WANIMAのライブに行けば、何があっても生きていられる――バンドの核心部に石井恵梨子が迫る

WANIMA、ライブの核心部に迫る

 シングル『JUICE UP!!』を8月にリリースし、その直前には初のフジロック&Mステ出演を果たしたWANIMA。毎度「まじか!」と盛り上がっていたあの夏が、今ではずいぶん遠い日のことに思えてくる。

 秋からは全国ライブハウスをひたすら駆け巡った。そのなかで発表されたのは、この『JUICE UP!!』ツアーのファイナル公演が3月19日さいたまスーパーアリーナで行われるというニュースだった。しかもこれが初のワンマン・ライブ。もう「まじか!」の声も出なかった。デビューからまだ二年半なのに、アルバムはたったの一枚しか出していないのに。もっと恐ろしいのは、これでもまだ「いよいよ到達した絶頂期!」だとは思えないところだ。

 では今、バンドを取り巻く状況はどうなっているのだろう。ツアー19本目、12月19日、台場Zepp DiverCityでWANIMAを見た。

 会場は、アルバム『Are You Coming?』のツアーファイナルが行われた場所で、その凄まじい熱気については以前レポートに書いた。あれから10カ月、客層は少しずつ変わりつつある。わかりやすいのはフェスTシャツ着用率で、ROCK IN JAPAN、京都大作戦、SATANIC CARNIVALやDEAD POP FESTIVALなど、WANIMAが今年誘われたフェスの記念品を身につけているキッズが目立つこと。「こんなに近くで見れる!」と騒いでいるカップルもいたから、初めて単独ツアーに足を運んだのかもしれない。ラスタカラーのWANIMA Tシャツを誇らしげに着ている大多数をコアファンと考えれば、今は、驚くべき勢いで裾野が広がっている状況だ。

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 年齢層も然り。メインは20代の若者だが、明らかに親子とわかるペアも自然に溶け込んでいる。連れてこられたのではなく、自発的に足を運んだ小中学生も多いだろう。一曲目は最新シングルから「ともに」。フロアの後方、柵の上にちょこんと乗せられた6年生くらいの男の子チームが嬉しそうに合唱していた。まるで大好きなアニメ主題歌が流れた瞬間のように。彼らがMステで初めて「ともに」を知ったのであれば、目の前の光景はどんなにキラキラと輝いて見えることだろう。子供も飛びつけるわかりやすさとは、すなわち次へのバトンが繋がっていくことでもあるのだな、と痛感する。

 そんな青少年への悪影響(?)を考慮してか、MCで「ワンチャン」をあれこれ解説するシーンがなくなったのも印象的。サウンドは怒涛のパンクロックだが、3人の音は決してぐちゃぐちゃの塊ではない。クリアな低音が全体を支え、歌そのものがまっすぐ届いてくる。音響の変化も含めて、今のWANIMAは、より広いステージに見合うバンドになろうと進化している最中だ。

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 と、いろいろ真面目に書いているが、実際のライブは大興奮と大爆発と大爆笑の連続、果てることもない狂騒の極みである。このツアーのためのオリジナルSE「『JUICE UP!!』のテーマ」がド派手に鳴り響き、満面の笑みで飛び出してくるKENT(Vo/Ba)Aは「元気しとったー?」「ちゃんとゴハン食べよっと?」など、お節介オバちゃんみたいなMCを連発。まずは自分から顔をくしゃくしゃにしてみせ、あんたも笑いなさい元気になりなさいと尻やら肩やら背中やらを遠慮なく叩いてくるエネルギーは、もう「近所の兄ちゃん」というより「親戚の名物オバちゃん」級であろう。実際のKENTAは愛嬌も魅力も備えた28歳イケメンなのだけど、全ファンが一瞬にして無防備な笑顔になる感じ、もうこの人の前では何も格好つけなくていいと心を開く様子は、「オバちゃんの手料理、食べたかったぁ!」と甘えだす子供のようでもあると思う。

