「田中秀臣の創造的破壊」第4回

PRODUCE48に見る、日韓アイドル市場の今 田中秀臣が特徴を解説

 対して、韓国側はどうだろうか? ここでは簡単にふたつのことが指摘できる。ひとつは、日本の女子アイドルファンたちを、韓国の女子アイドルに容易に接近するひとつの経路になることである。日本の女子アイドルファンの多くを占める男子ファンの大半は、日本のアイドルを中心にアイドル消費を行っている。韓国の女子アイドルはとりあえず別枠とみなされているだろう、補完的、代替的な関係いずれでもなく単に無関心が主流ではないか?

 だが、日本の男子ファンを、日本の女子アイドルと同時に韓国女子アイドルをもその消費対象とすることが恒常的にできれば、それは日本のアイドル市場の厚みからいえば、韓国側にも大きなメリットだろう。その意味では、AKB48のメンバーが積極的に、このPRODUCE48に関与していく可能性が大きい。日本の男子ファンを引き込む「導入」としての役割である。

 もうひとつのメリットは、海外での韓国アイドルの輸出先の多様化を図れる可能性である。2016年の統計では、K-POPなど韓国音楽関係サービス(CD販売、音楽配信、チケット販売、関連商品売り上げなど)の海外からの収入は、47億ドル(日本円で5170億円相当)であると推計されている。CJ E&Mはその中核的な担い手を今後も目指している(参考:ブルームバーグ)。他方で、ここ一年半ほどは、中国市場にK-POP輸出の点で赤信号が点滅している。もちろん、2016年7月に韓国政府が終末高高度防衛ミサイルTHAADの配備を表明したことをうけて、中国政府が対韓国への経済・文化的制裁を行ったことによる。中国のこの限韓令(韓流禁止令)によって対中国のK-POPなどの輸出は急減している。おそらく現状で、対前年比で30%近い減少になると予想される。

 BBCニュースでは、27歳の中国の女子ファンが、中国のこの禁止令に理解をしめす一方で、香港やタイなどに韓国アイドルを見に行くために、多額の出費を強いられている状況を報道していた。ちなみに中国国民の80%がこの禁止令を支持しているというのが中国政府側の発表である。この禁止令が長期化すれば、韓国のアイドル戦略はかなりの変更を強いられるだろう。その代替的・補完的な経路としてより日本市場に傾注する理由が生まれている。その意味でも日本国内で、PRODUCE48、そして韓国アイドルにより一層関心がいくことは大きな魅力だろう。

 実際の『PRODUCE48』がどのような番組になるのかはまだわからない。だが日本のアイドル市場がより国際的な場でその競争力を試される機会のひとつになることは間違いない。

■田中秀臣
1961年生まれ。現在、上武大学ビジネス情報学部教授。専門は経済思想史、日本経済論。「リフレ派」経済学者の代表的論客として、各メディアで発言を続けている。サブカルチャー、アイドルにも造詣が深い。著作に、『AKB48の経済学』、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』『デフレ不況』(いずれも朝日新聞出版社)、『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)など多数。『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社)で第47回日経・経済図書文化賞受賞。好きなアイドルは北原里英、欅坂46、WHY@DOLL、あヴぁんだんど、西恵利香、鈴木花純、26時のマスカレイド、TWICEら。Twitterアイドル・時事専用ブログ

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