『The Harvest Time』インタビュー

Caravanが語る、音楽にこめた平和や自由への思い 「いつもそこにあるものとして表現したい」

愚か者だからできるアドベンチャーもある

――6曲目「モアイ」。これは以前(2006年)、SMAPに提供した楽曲ですが、もともとSMAPをイメージしながら書いたものなんですか?

Caravan:いや、SMAPのことを考えて作ったわけではなく、たまたま直球のラブソングができちゃったので、これは自分のアルバムには入れないだろうなと思っていて。そんなときにたまたまSMAPからの話があったので、これを聴いてもらったら気に入ってもらえたんですよ。

――どうしてそのとき、自分のアルバムには入れないだろうと思ったんですか?

Caravan:自分で書いたのに歌うのが照れ臭かったんです。

――ああ、<そばにいて欲しい 離れないでいて欲しい>ってところとかが……。

Caravan:当時はめちゃめちゃ恥ずかしかった。何を言っちゃってんだ俺は、みたいな(笑)。夜中に書いた手紙を翌朝読み返して恥ずかしくなる感覚に近いものがありましたね。でもそれを日本最高峰のアイドルグループがああやって歌ってくれたから、そこで一回自分の手を離れて独り歩きさせることができたというか。で、そこから時間が経って、今はセルフカバーするような気持ちで歌えるから。

――照れずに歌えるようになったし、むしろ積極的に歌いたくなったと。

Caravan:おじさんになったんですかね(笑)。それとあと、SMAP、解散したでしょ。そしたらこの歌は誰にも歌われないわけじゃないですか。そうなるとやっぱり親としては、行くあてのなくなった子供を引き取らなきゃなって思って。

――結果、素晴らしいテイクになりましたよね。今のCaravanの歌唱だからこそ沁み入ってくるものがある。サビのところに棟元さんのチェロが入ったことで奥行きも感じられるし。若者が歌う<そばにいて欲しい 離れないで欲しい>とは違う情感が滲み出ている。

Caravan:哀愁というか、ちょっともうあとがない感じが出てますよね(笑)。

――ははは。でもそこがグッとくるんです。そして7曲目が「Chantin’The Moon」。このなかで歌われている<Om Hare Krishna Krishna>というのはどういう意味なんですか?

Caravan:ラヴィ・シャンカルとかジョージ・ハリスンとかがよく唱えていたインドのマントラで、自分の心とか身の回りの人とかを穏やかにさせるものなんです。(ビートルズの)「Across The Universe」みたいな曲を作りたいと思って書いた曲で。

――これも即ち、「Heiwa」のメッセージに繋がっている。

Caravan:世界を変えるには、大きなことはできないけども自分と自分の身の回りからって思っていて、それがひょっとしたら世界平和の一番の近道かもしれないし。っていうのが、自分に言い聞かせるようにあって。

――9曲目「Maybe I’m a Fool」ですが、この曲にはまさしくCaravanの生き方・行き方が表れているように思います。

Caravan:「何歳にもなって、そんなばかなことはやめなさい」みたいなことを人は言うじゃないですか。でも、ばかだからできることってあると思っていて。例えば「メジャーにいたのに、なんでやめてレーベルを立ち上げるんだ?  ばかじゃないか」って言う人もいた。だけど、ばかだから見ることのできる景色、愚か者だからできるアドベンチャーもある。ばかなりに自分の信じたことをやっていきたいし、そもそも決して賢者になりたくてやってるわけじゃない。愚か者でいいやって思っている自分もいて、そういう意味で、これはちょっとした決意表明というかね。

――それ、めちゃめちゃ共感できる。

Caravan:何が正しくて何が間違いなのか。何が賢くて何がばかなのか。それって人それぞれだし、結局は自分の哲学しかないじゃないですか。人はとやかく言うけど、それを気にしてもしょうがないし。自分でちゃんと結果を出すんだという覚悟があれば、それは立派な選択なんじゃないかと思うんですよね。

――この曲のなかで<何を無くしても 奪い取られても 消せない光があるんだ>と歌っていますよね。それから「夜明け前」ってタイトルの曲もあるし、「Stay With Me」では<朝陽がいま昇る>と歌っている。光とか朝陽とか夜明け前といった言葉にCaravanにとっての希望だったり願いだったりが象徴されているように思うんですが、どうですか?

Caravan:うん。要するに、辿り着けてないんだと思うんですよね。俺がガキの頃、例えば30歳とか40歳になったら、音楽にしても何にしても続けていたらどこかに辿り着けてるんじゃないかと思ってた。もうちょっと達観してるんじゃないかと思ってたんですよ。でも、やればやるほどわからないし、遠ざかるし、全然辿り着けない。だからそういうものに触れてみたいという憧れがずっとあって。そこにいつか辿り着ければ……まあ絶対辿り着かないんだろうなというのも最近うすうす気づいているんですけど、それでも追いかけたいという気持ちがあってね。なかなか理想に近づかないけど、まだまだ鳴らしたい音があるし、音楽に限らずいろいろそういうところがある。遠いんだけど近いのかもしれないし、近いんだろうけど遠い、そういうものの象徴として、そういう言葉がでてくるんでしょうね。

――なるほどね。そういう精神的なところの投影というのもありつつ、実際に旅をしていて朝陽を見るのが好きだったりもするでしょ?

Caravan:好きですね。朝陽も夕陽も一瞬だしね。はかないし。

――忘れられない朝陽ってありますか?

Caravan:30代の前半だったかな。モロッコで見た朝陽がすごいよかったんですよ。砂漠でキャンプして、その日は新月で、怖いくらいに真っ暗で。夜中は砂漠が海のように青いんだけど、朝陽が昇ると共にオレンジ色に見えてくる。もちろん誰もいなくて、静寂だけがあって。それはもう、なんか自分が生まれ変わったぐらいに思える感動的な朝陽で、また頑張ろうって気持ちになれたのを覚えてますね。なんとも言えないありがたさがあって、無意識で手を合わせたくなる感じでした。

――まさしくご来光ですね。そして<朝陽がいま昇る>と歌われる10曲目「Stay With Me」。ここにも繋がっている感じがしますが、この曲はバンジョーが入っていることで、温かみというか、ゆっくり行こうといった感じが強調されているように思う。

Caravan:ああ、確かにそうかもしれないですね。最終的にバンジョーを入れたんですけど、ああ、これだなって思いました。

――さっき、なるべくシンプルで説明のいらない歌詞を書きたいという話があったけど、11曲目「Future Boy」はまさにそういう歌詞ですよね。

Caravan:そうですね。子供向けの絵本みたいなのものをフリーペーパーで作ってるのがあって、そこに言葉を書いてほしいと頼まれたんですよ。子供も大人も読めるものにしたいと言われて、それで書いたのがこれなんです。

――それから12曲目「おやすみストレンジャー」。この優しいメロディと歌い方、個人的に大好きです。ライブのアンコールでこれを聴いて帰りたい(笑)。

Caravan:あははは。わかりました!

――<簡単に忘れてしまうよ 当たり前のことも 曖昧に流れてしまうよ 巡り会えたことも>っていうところがね、この感じわかるなぁと。

Caravan:例えば仕事ひとつにしても、初めはひとつひとついちいちドキドキしてたことが、サクサクできるようになってくるとその重要さを忘れてしまったりするもんじゃないですか。日々起こってること、出会うことも、本当は一期一会で貴重なものなのに、慣れてしまうことでだんだんわからなくなってきたり。一回立ち止まらないと、見えなくなることってあるから。

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