くるり『京都音楽博覧会2017 in 梅小路公園』レポート
くるりの発想力と実行力が“得難い体験”をもたらす 兵庫慎司による『京都音博』全アクトレポ
続くトリのアクト、いよいよ『京都音博“生”歌謡ショー』が登場する。
ギターを持たずスタンドマイク、後ろ手を組み、身体を斜めに傾けながらーーつまり、リアム・ギャラガーなスタイルで3曲を聴かせたGotchは、こんなアレンジで歌えることは絶対ない、本当にうれしい、と喜びを露わにし、「みんな踊った方がいいと思うよ。大丈夫、俺の方がダサいし、ダンス」とオーディエンスをあおる。ゆらゆら身体をゆらす人が増え始める。
続く田島貴男は、このアレンジで歌うのは大変であることをアピールして笑いをとりつつ、「ウィスキーが、お好きでしょ」「プライマル」「接吻」の鉄板な3曲で、オーディエンスを大いに湧かせる。
学生時代に嵐山の方に通っていた、京都は好きな街です、と話したUAは(嵯峨美術短期大学出身。確かに嵐山にあります)「悲しみジョニー」「AUWA」「いとおしくて」で、唯一無二の歌を響かせる。
そして布施明。「君は薔薇より美しい」「シクラメンのかほり」と大ヒット曲二連発、最後にスタンダードナンバー「My Way」、そのすさまじいボーカリゼーションで参加者を圧倒する。
ロックの人と違って歌謡曲や演歌の人はマイクを口にぴったり寄せない、ちょっと離して歌う、というのは、この『京都音博』で個人的に学んだことのひとつなのだが、その中でもトップクラスの「口とマイクの遠さ」だった、この方。とんでもない声量なんだと思います。
最後は『京都音博』二度目の出演、二階堂和美。「なんで私が布施さんのあとなんだろう! 今の私の気持ちです!」と「いてもたってもいられないわ」でスタート、『かぐや姫の物語』でおなじみ「いのちの記憶」で喝采を浴び「お別れの時」で締める。静かな「いのちの記憶」も含めて、エネルギーが爆発しっぱなしなステージだった。
シメはハウスバンドがステージを下り、くるりの3人が出てくる。出演者と会場近隣の方々の協力への感謝の意を告げ、オーディエンスに「来年またここでお会いしましょう」と伝える岸田。そこからくるりの3人+音博フィルでプレイされたのは、『京都音博』のラストチューンとして恒例の「宿はなし」だった。くるりを残して途中終了した昨年、終演後に急遽行われたLINE LIVEで、岸田と佐藤のふたりによる弾き語りで生配信されたこの曲が、今年はこうしてフルオーケストラとくるりで披露された、ということだ。
総じて、何か書こうとすると、どうしてもケツふたつのアクトのことになってしまう。
くるりと音博フィル。その音博フィルとスーパーバンドとシンガー5人による『京都音博“生”歌謡ショー』。どちらも、本当に、得難い体験だった。最初にもしつこく書いたが、これ、いずれも、ビジネスとして考えると割が合わなすぎなんじゃないかと思う。
ただ、そういうような諸般の事情をすべてなぎ倒してやってしまうことでしか生まれない感動や興奮が確かにある、という事実を、確かに今年の『京都音博』は示してもいた。受け手の期待や予想を超えていくのは、こういう突拍子もない発想と実行力だったりするのだ。
特にくるりの後半。「How Can I Do?」「ワールズエンド・スーパーノヴァ」「ブレーメン」「奇跡」の時の多幸感のすごさは忘れられない。満員の梅小路公園、全員揃って熱にうかされているような、一種異様な空気だった、あの時間は。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。