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 そして最高の手料理ことオリジナル曲が次々と登場する。曲数は意外と少ないが、漫才みたいなMCタイムも見せどころ(ツッコミのKENTA、ボケのFUJI(Dr/Cho)、ほとんど喋らないKO-SHIN(Gu/Cho)がオチ。このバランスは天才的!)。飛んで暴れて、おおいに笑って、曲が始まればまたジャンプと、一瞬だってテンションは緩まない。よくあるコンサートの定番、ツカミの曲から始まって、聴かせる中盤に入り、後半は必殺曲で大団円、みたいな流れがないのも面白い。全曲と全MCに笑えるくらい勢いがあって、どんな曲でも一語一句を唱和するファンがいるだけ。そう、強いのは歌と歌詞、つまり言葉だ。

 では、その「言葉」とは何なのか。何度も書いてきたことだが、WANIMAの歌の大半は、じつは応援ソングと言うのも憚られるような、痛み、辛さ、喪失、不安の記録である。しっかり2016年バージョンに進化していたFUJIの爆笑モノマネコーナーから、一転して雰囲気を変えたミドルテンポの「Hey yo…」。ここには〈信じてるんじゃない 知っている 今日もまた何処かでSOS〉という歌詞がある。まったく、絶望の確認といってもいいフレーズだ。楽観はどこにもない。〈耐えれなくてダメになりそうな時 忘れたいけど覚えているからね?〉と、刻まれた傷の深さを再確認するための歌なのだ。

 続く「1106」。これまた郷愁と喪失を歌った曲だが、前方のモッシュピットに佇む高校生くらいの女の子が、そっと涙を流していた。まだ化粧っ気もない、黒髪をおさげに結った少女の、具体的な痛みは私には知る由もない。ただ、〈想うように歌えばいいと 思い通りにならない日を〉とKENTAが歌うことで、今この瞬間の彼女が救われているのだとわかる。とても静かで綺麗な涙。こんなシーンが、きっとツアー中に何度も繰り返されてきた。モッシュピットの熱気はもちろん本物だが、少女の涙だってフロアの真実なのだ。見えないところで、誰かのSOSがそっと浄化されていく。

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 何がそこまで辛いのか、若き日のKENTAが何を見てきたのか、具体的な描写はない。それが本人の口から語られたことも今のところないと思う。でも彼の歌には実感がある。無根拠の「大丈夫」を言わない代わりに、確信をもって「お前も辛いだろ? 生きてんのギリギリだろ?」と肩を叩いてくる寄り添い方。前述した「親戚の名物オバちゃん」の比喩でいえば、デリカシーのないババアだと思っていた人が、実は誰より過酷な人生を乗り越えたうえで笑っていると知った時のような感じ。あぁ、だから、と腑に落ちる。だからこの人は強いのか、こんなにもあったかいのか。驚きは納得に変わり、揺るぎない信頼になるだろう。WANIMAのライブに行けば、何があっても生きていられる、と。

 アンコールはリクエスト制。今日が誕生日だからと選ばれた女の子から「雨あがり」が、2階席からは「つづくもの」が求められる。ユーモアたっぷりに客をいじるKENTAだが、なぜこの曲が選ばれるのか、本人が一番よくわかっているはずだ。目の前の彼ら彼女らは、内面の複雑な心をまるごとKENTAの歌に託し、この瞬間すべてを忘れて歌うことで、それぞれの日々を乗り切っている。WANIMAのブレイクは、ウケたとかバズったとか、そんな言葉で語れるものじゃない。さいたまスーパーアリーナだって棚ボタの偶然ではないだろう。シーンを動かしたものは、とびきり明るいバンドの音楽なのか、あまりにも必死な若者たちのSOSか。そのどちらでもあると私は思っている。

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(写真=瀧本”JON…”行秀)

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

■オフィシャルサイト
https://wanima.net/

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