K-POPムーブメント、なぜ再燃? DJイベント主宰者に訊く、“独自の進化”遂げる楽曲の魅力
7月20日に日本武道館でBLACKPINKが日本デビューショーケースを行い、26、27日には日本未デビューのSEVENTEENがさいたまスーパーアリーナで単独公演を行った。先月の6月28日にはTWICEが日本デビュー、渋谷109を巨大広告でジャックし“TTポーズ”がブームになるなど、いま再びK-POPグループが盛り上がりを見せている。
今起こりつつあるK-POPの波は、韓流ブームから派生した2010年ごろのK-POPブームとは違う何かを感じさせる。昨年8月には『ヒップホップコリア』という本が出版され、インターネット放送局のDOMMUNEではその特番が放送。アイドルグループだけでなく、DEANやLocoといった韓国のラッパーも次々来日を果たすなど、韓国という国から生まれる音楽そのものに注目が集まっている。
そんな現在のK-POPの面白みにいち早く気づき、発信してきたのが秋葉原のクラブMOGRAで開催されているDJイベント『토닥토닥(Todak Todak)』だ。アイドルのプレゼン大会など、ユニークな要素も組み込みながら、K-POPを楽曲的な面白さとアイドル的な側面の両方から捉えている。いったいなぜまたK-POPが再燃しているのか、楽曲の裏側に潜む面白さについて、イベントの主宰を務めるe_e_li_c_aに話を訊いた。(編集部)
日本におけるK-POPのクラブイベント事情
ーー第一次ブーム的な少女時代などの音楽と今流行っているK-POPでは何か違いがありますか?
e_e_li_c_a:そもそも曲の作りが全然違いますね。7、8年くらい前はどちらかというと日本のものをお手本にして曲を作っていたり、日本進出を前提とした曲作りがされていたと思うんですけど、ここ最近のK-POPはアメリカやイギリスのクラブミュージックをポップスに落とし込むという作り方をしています。だからより大きい音やいい音質でかけると普通にイヤホンなどで聞いただけではわからない音が聞こえてくるんです。そういったK-POPの音が楽しめる場を自分で作ってみたらおもしろいんじゃないかなと思ってイベントを始めました。
ーー日本で行われているK-POPのクラブイベント事情について教えていただけますか。
e_e_li_c_a:もともとアイドルのダンスを練習して発表するダンスカバーのイベントはclub asiaなどの中〜大規模のクラブではいっぱいあったんですよね。そういうイベントの他にも、韓国の大きなクラブでかけられてるようなEDMを主体としたイベント自体は結構ありました。ただ、普段アイドルのコンサートに行っていたりするような、いわゆるオタクの子たちが行けるイベントはそうそう無かった。なので、そういう子たちが気軽に行けるようなイベントとして『토닥토닥(Todak Todak)』を始めたんです。未成年でも参加できるようにデイイベントで行っていますね。実際遊びに来ているお客さんの2、3割は未成年の方です。
ーー『Todak Todak』はDJイベントとしても機能しつつ、アイドルなどをプレゼンしたり、コミュニケーションの場としても機能していますよね。さらに『Liar Liar』はよりシンプルなDJイベントとして開催されています。そういったイベントをやっていくうちに新たなコミュニティが出来上がっているような感覚はありますか?
e_e_li_c_a:2016年の3月からイベントを始めて不定期でやってきたんですが、そもそもクラブに来るのが初めての女の子が結構多いんです。最近のK-POPはさっきお話ししたようにいい音響や大きな音で聴くとより楽しめるので、その良さに気づいてくれた方が、K-POP好きな友達同士で来てくれるようになりました。そういうクラブ自体が初めてだった子達が、MOGRAに来てクラブに対して親しみを持ってくれて。
ーークラブの持つネガティブなイメージや抵抗感みたいなものが払拭されると。
e_e_li_c_a:そうですね。そういうものがちょっとなくなって、それ以外のイベントにも足を運んでくれるようになったというパターンが増えてますね。私は2010年頃からMOGRAでイベントに出たりしてるんですが、お店の方も今まで全くMOGRAの客層じゃなかったようなお客さんが増えて、他のイベントにも流れていると言っていました。
ーー僕の印象では、f(x)「4Walls」(LDN Noise)がきっかけになって、日本のクラブシーンでK-POPがかかるようになったイメージがあるんですが、「4Walls」以降e_e_li_c_aさんがクラブの現場で感じた変化はありますか?
