『ハロー張りネズミ』劇伴音楽、バトルとホラー要素をどう表現? “絵合わせ”の演出に注目
ホラーシーンを演出した種々の劇伴
本作では、第4、5話を中心にホラーシーンに合わせて「恐怖」を感じさせる劇伴が数種類登場した。「恐怖」の音楽は感情移入的(説明的)な音楽に分類される。「映像との兼ね合い」という視点から特徴的だった劇伴を、ここでもまた3つのシーンを取り上げて記述する。
「カット・アウト」の手法を用いたホラーシーンの効果的な演出
「カット・アウト」とは、簡潔には「再生している音声を電気的にストンとカットする」手法である。第5話の開始早々、睡眠中の七瀬五郎がみていた夢のホラーシーンに対して、不協和音(不調和な音の集まり)に金物系のパーカッションも組み合わされた強烈なホラー音楽が使われていたが、夢から覚めると同時に劇伴に対してカット・アウトの手法を用いて「映像と音楽の両面で現実に戻す効果的な演出」が確認された。カット・アウトには、楽曲自体が終わることによるケースもあるが、このシーンでは、楽曲自体が終わっていなかったものをカットしたために、より現実に戻す効果が強く感じられた。
怨霊の声を模した音声と劇伴との同居
第5話で、七瀬五郎と河合節子(蒼井優)が怨霊退治のために床柱がある和室に向かっていくシーンで流れていた劇伴では、ボコーダーを使用して作られたような怨霊の声(所謂、「ロボット・ボイス」)を模した音声が使用されていた(劇伴とは別に状況内音声として付加されていたとも考えられる)。「恐怖」を音楽で表現する際は「無調性(調の中心を感じさせず、明確なハーモニーや旋律を持たない)」の音楽を用いることが非常に多く、このシーンの劇伴も例外ではない。したがって、非現実的な音声とも違和感なく同居していた上に、怨霊に近づいてきたことを暗示させるといった映像と音楽との結びつきも感じられた。ちなみに、このシーンでも、「ドアの取っ手」が勝手に動く瞬間に合わせて劇伴のカット・アウトが用いられ、ドキッとするようなアクセントになっていた。「カット・アウト」は「恐怖」を感じさせる劇伴と相性が良いとさえ感じる。
「ホラー音楽」と「バトル音楽」の両要素を含んだ劇伴
同じく第5話、一連のホラーシーンのクライマックスで怨霊が初めて顔を見せたシーンの劇伴は、強力なアンビエント、パーカッションのループ、ストリングス、怨霊の叫び声(状況内音声とも考えられる)など、様々な要素が混在した迫力のある音楽で、「ホラー音楽」と「バトル音楽」の両要素を含んだものとなっていた。恐怖とバトルといった両面で状況をダイレクトに説明し、第5話のクライマックスに強烈な印象を残した。上述したロボット・ボイスとは異なり「怨霊の叫び声とはっきり分かる要素」を取り入れることにより、映像と音楽との距離感が一気に縮まっていることにも注目すべきである。
以上、放送終了回で見られた特徴を記述してきた「バトル音楽」と「ホラー音楽」であるが、どちらにおいても映像でのアクセントのポイントに合わせて劇伴も従属するような「絵合わせ」の演出が見られたという共通点がある。もちろん、本作の劇伴は完成映像を見ながら秒単位で映像に合わせて作曲されているわけではない。そういった意味でも、上述した「カット・アウト」のような「音楽の進行状況に関わらず用いることができる手法」は、絵合わせ的な演出において重要な役割をもっている。
インスト・ジャズバンドという枠には収まりきらないほど多様な音楽を生み出しているSOIL & "PIMP"SESSIONS。先日8月23日にサントラ盤も発売されたが、ドラマ終盤ではどんな音楽が展開されるのか楽しみに待ちたい。
■タカノユウヤ
作曲家、編曲家。東京音楽大学卒業。
「映像音楽」「広告音楽」の作曲におけるプロフェッショナル。
これまでに様々な作品に携わるほか、各種メディアでも特集が組まれる。
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