“その場所、その瞬間”でしか生まれない映像と音楽の融合 ヴィンセント・ムーン来日公演を見て
その瞬間、その場所でしか起こりえない、一回性の芸術である音楽の本質を照らし出す3組のステージのあと、ヴィンセント・ムーンの映像をじっくり堪能する“LIVE CINEMA”(ヴィンセント自身の撮影した映像をその場で編集する表現手法)のセクションが始まる。
海、砂浜のシーンから始まり、ジャングル、サバンナの映像へ移行、さらに世界各国の音楽、舞踏、宗教的な儀式(たとえばスーフィー教徒の儀式、北方ロシアの礼拝、コーカサス地方のフォークロア、山村で受け継がれるグルジアの合唱団)などの貴重な映像が次々と映される。太古から伝わるリズム、歌、ハーモニーが響き、生々しく、ビビッドな色合いの風景と融合するーー音楽という芸術の根幹につながる映像の迫力、美しさはまさに圧巻だった。
さらにこの日の出演者がステージに登場。ヴィンセント・ムーンの映像に合わせて、アコギ、声、ノイズを奏でる。クライマックスはテニスコーツの代表曲「光輪」が演奏されたときに訪れた。宗教的な儀式でトランス状態になっている男性の姿と“世俗を離れ、帰るべきところに帰ろう”という思いを込めた「光輪」の歌詞が重なった瞬間は、この夜のイベントの意義をダイレクトに体現していたと言っていい。
ヴィンセント・ムーンは、今年の6月に京都市立芸大のギャラリー@KCUAでインスタレーション作品を展示することが決まっており、5月に再来日する予定だ。そのツアーでの経験も、『響』プロジェクトの新しい流れを作っていくはず。“その場所、その瞬間”でしか生まれない映像、音楽を積み重ね続ける彼の表現がこの先、どこに向かっていくのか? こんなにも知的好奇心を刺激されるアーティストは本当に稀だと思う。
(Photo by Ryo Mitamura)
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■プロジェクト概要
『響HIBIKI』
日程:2018年春から2019年(予定)
場所:日本各地域
製作チーム:Vincent Moon(映像作家)、Priscilla Telmon (作家、写真家)、川上アチカ(映像作家)
ヴィンセント・ムーン オフィシャルサイト
『響HIBIKI』オフィシャルサイト