PKCZ®×スヌープ・ドッグのコラボはなぜ実現した? VERBALが語る、世界展開のビジョン
DJ MAKIDAI、VERBAL、DJ DARUMAによるユニット・PKCZ®の世界デビュー曲「BOW DOWN FT. CRAZYBOY from EXILE TRIBE」が大きな話題を呼んでいる。アメリカを代表するラッパーのひとり、スヌープ・ドッグと三代目J Soul BrothersのELLYことCRAZYBOYを客演に迎えた本作は、LAを拠点に活動するアジア系アメリカ人のプロデューサー・YULTRONがトラックメイキングに参加し、MVをメディアプラットフォーム・88 risingが担当、欧州の名門レーべル<SPINNIN’/TRAPCITY>から配信リリースされている。
これまでのJ-POPの枠組みを越えた、まさに世界デビュー作と呼ぶにふさわしい本作は、どのような経緯で生まれたのか。メンバーのひとりであり、LDHの国際事業部プロデューサーも務めるVERBALに、世界展開のビジョンについて話を聞いた。聞き手は、block.fm『INSIDE OUT』のMCを務める音楽ライターの渡辺志保。(編集部)
海外ではPKCZ®は新人
――今回の世界デビュー曲「BOW DOWN」ですが、共演者やパートナーとなるレーベルを見ても、かなり大規模な計画のようにも見えます。いつ頃から始動していた計画なのでしょう?
VERBAL:海外でDJするときに掛けられる曲を作ろうというコンセプトがきっかけです。昨年、PKCZ®の1stアルバム『360° ChamberZ』を出したんですけど、その時は自然と周りの仲間たちと作ったアルバムだったので、すごく〈国内規格〉みたいなアルバムになったんですよ。それはそれですごく自然な流れだったので良かったんですけど。
――J-POPテイストが強いという意味でしょうか?
VERBAL:僕の中では、あれは僕たちにとって究極のJ-POPだと思ってます。日本でウケる音楽って、日本でしかウケないじゃないですか。歴史的にもともと鎖国をしていたこともあるし、日本は日本で(商売をして)儲かるから、海外からも日本のマーケットを狙いに来てたくらいで。音楽にしても日本独自のアレンジ感――メロディとか「ここでこうなって、サビが来るよね」とか「ここで転調するよね」とか――日本のツボがある。『360° ChamberZ』ではそういう美味しいところを盛り込んだ方がいいね、っていう作品にしていたんです。逆に、そういう、〈J-POPトリガー〉がないものは『360° ChamberZ』にはあまり入れませんでした。
――では、「BOW DOWN」は逆に洋楽のテイストやトレンドに振り切った、と。
VERBAL:もともと最初から「こういうことしたいね」っていう話はあったんです。それこそ、去年から「Ultra Singapore 2017」や「Tomorrowland2017」など他の海外イベントでDJをしていて実感したんですが、みんなが絶対盛り上がる曲ってあるじゃないですか。だから、自分たちでそういう曲を作ろう、と。あと、PKCZ®を海外でブッキングしようという話になったときに、当たり前ですが海外ではPKCZ®は新人なんです。だから、海外のブッキング・エージェントから一言目に言われるのが「じゃあ、どんな曲を出してるのか、最近の曲を送ってよ」って台詞で。さっきの話じゃないですけど、そこで日本でウケる音楽を送っても、「え? これは日本ではいいかもしれないけど、ウルトラとかトゥモローランドでは掛けないでしょ?」ってなってしまいますよね。なので、フロアで映えるキラーチューンをリリースして、実績を残せればなと。
――なるほど。そして、「BOW DOWN」のフィーチャリング相手には、あのスヌープ・ドッグが。
VERBAL:やっぱり、僕たちはヒップホップを聞いて育ってきたし、海外のフェスなんかも視野に入れたときに「フィーチャリングするなら、相手は誰もが知っている人がいいよね」と話していて、スヌープの名前が出たんです。
――スヌープとのコラボの経緯は?
VERBAL:実は今回、ファーイースト・ムーヴメント(以下、FEM)のメンバーのケヴィンらがすごく手伝ってくれていて。FEMはもともとスヌープとマネジメントも一緒だったので、ケヴィンに相談したら「オッケーぽいよ」と返事が来て。でも「このトラックでどういう風にラップしていいか分かんないから、ちょっとサジェッション(提案)して」と言われて、〈スヌープにこういう風なことを言ってもらいたい〉という内容をレイアウトした歌詞のアイディアを送ったんです。昔のアイス・キューブの楽曲にもありましたけど、テーマが「Bow Down(頭を下げる)」ってことで、僕たちのジャパン・ライクなお辞儀の意味とか、スヌープのフックの部分、”Bow down to the east, bow down the west“ という和洋折衷のような、西洋と東洋がミックスされるみたいなことを言ってもらいたいとリクエストして。そしたら、スヌープが自分で歌ってくれてトラックを送り返してくれたんです。
――今回はレーベルかつプラットフォームとしても機能しているSpinnin' Recordsと、キュレーション能力も非常に高い88risingという二者との強力なサポート体制も実現していますよね。
VERBAL:PKCZ®が海外で活動する際、どうやっていこうかとケヴィンにもすごく相談していて。いきなりどこかメジャーと契約して「よろしくお願いします」っていうのは、プロモーション的にも、市場的にもなかなか難しい。「どういうやり方が効果的なのかな」と話した時に、今ってYoutubeでMVと曲を発表して、みんな、それをそのままインスタで見る…と連動するじゃないですか。だったら、Spinnin' Records(以下、Spinnin’)というプラットフォームがあって、彼らもサブ・レーベルとしてTrap Cityなんかをやってるので、すごくいいと思うよって提案されたんです。楽曲に関しても、Spinnin’からいろいろと親身に「もっとこうした方がいいんじゃない?」ってアドバイスして頂いて。
――では、レーベルとサウンドに関してはかなり有機的な形でプロジェクトがスタートしたんですね。
VERBAL:時系列から言うと『360° ChamberZ』の時に、すでに「BOW DOWN」もできていたんです。今の完成系とは違う、もっとバキバキした激しいトラップでした。当初はもっと早く、去年の年末くらいには出そうと思ってたんですけど、「ここはもっとじっくりゆっくり考えて、MVもしっかり作って出そう」という話になって。LAに住んでいるトラックメイカーのYULTRONも参加してくれてますが、Spinnin’が「今のトレンドはこれから変わっていくから、YULTRONと一緒に相談して、もうちょっと(トラックを)変えよう」とうアドバイスをくれて、今のトラックになったんです。僕とELLYも再度ラップを録り直して、今の完成形が出来上がりました。
――一方の88risingは、新しい形でアジアのヒップホップ・シーンとUSのヒップホップ・シーンを繋ぐ役目も担うプラットフォームですよね。
VERBAL:曲を録ってMVを作ろうという段階で「誰にMVを頼もう?」と。最初、「テイスト的に88risingっていいよね、誰かそういう人いないかな?」と話してたら、知り合いが88risingの社長のショーンと繋いでくれて。それでやってもらうことになったんですけど、よく考えたら88risingとSpinnin’って競合なんですよね。最初、僕もウッカリ進めていたんですけど「あれ、これは競合同士だからヤバイかな」と思ってショーンに聞いたら「いや、PKCZ®は前から気になってたし、ウチらは制作だけさせてもらえれば全然いいよ」と言ってくれて。