the GazettE、ハロウィンライブで見せた“蠱惑的な魅力” サウンド・ヴィジュアルの両面から検証
the GazettEは実に蠱惑的なバンドだ。鋭利で猟奇的な攻撃性を見せながら、妖しく官能的な艶めかしさをも持ち合わせる。そのサウンドと佇まいは、観るもの聴くものの心に揺さぶりを掛け、惑わし、狂わせていく。親しみ易さとは相反する近寄り難いロックスター……、いや、「危険な香り」を嗅ぐわす、ダークヒーローこそ相応しい。
2月28日にリリースされる『HALLOWEEN NIGHT 17 THE DARK HORROR SHOW SPOOKY BOX 2 アビス-ABYSS- LUCY-ルーシー- LIVE AT 10.30 AND 10.31 TOYOSU PIT TOKYO』は、まさにそんな彼らの魔性な魅力を思う存分に堪能できる映像作品だ。2017年10月に東京と大阪、全4公演を行ったハロウィンライブより、10月30、31日の豊洲PIT公演の様子を収録したものである。第一夜「アビス」、第二夜「LUCY」とそれぞれ題されたライブは“静と動”という、バンドの持つ両極な二面性を体現したコンセプチュアルなものだ。
朽ちたコンクリート、廃墟と化した病棟を模したステージ。白衣姿のメンバーが奏でる「Bath Room」で、第一夜「アビス」ははじまる。「名もなき病棟へようこそ。ここに招かれたキミたち……、今日最善を尽くすことを、今ここで誓おう。さぁ、はじめよう……」聴診器を首に掛けたRUKI(Vo)が黒縁の眼鏡を神経質そうに触りながらゆっくり口ひらくと、無機質なシーケンスが流れ「Bath Room」の真相が描かれる「DRIPPING INSANITY」へとつづいた。立て続けに演奏される“死”を連想させる楽曲にこの日のコンセプトが浮き彫りになる。重々しい詞を響かせていくRUKIの表情は冷淡でありながらも、発せられる歌声は天鵞絨のように滑らかで妖艷だ。漆黒の革手袋を嵌めた右手で真っ赤なマイクケーブルをしなやかに捌く姿は、マッドサイエンティスト。そんな彼を支える4人も寡黙に轟音を吐きだし、会場を覆うグルーヴは蠢く生命体のごとく、けたたましく痙攣しているようにも思えてくる。
「アビス “ABYSS”=深淵」のとおり、この日のライブはthe GazettEの深淵の、深遠なるダークサイドともいうべきものだ。悲壮感を漂わせるアカペラで始まった「体温」、不安定な情緖が閉塞感の中で暴れだす「千鶴」。仄暗い静寂の底から響く悲痛な叫びと美麗なメロディが胸を抉ぐる。ドラマティックなラストの「DOGMA」まで、心の奥底に内包する独自の世界観を貫ぬいた。
第二夜「LUCY」は2017年のハロウィンライブ『the GazettE HERESY LIMITED THE DARK HALLOWEEN NIGHT [-SPOOKY BOX-]』に引き続き、シリアルキラー「CREEPY DEAD PUPPETS」のお出まし。それぞれのキャラクターを打ち出したハロウィンらしいサイコホラーな出立ちだ。
〈「傲慢」「羨望」「憤怒」「怠惰」「貪欲」… 〉ドアタマからハイスピードナンバー「RAGE」で獰猛に襲い掛かる。ステージ上の至るところに飾られた燭台と天井から吊られた幾多ものロープが、“SPOOKY(不気味)”な様相を彩っている。カラフルでグロテスクな5人の殺人鬼たちは間髪入れずにさらなる地獄の奥へと引きずり込んでいく。
「HEADACHE MAN」「GABRIEL ON THE GALLOWS」……、序盤からラストスパートさながらの怒涛。ヘヴィでダークなサウンドが猛り狂い、RUKIの邪悪なグロウルが咆哮する。轟音の洪水に溺れるように、フロアで激しく揺れ動く、突き上げられたオーディエンスの無数の腕、乱れ打つ頭……、the GazettEが創り出すカオスティックな空間は凄まじい。烈しくも美しい激情はますます暴走し、「地獄へようこそ!」のRUKIの大号令に土下座するオーディエンスが一心不乱にアタマを振り乱す「関東土下座組合」まで、息つく暇などなく、容赦なく続いた。
近年の彼らの得意とする鋭利な攻撃性を剥き出しにした第二夜「LUCY」だったが、ここまでロックバンドとしてのタフさを思い知らせるとは、正直思ってもいなかった。激しい楽曲を立て続けに演奏する力量とスタミナ。なによりも見事なまでのライブ運びは、自分たちのファンに向けたものだけではないライブ、数多くのフェスやイベントで叩き上げてきた百戦練磨の証なのかもしれない。「ライブとはなんであるか?」をきちんと解っているバンドなのだ。
第一夜「アビス」は妖艶に情緒を操るメロディアスな楽曲が、こんなにもあったのかと再認識させられた。重いサウンドと艶めかしいメロディを、侘び寂びのエッセンスを散りばめながら不気味に奏でていく様に、彼らが日本のバンドであることをあらためて痛感している。
本作はハロウィンという季節行事の中で、いつもとは違う特別感のあるライブを収めたものだ。しかしながら、サウンドとヴィジュアルを融合させたエンターテインメント性を含め、the GazettEというロックバンドの現在を知るに最適な映像作品でもある。二面性という対となるテーマで、楽曲も衣裳もまったく異なるものであるのに成立してしまうのはヴィジュアル系ならではであり、それを掲げながら飽くなき音楽探究を続けてきた彼らだからこそ成せる業だろう。海外のロックをただなぞることだけでは絶対に到達できないものがここにあるのだ。
そして、the GazettEは今なお進化し続けていることもわかるはずだ。現在、春リリースのアルバムを制作中だという。一体、次は何を企んでいるのだろうか。楽しみで仕方ない。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter
■リリース情報
『HALLOWEEN NIGHT 17 THE DARK HORROR SHOW SPOOKY BOX 2 アビス-ABYSS- LUCY-ルーシー- LIVE AT 10.30 AND 10.31 TOYOSU PIT TOKYO』
発売:2018年2月28日(水)
DVD:2枚組・通常盤ONLY価格:¥6,500(税込)
Blu-ray:1枚組・通常盤ONLY価格:¥7,500(税込)
〈収録内容〉
[アビス(LIVE AT 2017.10.30 TOYOSU PIT)]
01.Bath Room
02.DRIPPING INSANITY
03.BIZARRE
04.BURIAL APPLICANT
05.虚無の終わり 箱詰めの黙示
06.奈落
07.RUTHLESS DEED
08.DEUX
09.体温
10.千鶴
11.OMINOUS
12.13STAIRS[-]1
13.TO DAZZLING DARKNESS
14.DIM SCENE
15.DOGMA
[LUCY(LIVE AT 2017.10.31 TOYOSU PIT)]
01.RAGE
02.DAWN
03.HEADACHE MAN
04.BEFORE I DECAY
05.GABRIEL ON THE GALLOWS
06.VENOMOUS SPIDER'S WEB
07.CLEVER MONKEY
08.Maggots
09.COCKROACH
10.VERMIN
11.The $ocial riot machine$
12.UGLY
13.BLEMISH
14.DISCHARGE
15.関東土下座組合
■関連リンク
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