e_e_li_c_a:日本のクラブシーンでいうと「4Walls」の存在は大きいですね。全然K-POPを聴かないDJでも「楽曲がいい」という理由でかける人が多くて。秋葉原MOGRAは4つ打ち系のイベントが多いだけあって、K-POPでも4つ打ち系の曲が広がりやすいイメージがありますね。「4walls」もそうですしSHINeeの「View」(LDN Noise)も同じくちょっとディープハウスぽさがあってよくかかっています。あとはEXOのボーカル3人がやっているEXO-CBXというサブユニットの「The One」(Tay Jasper,LDN Noise)も2ステップが取り入れられていてよくかかってますね。K-POP全体を通して、セットリストに入れやすい、DJがかけやすい曲が増えているので、クラブでかかることが増えているのだと思います。
楽曲とリスナー、いまK-POP全体に起こっている変化
ーーK-POPのリスナー層に感じる変化はありますか?
e_e_li_c_a:昔に比べるとApple Musicのようなサブスクリプションサービスも普及しているので、ハードルが低くなっていると思います。イベントに参加しているお客さんの多くはApple Musicを使っていて、そこで新譜をチェックしているようです。K-POPシーン全体の話でいうと、BLACKPINKやTWICEなどの最近日本デビューしたグループは中高生をメインターゲットにして、そこに向けたプロモーションを積極的に行っているんですよね。そういうグループも出てきたので、若いファンが増えるのも当然かなと思います。
ーーリスナー視点でK-POPの楽曲にひかれるポイントは?
e_e_li_c_a:私はもともと中学生ぐらいの時にアメリカのHIPHOPやR&Bを聴いていたんです。今韓国のHIPHOPやR&Bで中心となって楽曲を作っているトラックメーカーやプロデューサーたちは30歳前後の方が多いんですが、多分当時の私と同じような音楽を聴いて育ったんだと思います。そういった影響もあってJay Park(パク・ジェボム)の曲などには、最近のトレンドであるトラップっぽい音の中に、2000年前後のHIPHOPやR&Bの流れを汲んだ懐かしさを感じることができます。
ーー現在活躍しているトラックメーカーやプロデューサーには具体的にどのような方がいるのですか?
e_e_li_c_a:Jay Parkの周辺でいうとチャ・チャ・マローン(Cha Cha Malone)、Groovy Room、ギリボーイ(GIRIBOY)は有名です。HIPHOPやR&B系のトラックを作ってる方は記名性が高いというか、名物プロデューサーが多くいますね。一方で、歌謡曲やポップス的なサウンドを作る方たちは40代前後が多くて、各事務所お抱えの作曲家というパターンが多い印象です。
ーーK-POPはMVやアートワークのクオリティが高いことも特徴の一つにあげられると思います。現在シーンで高い評価を受けているクリエイターにはどんな人がいますか?
e_e_li_c_a:ここ1、2年ぐらい、定番となりつつある映像プロデューサーも出てきていて、Digipediなんかは「またDigipediか」と言われるほどK-POPリスナーの間では有名ですね。アイドルグループからHIPHOP方面まで多くの作品を手がけています。
ーー代表的な作品にはどんなものがありますか?
e_e_li_c_a:Heizeの 「Shut Up & Groove (Feat. DEAN)」、SEVENTEENとソロの女性シンガーのAileeとの「Q&A」、IOIの「very very very」などがあります。最近韓国では「今月の少女(LOOΠΔ/LOONA)」という毎月1人メンバーが発表されて最終的に12人のメンバーが明らかになるというアイドルグループがあって、メンバーの発表と同時に個人PVのようなものが出るのですが、そのPVもDigipediが手がけてますね。最近はVMProjectが引っ張りだこな印象があります。