも、言葉の組み立ても、それをメロディへフィットさせる方法も、マキシマムザ亮君という極めて特殊な人の脳内からしか生み出されないものだ。つまり、ホルモンを真似ようとすると、少なくとも歌詞に関しては、「形をなぞる」のではなく、亮君と同じように、「これまでのロックの歌詞とは違うことを違う歌い方で歌う方法を開発する」でなければいけない、ということになる。

 じゃあ10-FEETは? 熱くてストレートで聴く人の心に寄り添うような、王道メッセージソングな歌詞じゃない? と取る人が多いだろうし、実際それは間違っていないとも思うが、あのバンドはあのバンドで、自分が影響を受けた先人たちとは異なる方法を発明している。

 先人たちは英語だったが、自分は英語も日本語も使った。さらに、日本語と英語の両方を使う曲を書く際に、「サビ以外は英語、サビは日本語」という方法をとった。僕が最初に「RIVER」を聴いた時、もっとも驚いたのがこのポイントで、それが10-FEETの画期的なところだったと今でも思っている。

 80年代から日本のロックとかポップスとかニューミュージックとかを聴いてきた方ならご存知だと思うが、AメロBメロは日本語だけどサビでいきなり英語になるパターンのヒット曲、本当に多かったのです。特にロックとかニューミュージック方面で。BOØWYの「B・BLUE」とか、ZIGGYの「GLORIA」とか、レベッカの「Monotone Boy」とか。

 あれ、「英語を使ってかっこいい感じにする」という狙いもあるんだろうけど、それ以上に「サビのメロディに日本語を乗っけるのが難しいから英語に逃げる」ってことなんだろうなあ、と、子供心に思っていた。だから、そこが逆になった10-FEETの登場にびっくりしたのだ。Aメロは意味伝わっても伝わらなくてもいいから響き重視で英語、聴き手にちゃんと届いてほしいBメロとサビは日本語、ということか! と。いや、TAKUMAがそう考えて書いたのかどうかは知らないが、僕にはそう届いたのだった。

 これもホルモン同様真似できない。というか、真似した瞬間に「そのまんま」になってしまう。だからホルモンと同じく、この音に言葉を乗っける時の、自分オリジナルの方法を考えることが必要になる。

 そこでこやまたくやが発明したのが、あの「些細すぎて普通歌にしないようなことを歌にする」だったわけだ。ネコ飼いたいとか、週10ペースですき家に行っているとか、眠いとか、ドローン買ったのに法律が変わって飛ばせなくなったとか。

 ただし、「身近なことならなんでもいい」わけではない。どの曲でも必ず守られているルールがある。自分が本当にそう思っていることしかテーマにしない、ということだ。ネコ好きじゃないのにネコ飼いたいとは歌わないし、週3回しかすき家に行ってないのに週10であると申告しない、ということだ。

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