ゴールデンボンバー楽曲の根底にあるもの 最新作『キラーチューンしかねえよ』から読み解く
そんな状況を反映しているのが1月31日にリリースされた、2年半ぶりのオリジナルアルバム『キラーチューンしかねえよ』というタイトルなのではないかと考える。ブログによるとこのタイトルはある種のフェイクでただ良い曲が入っているということだが(参照:鬼龍院翔オフィシャルブログ)、ルサンチマン、フラストレーションの果ての直球の開き直りではないだろうか。
昨日公開されたインタビューでは、「女々しくて」を超えるヒット曲が出せないことをスランプだと悩んでいたと明かしており、しかし今では「もうヒットしなきゃという悩みからは脱出して自分が良いと思った曲を作るのみです」と語っている(参考:Uta-Net)。
成功を獲得し、それでも手に入らないものはある、しかしながら自分が信じることをやるしかないという境地にたどり着いたゴールデンボンバー。本作には歌謡テイストの「燃やして!マイゴッド」からタイトルそのままのサビがくせになる「海山川川」、そして「お前を-KOROSU-」ではモテ男に対しての怨念を爆発させ、「#CDが売れないこんな世の中じゃ」とパンキッシュに叫ぶ。しかしやはり根底にあるのは持たざる者の情念である。そして売れる前から売れた後でも一貫してそのルサンチマンは「やさしい」のが特徴だ。たとえばPVが先行公開されていた「やさしくしてね」やアルバムを締めくくる「ドンマイ」は聴くものに優しく寄り添う。J-POPの申し子と呼べるような鬼龍院翔の才能がつまった13曲が収録されている。
本作リリースの際にも、「メンバーも初聴き」というエアーバンドならではのギミックを仕掛けたライブを1月29日に東京・豊洲PITで行い、そこで収録曲の「誕生日でも結婚式でも使える歌」は「いろいろなところで使ってもらえたら」使用料フリーであることを発表。多くの人に届くのであれば替え歌もいとわないように、「ユーザー本位」なのも彼らの「やさしさ」なのかもしれない。思い返せば、ブレイク前に口コミで広がった理由のひとつは、常識破りの「安価なワンコインシングル」だった。コストを下げるためコロッケ用の袋に入っていたという。「良い曲をユーザーの手に取りやすいように」というスタンスは昔から変わらない。
今週の『ミュージックステーション』では『キラーチューンしかねえよ』収録曲を2分半で全曲披露するという。また彼らのことだから、こちらの予想の遥か上を行くインパクトあるギミックを考えているに違いない。しかし、これを機会に楽曲もしっかりと聴いてほしい。なぜならば、そこで披露される曲にはキラーチューンしかねえ、のだから。
■藤谷千明
ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。執筆媒体は「ウレぴあ総研」「サイゾー」「SPA!」など。Twitter