石井恵梨子の「ライブを見る、読む、考える」 第12回:KiNGONS
KiNGONSの笑いを通り越した格好良さ パンクロック・エンターテインメントの破壊力
今はロックシーンで新しい音などなかなか出てこない時代だから、ライブハウスで初めて見た時に「うわっ、なんじゃこりゃ!?」となる機会はあまりない。手法や発想が面白いとか、一周回って斬新だとか、そういうところで驚いたり感心する日々。だけどこのバンドは違った。ルーツや背景は丸見えだし、何がどう新しいわけでもないのだが、スタートからラストまでずっと「うわっ、なんじゃこりゃー!?」と開いた口が塞がらない状態。純度の高いパンクバンドでこういう感覚を味わったのは久しぶりだった。KiNGONS(キンゴンズ)。栃木県宇都宮市在住の4人組である。
結成は8年前。フットサルが趣味というメンバーは、敬愛するキングカズとゴン中山から名前を拝借してバンド名を決めている。本気のリスペクトしかないのに、ふっと笑いたくなる愛嬌、クールにキマりすぎないユーモアが漂ってくるネーミング・センス。平均年齢30代前半のバンドゆえ、中村俊輔や中田英寿でも良かったのだろうが、いやいや、キングカズとゴンじゃなきゃダメなのだ。実力うんぬんじゃなくて、あの顔、あの押しの強さ、あの存在感が必要なのだ。その感覚はステージが始まった瞬間から理解できた。7月16日、高円寺HIGHでのライブである。
まずはメンバーの容姿に圧倒される。フロント3名はラモーン風マッシュルームカットで揃いの黒ジャケット。リボンタイやステッチにそれぞれ「担当カラー」があって、ベースNAKATAが黄色、ボーカル兼ギターBee Beeが赤、ギターkj monmonが緑と鮮やかなコントラストを放つ。ドラムのHANDAだけが赤タイに白ジャケットで、そのズレはポリシーなのかツッコミどころなのかよくわからない。ただ、それよりさらに異様なのは全員が目の周りを真っ黒に塗り潰していることだ。パンダメイクというかKISS風ペイント、もしくは怪傑ゾロ風。そんな出で立ちの4人が揃うだけでも空気は一変する。それまでの流れなどは一瞬で破壊されるから、前後の対バンを一番困らせるタイプのバンドかもしれない。
風体から、サンフランシスコのガレージ・バンド、ファントム・サーファーズを思い出す人は多いだろう。奇抜なメイクやファッションに力を入れるのはガレージ・シーンの文化でもあるから、KiNGONSも一瞬はガレージっぽく見える。古き良きロックンロールの様式美を愛し、伝統芸能としての一面を守りつつ、超個性派を自負するアンダーグラウンドのバンドだろう、と。
だが演奏が始まればまったく別ものだ。高速のエイトビートに乗って猛烈にポップなメロディが放たれる、ラモーンズ直系の王道ポップパンク。Bee Beeとkjの兄弟は若き日に見たディスガスティーンズに猛烈な衝撃を受けたという。なるほど、そのルーツはよくわかる。爆発的な勢いがあり、底抜けに明るくて、スイートでセンチメンタルな名曲を書くのに、演奏と歌が妙にポンコツで、どこか情けないルーザー感が漂っていたポップパンクの先駆者たち。その血を受け継いだうえで、曲によってメロディック・パンクに匹敵するツービートの疾走感があり、ビーチ・ボーイズみたいなサーフ系コーラスも多数。ハードコア並の荒々しさもあれば、しっかりシンガロングできる歌ものもある。見た目に反してアングラ感がまったくない、実にのびのびしたパンクロックだ。
そして何より面白いのは、上手いとは決して言えないものの、ルーザー感が皆無なところ。ポップバンクによくいる「ちょっとダメだけど愛すべき兄ちゃん」風情ではなくて、「絶対ふつうじゃないエンターテインメントで何が何でも勝ちに行く!」という野心がギンギン。メイクの異様さも然りだが、パフォーマンスもヤバいくらいに振り切れている。ポカンと空けた口からワハハと笑いがこみ上げてくるシーンがどれほど多かったことか。
たとえばkj monmon。両手をクロスさせビームを出すように登場し、フライングVを持つとキレキレのステップとジャンプを繰り返す。ギターを構えるポーズのひとつひとつがギターウルフばりにキマっているし、曲によっては演奏も放棄。4曲目「ムーンライト・ディスコ」ではベースとドラムのみが演奏し、Bee Beeはボーカルに専念。隣ではkjが優雅に舞っていて、間奏に入るタイミングでBee Beeが金テープを投げるとkjはフィギュア選手のように体をスピンさせてテープにぐるぐる巻き……という具合。これ、クソ真面目に解説してもちっとも面白くないと思うが、目の前ではずっと非音楽的で意味不明な爆笑のパフォーマンスが続いているのだ。なんだ、このエンターテインメント性の高さは!
断っておくとギャグバンドではない。話を聞けばBee Beeは「本気で格好いいと思うことをやっている」そうだし、kjは「笑いを通り越して格好良さになっていくのが、僕らが求めるひとつの答え」だと語る。ピート・タウンゼントばりに片手を回すギタリストは多いが、ならば俺たちは両手をぐるぐる回す、ギターすら弾かず全身で回ってみせるということだろう。他のバンドがやらないこと、他の誰にもやれないことを本気で追求し、馬鹿馬鹿しいことにも全力投球。こういうのがアリになってしまうのがロックの面白さだし、スポーツのように実力だけで勝負が決まらないのがロックの醍醐味だ。中田英寿よりゴン中山! 本当にいい名前を付けたものだと思う。