アルバム『BOOTLEG』インタビュー

米津玄師が語る、音楽における“型”と”自由”の関係「自分は偽物、それが一番美しいと思ってる」

 「俺はオリジナリティー信仰みたいなものが嫌い」

――「飛燕」から「LOSER」、「ピースサイン」などシングル曲で盛り上がっていき、6曲目の「かいじゅうのマーチ」から「Moonlight」へと、メランコリックで美しい新曲が続きます。このあたりはアルバムのムードを決定づける重要なパートですね。

米津:「Moonlight」は最後に作ったんです。最初は13曲の予定が、ラスト1週間くらいになったときに「もう1曲いるな」と思って。これは『Bremen』のときとまったく同じ構図で、あのときも最後にアルバムを端的に表現する曲が必要だろうと思って、「Blue Jasmine」という曲を作ったんですよ。「Moonlight」も、最後にだるまの目を入れる、みたいな感覚で作った曲です。

――「Moonlight」の<本物なんて一つもない でも心地いい>という歌詞は「BOOTLEG」(海賊盤)という言葉に呼応しますし、フランク・オーシャン以降のR&Bを踏まえたサウンドもとても刺激的です。

米津:音は基本的に全部、サンプリングのトラックで成り立っていて。俺はオリジナリティー信仰みたいなものが嫌いなんですよ。誰も見たことも聞いたこともないものしか許さない、と言ってしまう感じ。本当に根源的な意味で、誰も見たことも聞いたこともないものを突き詰めていくと、最終的にはノイズミュージックとかになっちゃう。それはそれで美しいと思うし、好きな音楽でもあるけれど、自分がやりたいのはそういうものではなくて。

 音楽って、フォーマットじゃないですか。“型”のようなもので成立している部分があるのは事実で、そのなかでいかに自由に泳ぐかじゃないかと。自分がやりたい音楽って、基本的に普遍的なものなんですよ。普遍的なもの、多くの人間、コミュニティ、国や地域などいろんなものの根底に流れているものを普遍性だと言うのであれば、それは“懐かしさ”と言い換えられると思っていて。つまり、どこかで聴いたことがある、どこかで見たことがある、というようなものだと思うんですよね。そういうものを、いかに今の自分に響かせることができるか――それが自分なりのオリジナリティーだと思っているし、極端なオリジナリティー信仰とか、センス信仰はどうにかしてると思う。そんななかで、最初にリスペクトがあり、その上でどうオマージュするかということをすごく考えながら作っていました。

――音楽にも形式があり、それに対する正確な理解なくしては、新しいものには到達できないということですね。そういう意味で米津さんは、さまざまな音楽を学び、分析してきた。

米津:自分にとっては当たり前のことですね。ただ、周りのミュージシャンを見ていても、分析することや勉強することに対して負い目のようなものを感じている人がいるんですよ。ありのままの生き様……みたいな、センス信仰ですね。そんなことを言っているからこその体たらくだ、とよく思う。ありのままで生きていても面白いことなんてひとつもない。自分がありのままだ、本物だ、と思うパーソナルな部分も、もとを正せば誰かからの影響を受けていて。そういうことを言い始めると、オリジナルだとか本物だとか、そういうものは端から存在しなくて、自分は偽物だと思うんです。俺はそれが一番美しいと思ってやってます。

 美しいものって、分析して、勉強していった結果、身につくものだと思うんですよね。それをよく理解しないで、“ありのままの自分”とか“素の自分”って気持ちいい言葉でごまかして、自分がどこから生まれてきたのかを考えない。「つまんねぇな」って思います。「“素”って何だよ?」って。

――今のお話もそうですが、「砂の惑星」で表明されたニコニコ動画に対するステイトメントを含めて、あえて言葉にリミットをかけず、強いメッセージを発信する覚悟のようなものを感じます。

