De-LAXの夢は今からだって語れるはずだーー小野島大による『30th Anniversary』レポート

 『De-LAX 30th Anniversary』と題された、De-LAX5年ぶりのライブである。De-LAXが宙也(Vo)、鈴木正美(Ba)、京極輝男(Per/Key)らで結成されたのは1985年のことだから、2018年は33年目にあたるはずだが、なぜ「30周年」なのかと言えば、高橋まこと(Dr)と榊原秀樹(Gt)が加わり、メジャーレーベル契約時のメンバー、言ってみれば全盛期のメンバー5人が揃い、初ライブを行ったのが1988年2月18日だったからだ。彼らにとってはこの5人が揃ってこそのDe-LAXであるという思いが強いのだろう。それはファンにとっても同じで、この日のチケットは発売と同時にソールドアウト。会場は立錐の余地もない超満員だった。ちなみに会場の新宿ロフトは、30年前の2月18日と同じ。ただし30年前は西新宿の旧店舗だった。解散、再結成、活動休止など紆余曲折を経ての30年。その分歳をとったメンバー、そして観客がフロアを埋め尽くしている。

 開演前、かつての懐かしいプロモーション写真がスクリーンに映し出され、気分が盛り上がったところで幕があき、1stアルバム『SENSATION』(1988年)収録の「突然炎のごとく」でライブが始まった。そこから6曲続けて『SENSATION』収録曲が演奏される。『SENSATION』からは結局アルバム12曲中10曲もプレイされた。ライブ全体のバランスを考えれば明らかに多く、ちょっと意外だったのだが、もちろんこれは30周年ライブだからだろう。30年前のロフトのセットリストまではわからないが、当然『SENSATION』収録曲が中心になっていたはずだからだ。

 驚いたのが、観客のほとんどが楽曲を熟知していて、イントロと同時に大歓声がわき、大合唱で応えていたこと。当たり前と言えば当たり前だが、ここ5年間満足な活動もしていなかったバンドであっても、ファンは忘れることなく待ち続けていたのだ。熱く観客に共有された幸福な楽曲、そしてそんな観客に支えられた幸福なバンド。その光景はやはり感動的である。

宙也(Vo)(撮影=大島康一 )

 「(89年に)De-LAXは武道館でやったんだけど、その時舞い上がって俺がうっかり次の曲のタイトルを言っちゃって、飛ばしちゃった曲をやります」と宙也が言って演奏されたのが「CANDY」。武道館公演の直前にリリースされたシングル曲だ。29年目にして明らかにされたお茶目な裏事情に観客は沸く。ライブ開始直後はやや緊張の色も見えたメンバーも、この頃になるとすっかりリラックスした様子だ。鈴木正美が「あのさ、"正美"(と呼ばれるの)は受け入れるけど、"鈴木"は勘弁してくれよ!」と言って観客を笑わせると、すかさず観客から「高橋(まこと)!」とかけ声がかかる。メンバーも観客も笑顔が絶えない。演奏も往年のように勢いに任せて性急に飛ばすというよりも、全体的にテンポを心持ち落として、余裕のあるグルーヴ重視のものになっている。それは加齢というより、バンドの成熟を示すものと私は受け取った。演奏の切れ味とタイトさは5年間も人前でプレイしていなかったバンドとは思えない。

鈴木正美(Ba)(撮影=植田信)

 ライブがいよいよ終盤のクライマックスに差し掛かると、確か「SERIOUS MOOD」の途中だったか、宙也が突然歌うのを止めてステージから去ってしまう。演奏はなし崩し的に終わり、キツネにつままれたような表情のメンバーもステージを下りる。明らかに予定外だったのだろう。「こんな中途半端な形で終わり?」と呆然とする客席は静まりかえり、しばらくしてようやくアンコールの手拍子がパラパラと起こる。

 ややあって再登場したメンバー。宙也が「さっきは感極まって歌えなくなっちゃった」と謝罪して、おそらくは中断のあとにやるはずだった「CRAZY BOY」を歌い始める。よくいるカリスマを気取ったロッカーというより、こういう生真面目で人間的なところが宙也の魅力なのである。

 サイレンが鳴り、始まるのは1stアルバム収録の「WAR DANCE」。「NO MORE WAR」という発売された30年前も今も変わらぬ普遍的なメッセージを持った強力なロックナンバーだが、この日は「No More Fuckin' A・B・E!」というアジテーションと共に演奏。本来であれば本編最後にやる予定だったはずがアンコールでのプレイになったが、De-LAX最大のキラートラックに、フロアはさらに沸騰する。1stアルバムのタイトル曲「SENSATION」で、ライブは最高の盛り上がりのうちに終わった。

京極輝男(Per/Key)(撮影=植田信)

 若いうちは誰でも夢を語る。自分の未来が光り輝くものであることを誰も疑いはしない。だが年齢を重ねるにつれ、未来よりも過去を振り返ることが多くなる。そして夢ではなく想い出を語るようになって、人は老いていく。ロックバンドも同じだ。新曲をやるでもなく、新作アルバムを作るでもなく、ただ過去のレパートリーのみを、昔馴染みの観客を前にプレイする。エンターテインメントのあり方として間違ってはいない。だが、演奏の質やコンサートとしての完成度は別にして、バンドとしては既に現役第一線から後退し老年期に入っている証拠だ。

榊原秀樹(Gt)(撮影=大島康一)

 この日のライブで演奏されたのは24曲。すべてが過去のレパートリーで、観客は昔からの熱心なファンが中心。5年ぶりのライブで、最新アルバムが10年前なのだから当然とも言える。30周年をファンと共に祝う。ファンはしばし過去に戻り、共有した記憶を共に確認し、30年前と変わらぬアーティストを観て安心する。バンドも観客も、既に若くない。夢を語るような歳ではないのだ。

高橋まこと(Dr)(撮影=大島康一)

 だが、本当にそうだろうか。本当にDe-LAXは過去を語るしかない、老年期に入った未来のないバンドなのだろうか。事前にメンバーからは「これが最後のライブになるかもしれない」と聞いてはいたが、終わった今となっては、とてもそうは思えない。メンバーの顔にはやりきった満足感が浮かんでいたが、それ以上に自分たちがまだまだ現役第一線のバンドとしてやれるという手応えのようなものを感じたのではないか。この日の彼らの楽曲は観客からの熱いエネルギーの放射によってさらにエネルギッシュなものとなっていた。その一体感は、他では得られないものだったはずだ。

 宙也が「感極まった」のは、30年間の想い出が去来してのものなのか、それとも「この幸福な時間を、もうこのバンドともファンとも共有することはない」という感慨なのか、それともまた別の思いがあったのか、それはわからない。もしかしたら本人にもわからないかもしれない。

 言えることはひとつ。De-LAXが過去のバンドなのかどうか、この日のライブが本当に昔話を語り合うだけの同窓会だったのか、それは今後の彼らの意思ひとつで決まるということだ。バンド活動休止後、誰も音楽を辞めていなかったからこそ、自分たちはこのステージに立てた、と宙也は現役のミュージシャンとしてのプライドを語った。

 ならば、今からだって夢は語れるはずだ。De-LAXの夢を。De-LAXと共に見る夢を。

(撮影=植田信)

(写真=植田信)

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

■リリース情報
ライブ DVD『De-LAX 30th Anniversary 2018.2.18 新宿LOFT』
発売:6月9日(土)
価格:¥4,000
3月31日までの早期予約特典:特製ポストカード7枚組
予約受付

関連記事