山下達郎「REBORN」は新たな代表曲に? “心に染みる理由”をサウンドと歌詞から分析

 そして、この曲を聴いて真っ先に思い出したのが、宇多田ヒカルの昨年のアルバム『Fantôme』だ。2013年に亡くなった母・藤圭子に捧げる作品として作られたあのアルバムには、彼女の「死生観」を表した楽曲が並んでいた。例えば冒頭曲「道」の、<私の心の中にあなたがいる いつ如何なるときも>、<どんなことをして誰といても この身はあなたと共にある>という歌詞と、「REBORN」の歌詞には、共通する思いがあるように感じる。

 しかし「REBORN」はそこからさらに、普遍的かつ根源的な問いへと向かう。<私たちはみんな どこから来たのだろう><命の船に乗りどこへと行くのだろう>と。そして山下は、その問いにここで一つの答えを出した。<あなたから私へと 私は誰かへと 想いを繋ぐために>。つまり、私たちの肉体はいつか滅びるが、その“想い”は誰かの心に引き継がれ、そしてまた次の誰かへ……と、永遠に生き続けることができるのではないかと。そうであれば、今、“少しだけのさよなら”をしても、また何処かの未来で再び会える日が来るのではないか、と。こうした「死生観」は、映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の時空を超えた奇蹟のストーリーともシンクロし、映画にさらなる深みを与えることに成功しているのである。

 もっと言えば、過去の音楽を取り込み消化し、新たな楽曲として世に送り出す山下自身の音楽活動もまた、先人の“想いを繋ぐ”行為だ。山下の音楽の中には、ルーツミュージックが脈々と流れており、それはまた別のアーティストへと引き継がれていく。

 人はどこから来て、どこへいくのか。人はなぜ、作品を作り続けるのか。そんな深遠なテーマを歌った「REBORN」は、山下にとって新たな代表曲となるのは間違いないだろう。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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