村尾泰郎の『OK Computer OKNOTOK 1997-2017』レビュー
Radiohead『OK Computer』は今も進行中の物語ーー村尾泰郎が『OKNOTOK』を紐解く
そして、この濃密なアルバムがいかに試行錯誤の結果に生まれたものだったのかは、「NOTOK」と名付けられたディスク2に収録された音源からも伝わってくる。なかでも注目は、完成しながらもアルバムに収録されなかった未発表曲3曲「I Promise」「Lift」「Man of War」だ。3曲とも美しいメロディが際立つバラードだが、『The Bends』の余韻を感じさせる叙情性が印象的で、本編の持つ危うさはあまり感じさせない。だからといって完成度が低いわけではなく、アルバムの世界観に馴染まなかったということだろう。そのほかシングルB面曲も含めて、『OK Computer』に収録されない=「Not OK」な曲のクオリティの高さを知ることで、いかに本編が選りすぐられた曲によって緻密に作り上げられているかがよくわかる。
今年、NMEで掲載されたインタビューで、トムはセント・キャリンズ・コートという大邸宅で本作をレコーディングした際に「いつも幽霊に語りかけられていた」と告白し、「当時はカタレプシー(神経失調の一種)で現実感がまったくなかった」と振り返っていた。そうした精神状態もアルバムには反映されていて、歌詞には突き刺さるような疎外感や孤独感が漂っている。「Lucky」では<we are standing on the edge.(僕らは崖っぷちに立っている)>と歌われているが、このアルバムで描かれるのは崖っぷちから見た世界の風景だ。それは当時、トムの研ぎ澄まされた神経が見た悪夢のようにも思われたが、様々な社会問題により閉塞感を増した現在では、我々を取り巻く現実の描写としてリアルなものになっている。『OK Computer』はクラシックス(古典)ではなく、今も進行中の物語なのだ。
■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。
■リリース情報
『OK COMPUTER OKNOTOK 1997 2017』
発売中
価格:¥2,500(+tax)
国内盤特典: リマスター音源
※国内盤のみ高音質UHQCD仕様、歌詞対訳+解説書付
<収録内容>
・DISC 1
01. Airbag
02. Paranoid Android
03. Subterranean Homesick Alien
04. Exit Music (For a Film)
05. Let Down
06. Karma Police
07. Fitter Happier
08. Electioneering
09. Climbing the Walls
10. No Surprises
11. Lucky
12. The Tourist
・DISC 2
01. I Promise
02. Man of War
03. Lift
04. Lull
05. Meeting in the Aisle
06. Melatonin
07. A Reminder
08. Polyethylene (Parts 1 & 2)
09. Pearly
10. Palo Alto
11. How I Made My Millions