米津:Twitterでいらんこと言って炎上したり、昔からそういう人間だったなって思うんです。黙っていた方が楽だし、自分もミステリアスだとか、何を考えてるか分からないとか言われがちな人間なので、そういうところに座したまんま動かない方が特だな、と思うこともあるんです。ただ――もしかしたら自分が10年前の日本で音楽をやっていたらこうは思わなかったかもしれないけれど、自分の身の回りで起きていることを音楽にしてポンと出して、あとはみなさん好きなように受け止めてください、という価値観で果たしていいのだろうか、と。言葉を尽くすことって、大事なことなんじゃないかと。

 もちろん、歌詞で伝えようとしていることを全部言葉にして説明したら本末転倒だし、それは音楽の領域だと思う。でも、音楽を邪魔しないギリギリの範囲で、伝えたいことを言葉で説明するというのは、あってもいいんじゃないかって。まったくない方がいい場面もあるだろうし、それは自分で判断しながらやらなければいけないと思うんですけど。

――アルバムを通して、米津さんの言葉が前に出てきている印象もあります。11曲目の「爱丽丝」も、東洋的な感覚とバンドサウンドがアクセントになっています。King Gnuの常田大希さんらと一緒に作ったということですが、同世代のミュージシャンとの交流が刺激になっているところもありますか?

米津:そうですね。彼は知人を通じて知り合った飲み仲間で、すごい才能があると思うし、センスもいいし、自分にないものを持っているんですよ。だから、彼と一緒に作ることでお互いにないものをうまく補い合えるんじゃないかと思って。実際にいい曲になりましたね。この曲は、もともと「砂の惑星」と同じ時期にできた曲なので、共通している空気感があると思います。常田くんとの出会いは昨年の暮れくらいだったから、まだ知り合って1年経っていないんですけど、楽しかったし、また一緒にやりたいなと思います。

――最終曲の「灰色と青(+菅田将暉)」も印象的でしたが、こちらはどんな思いで作った曲ですか?

米津:北野武監督の映画がすごく好きで、『キッズ・リターン』みたいな曲が作りたい、っていう思いがずっと頭のどこかにあったんですよ。例えば、友だちと一緒に話したり、遊んだりしているなかで、“120%つながってしまったな”と思うような瞬間が、自分のなかにもあって。それは、まったく同じことを考えていたり、出てくる言葉がまったく一緒だったり。友だちじゃなくても、外を歩いていて、目の前を歩いている人の歩幅のテンポと、自分がイヤフォンで聴いている音楽のBPMがまったく同じだったときとか。それは個人的にものすごくうれしいことで、分かり合えたんじゃないかと思える奇跡的な瞬間だし、この日のために生まれてきたとすら思えてしまうくらい。そういう、一瞬の美しさを音楽にできないかな、とずっと思っていたんですよね。本当に一瞬の出来事で、次の瞬間に全然違う人間同士になっているんだけれど、その瞬間だけは強くつながっている。

 そういうことを表現したいと考えたときに、生まれた手法が「ふたりで歌う」ということで。「打上花火」があったからこそ自分の頭のなかに生まれたのかもしれないですけど、誰かと歌うことで、視点の違いやズレも表現できるだろうなと。それでは誰と歌うのか、と考えたときに、菅田将暉くんしか思い浮かばなかったんですよ。なぜかは自分でも分からない。彼は俳優で、自分はミュージシャンで、生きてきた環境も全然違う人間だと思うんです。だけど、個人的にはどこかで共通した部分があるんじゃないか、同じものを見ている瞬間があるんじゃないか、と思っていて。それで会って、話して、頼んだらやってくれて。これが同じミュージシャンだと、違うんですよね。違う道を歩んでいるけれど、どこかでつながっている部分があるんじゃないか、という距離感が一番、ちょうどいい。『キッズ・リターン』、「一瞬の美しさ」、「菅田くん」という3つの要素が、本当に奇跡的なタイミングでつながりあってできた曲なんです。

