森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.77
YUKI、のん、Shiggy Jr.……“エッジ”と“ポップ”のバランス感覚備えたアーティストたち
桐嶋ノドカ自身が主演をつとめる映画『爪先の宇宙』の主題歌として制作されたニューシングル「言葉にしたくてできない言葉を」は、小林武史、ryo(supercell)という異色のWプロデュース楽曲。ギターロックとクラシカルな雰囲気が共存するサウンドメイク、感情の動きとリアルに重なるドラマティックなメロディライン、そして、濃密なエモーションを備えたボーカルがひとつになったナンバー。特に<だってわかんない><何が本当で何が嘘なの>という切実な思いが込められたラインからは、ボーカリストとしての彼女の覚醒ぶりが強く伝わってくる。去年の後半あたりに歌に対するモチベーションを見失いかけたという桐嶋だったが、言葉にならない思いをテーマにしたこの楽曲を歌うことで、その豊かなポテンシャルを完全に取り戻したようだ。
DAOKO、ちゃんみな、泉まくら、chelmico、あっこゴリラなどと並び、新世代フィメールラッパーの一角を担うiriの新作『life ep』にはケンモチヒデフミ、mabanuaのほか、ヒップホップユニット“PSG”のメンバーにして、気鋭のトラックメイカーとしても注目を集めている5lackが参加。心地よい浮遊感を描くシンセと鋭利なビートが共存するトラックのなかで<壊れないでね ただ手を繋いで 歩けばfeel love>というフレーズが響く「Telephone feat.5lack」は、最新鋭のヒップホップマナーとJ-POP的なラブソングを絶妙な配分でブレンドした楽曲に仕上がっている。ハスキーかつセクシーな手触りを放ち、日本語を官能的にグルーヴさせるiriのラップも素晴らしい。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。