“その場所、その瞬間”でしか生まれない映像と音楽の融合 ヴィンセント・ムーン来日公演を見て
Arcade Fire、Phoenix、Battles、R.E.M.、Bon Iverなどが、地下鉄、路上、カフェ、エレベーターの中といった場所で即興アコースティック演奏を繰り広げる映像作品シリーズ「TAKE AWAY SHOWS」。アーティストの有機的なパフォーマンスを手持ちのカメラで撮影したドキュメンタリータッチの作品によって世界的な評価を得た映像作家、ヴィンセント・ムーンが2017年12月、京都と東京で日本人アーティストとの共演による公演を行った。12月22日の京都公演(会場:UrBANGUILD)には、YoshimiO collaBO、オオルタイチ+金氏徹平とザ・コンストラクションズ、12月27日の東京公演(会場:原宿VACANT)にはテニスコーツ、青葉市子、ASUNAが出演。モダンアート、先鋭的な音楽、宗教と神話の世界で生きる人々を映した映像による、きわめて有意義なコラボレ—ションが実現した。
パリ出身の映像作家・ヴィンセント・ムーンは、撮影者と被写体の関わり自体を記録する“シネマ・ヴェリテ”という手法で知られている。前述した「TAKE AWAY SHOWS」は、その手法をアーティストに応用した作品と言えるだろう。ヴィンセント・ムーンはこの他にも、『花々の過失』(フォークシンガーの友川カズキのドキュメンタリー映画)をはじめ、膨大な映像作品を残している。その多くは彼のホームページで視聴できるので、ぜひチェックにしてみてほしい。
2008年からヴィンセント・ムーンは、カメラ、リュック、パソコンを持って世界を放浪する旅を続けている。アジア、中東、アフリカ、南米などを旅して、それぞれの土地の音楽を記録した映像作品を発表。フィールドワークによる本作は「ノマドフィルムメイキング」と呼ばれ、「TAKE AWAY SHOWS」に続く彼の代表作となっている。世界各国の土地で培われ、現地の人々のなかで伝承されている音楽表現を、彼は「ローカル・ミュージック」と位置づけ、収録された音源は、彼自身が立ち上げたレーベル<Collection Petites Planetes>からリリースされている。さらに現在は、日本の音楽の源泉を追い求める『響・HIBIKI』のプロジェクトが進行中。12月の来日公演も、その一環と言っていいだろう。
原宿VACANTで開催された東京公演は、ASUNAのパフォーマンスからスタート。ミニオルガン、エレキギター、リズムボックス、アナログシンセ、さらに様々な種類の玩具(コマ、ねじ式のカエルなど)の音を交えながら、アンビエント、サイケデリック、ノイズミュージックを自在に行き来するアクトは、実験的にしてポップ。現代アートと音楽を結びつける刺激的なステージだった。
続いては、青葉市子。クラシックギターの弾き語りで、神話的な世界観と祈りにも似た響きを持った歌詞、クラシック、賛美歌、フォークソングが溶け合うようなメロディを奏でる。特に<くらやみのなか/繋いだ手から/なくしてきたもの みえるよ>と歌う「神様のたくらみ」、<あなたに降り注ぐ/朝日になって/日の出とともに願う>というフレーズを持つ「路標」は強く心に残った。
そして、さや(Vo)、植野隆司(Gt)によるユニット、テニスコーツが登場。さやの鍵盤ハーモニカ、植野のアコースティックギターが生み出すミニマムでオーガニックな音響、そして、言葉の響きを活かしながら、生きることの根源を射抜くような歌が広がり、凛とした緊張感へとつながる。途中、青葉市子が参加し、繊細なコーラスを乗せる場面も。さらに「ムーンさんも何かやって」(さや)という呼びかけにヴィンセント・ムーンが応え、サバンナの自然を映し出す映像を会場の壁に投影。日本語の美しさ、豊かなメッセージを豊潤に含んだ楽曲、大自然のロードムービーと呼ぶべき映像がひとつになった素晴らしいステージだった。