KAN「愛は勝つ」の女性カバーはなぜ胸を打つ? 日本財団CMソングに賛辞が集まる理由

 10月1日から放映が開始された「日本財団」の新CMシリーズ。さまざまな困難を抱える子どもたちへの支援をテーマにした映像には、KANが1990年にリリースした「愛は勝つ」の女性ボーカルバージョンが使用され、オンエア当初から話題となっている。ネット上でも、「CMで流れて来て、完全に耳を持っていかれた♪」「誰が歌ってるのかな? ジーンとする」など透明感のある歌声に魅了される人が続出。およそ30年前のヒット曲を装いも新たに蘇らせたアーティストへの賛辞が相次いだ。

日本財団CMソング「愛は勝つ」 by 新山詩織

 歌っていたのは新山詩織。今年デビュー5年目を迎えるシンガーソングライターだ。そのキャリアは鮮烈なもので、2012年、16歳だった高校2年生の春に『Treasure Hunt ~ビーイングオーディション2012~』に出場し8000人の中からグランプリを受賞。翌年2013年に、シングル「ゆれるユレル」で在学中にメジャーデビューを果たしている。積極的なライブ活動やリリースで同世代を中心にファンを広げると、2016年には女優業にも挑戦。月9ドラマ『ラヴソング』(フジテレビ系)で福山雅治演じる主人公の元恋人役を演じ注目を集めた。今年9月にはサウンドプロデューサーにCharaを迎えた1年3ヵ月振りのシングル『さよなら私の恋心』をリリース。MVでは岩井俊二監督がメガホンをとるなど、第一線で活躍するクリエイターとのコラボでも存在感を見せている。

 また、自身のYouTube公式チャンネルでは、さまざまなアーティストの楽曲のカバーを公開。前述のCharaの「ミルク」などJ-POPから、キャロル・キング「I Feel The Earth Move」、果ては岩崎宏美の「思秋期」まで洋邦新旧問わず選曲されている点は、彼女の音楽的バッググラウンドの幅広さによるものだろう。今回の「愛は勝つ」も彼女にとっては生まれる前の楽曲。原曲のピアノ主体の演奏から一転、アコースティックギターを用いてシンプルにアレンジ、そしてテンポもややスローダウンさせたことで、歌詞の1フレーズごとに込められた強いメッセージがよりストレートに響いてくるようにも感じられる。

新山詩織 カバー映像「ミルク」(ショートver.)

 何と言っても彼女の歌声の魅力は、そのてらいのなさだ。薄いべールに包まれたようなかすれた声質は、個性的でありながら聴く者の胸に迫る切実さを備えている。とにかくまっすぐで無添加。純粋に音楽を愛する姿勢がそのまま表れたようなアーティスト性を、スピッツなどのプロデュースも手がけるサウンドプロデューサーの笹路正徳は「音楽が天職の人」と評価したほど。

新山詩織『さよなら私の恋心』

 今回の「日本財団」のCMは、「難病児支援」篇、「第三の居場所」篇、「夢の奨学金」篇の3本に加え、60秒のスペシャルバージョン「乗り越える子どもたち」篇の計4本。困難な状況で懸命に生きる子供たちに、「心配ないからね」と語りかけるようなアカペラで始まり、彼らの笑顔とともに<信じることさ 必ず 最後に愛は勝つ>と高らかに歌い上げる。まさに子供たちへの応援歌という表現がぴったりだ。歌唱するにあたり新山は、「歌う前に映像を見せていただきました。私はいつも個人的に大切にしていることとして、私の歌を聴いてくれている人、一人ひとりに寄り添うように歌っています。今回のレコーディングでも聴いている人、問題を抱えている子ども一人ひとりのことを胸に置きながら歌いました」とコメント。(参考:日本財団 公式サイト)届けたい誰かをまっすぐに見据えて歌うからこそ、彼女の音楽は力強く響き、聴き手の胸を揺さぶることができるのだろう。

 年明け1月31日には、シングル曲を中心とした初のベスト盤『しおりごと -BEST-』をリリース予定のほか、2月には『新山詩織ライブツアー2018「しおりごと -BEST-」』と題して東京、大阪、愛知の3都市でライブツアーも開催するという。高校生という若さでプロの世界に飛び込み、駆け抜けてきた5年間の集大成的な作品、ライブになることは間違いない。節目の年は、彼女をどのように成長させるのか。今後一層の輝きを増すであろう新世代シンガーに期待したい。

■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。

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