『TOKYO CUTTING EDGE』vol.00レポート
大森靖子とTK from 凛として時雨が共鳴した夜 『TOKYO CUTTING EDGE』レポート
12月14日、音楽レーベルCUTTING EDGEが新たに始動したイベント『TOKYO CUTTING EDGE』のvol.00が、大森靖子とTK from 凛として時雨のツーマンで開催された。
大森靖子とTK from 凛として時雨は、エクストリームな音像や人間の深部を暴き出す表現において、共通項を持つアーティストと言える。そんなふたりに共通する表現を感じつつ、一方のライブを見ないままでいることは往々にあることだろう。ふたりの共演は、両方のファンが持つその「なんとなくの先入観」を、高いプロフェッショナリズムで払拭したと感じた。大森靖子が8月にリリースしたシングル曲「draw (A) drow」をTKが作曲、編曲、プロデュースしたことを契機に実現した今回のライブ。お互いに共振する部分の多い二人だが、共演は今回が初めてのこと。しかし必然であったのは間違いない。
先攻は大森靖子。暗めの照明の中、白い衣装の彼女が一人でステージに登場した。過去の楽曲に新曲も加えた弾き語りを主軸とするベストアルバム『MUTEKI』を9月にリリースした大森。同アルバムの全国ツアー中である彼女は、この日も弾き語りに比重を置いたライブを展開した。1曲目、モノローグから叫びまで縦横に、“東京という街で生きること”について歌う新曲が披露される。鼓膜を震わせるほどの絶叫は、どんな暴力的なエフェクターやサンプラーが発する重低音より、コントロールされた上で強度を増していた。
序盤で披露した凛として時雨「Missing ling」のカバーは、弾き語りの中でも息を呑むような瞬間だった。来年2月の6thアルバムが待たれる凛として時雨。2013年にリリースされた『i‘mperfect』のラストナンバーである同曲は、生々しくざっくりした重いギターストロークが印象的なナンバーである。それをアコギでザクザク切り刻むように表現する大森の解釈は、ささやきから叫びへと展開していくTKのオリジナルを踏襲せずとも自然とリンクしているようだった。
「マジックミラー」の途中からバンドが入り、分厚いサウンドスケープを描くと、フロアからピンクのペンライトが続々と振られ始める。息を詰めて見守る弾き語りから、ファンも自己を解放するバンドサウンドへ。そこでTKプロデュースの「draw (A) drow」が披露された。シュアな四つ打ちがメインでありつつ、バンドの屋台骨を支え、またTKの音楽性に最も近いところにいるピエール中野の存在感が際立つ演奏でもあった。
緊張感の解けたフロアにまず感謝の意を伝え、大森は自らをさらけ出した珍しい曲として「draw (A) drow」を説明。早口で思いを喋り続ける中で、自身が感じている安易に”歌われるラブソング”や”想いを伝えること”への違和感を語り、そんな中でも「1曲だけラブソング作ってみようと思って作った曲をやろうと思います」と、道重さゆみに宛てたラブソング「ミッドナイト清純異性交遊」を歌った。
同曲には、大森が持つキラキラしたポップネスやズブズブの暗黒面も表現されている。彼女が歌う熱量とスキルに対抗するように、バンドメンバーも各々の表現で食らいついていた。ラストは「音楽を捨てよ、そして音楽へ」。<音楽は魔法ではない>、クソみたいな状況が一変したり、幸せになれるような抽象的な音楽なんてない、<でも音楽は>――彼女は何度でもそう歌い続けるのだろう。平易なピアノバラードである同曲は、シンプルだからこそアンビバレントな思いを繰り返して演奏することで、とてつもないグルーヴを作り出していた。