――実際、一緒にレコーディングしてみてどうでしたか。

米津:彼は本当に、めちゃくちゃいい声をしていて。すごくリッチで、存在感がある声なんですよね。声に力があって、表現力があって、自分にないものがある。この曲にピッタリ、120%ハマっていて。彼なしではできなかったと思います。それも、このタイミングでしか、絶対成立しなかった。彼も忙しい人なので、迷惑をかけたんじゃないかと思うんですけどね。

――あらためて、素晴らしいアルバムだと感じます。米津さんとしては、リスナーにどのように届けたいですか。

米津:特に何も考えずに聴いてほしいです。俺はポップなものを作りたいと思ってやってきたし、ただ聴いて気持ちいいと思ってもらえれば、それでいいんです。「この曲、何を言ってるか分かんない」って思われたりするかもしれないけれど、それも含めて、なんか気持ちいいな、というくらいがちょうどいいなと思うし。小難しく考えなくても大丈夫なように作ってあるので。

(取材・文=神谷弘一/アーティスト写真撮影=Jiro konami)

 

米津玄師『BOOTLEG』

■リリース情報
『BOOTLEG』
発売:2017年11月1日(水)
価格:ブート盤(初回限定):CD+12inchアナログ盤ジャケット+アートイラスト+ポスター+ダミーレコード ¥4,500+税
   映像盤(初回限定): CD+DVD ¥3,700+税
   初回仕様限定/通常盤:CD only ¥3,000+税

<全形態共通・初回封入>※初回生産分のみ封入、なくなり次第終了。
『米津玄師 2018 LIVE / Fogbound』チケット最速先行抽選応募券
『米津玄師 2017 TOUR / Fogbound』(12月開催公演)チケット応募券
応募期間:10月31日(火)12:00~11月5日(日)23:59

<CD収録内容>(全形態共通)
01. 飛燕
02. LOSER
03. ピースサイン
04. 砂の惑星 ( + 初音ミク )
05. orion
06. かいじゅうのマーチ
07. Moonlight
08. 春雷
09. fogbound ( + 池田エライザ)
10. ナンバーナイン
11. 爱丽丝
12. Nighthawks
13. 打上花火
14. 灰色と青 ( + 菅田将暉)

<DVD収録内容>(「映像盤 / 初回限定」のみに収録)
1. LOSER Music Video
2. orion Music Video
3. ピースサイン Music Video
4. ゆめくいしょうじょ Music Video

■ライブ情報
『米津玄師 2017 TOUR / Fogbound』
2017年11月1日(水) 大阪府 フェスティバルホール
2017年11月2日(木) 大阪府 フェスティバルホール
2017年11月4日(土) 兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
2017年11月5日(日) 兵庫県 神戸国際会館こくさいホール
2017年11月8日(水) 埼玉県 大宮ソニックシティ
2017年11月9日(木) 埼玉県 大宮ソニックシティ
2017年11月18日(土) 徳島県 鳴門市文化会館
2017年11月19日(日) 愛媛県 松山市民会館
2017年11月23日(木・祝) 福岡県 福岡サンパレス
2017年11月24日(金) 福岡県 福岡サンパレス
2017年11月26日(日) 鹿児島県 鹿児島市民文化ホール第一
2017年11月29日(水) 新潟県 新潟県民会館
2017年12月1日(金) 北海道 ニトリ文化ホール
2017年12月7日(木) 宮城県 仙台サンプラザホール
2017年12月9日(土) 福島県 郡山市民文化センター 大ホール
2017年12月14日(木) 神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
2017年12月16日(土) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年12月17日(日) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年12月23日(土・祝) 岡山県 岡山市民会館
2017年12月24日(日) 広島県 上野学園ホール

米津玄師 2018 LIVE / Fogbound
2018年1月9日(火) 東京都 日本武道館
2018年1月10日(水) 東京都 日本武道館

■関連リンク
オフィシャルHP

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