3rdアルバム『A GOOD TIME』インタビュー
never young beachが語る、タフなバンドである必要性「社会にフィットしたバンドでありたい」
never young beachの勢いは誰にも止められない。ツアーファイナルである4月12日に開催された恵比寿リキッドルームでのライブについてこちらで書かせてもらった際、筆者は文中でそのように断言したが、勢いが止まらないだけではなく、そのアグレッションとも言えるパワーをしっかり裏付けるだけの作品を用意してきた。ただエナジェティックなだけではなく、なぜそうする必要があるのか、いや、それは必要じゃなく、必然なのだ、我らはこうであるべきなのだ、という絶対的な自負をこの新作にしっかり焼きつけてきた。メジャーレーベルからのデビュー作であり、彼らにとっては3作目となる新作『A GOOD TIME』。
曲がいい、聴きやすい、親しみが持てる、楽しい、心地よい……このバンドの良さを伝える言葉はこれまでにも星の数ほどあったが、今作にはそれに加え、音のレンジがグンと広がり、ちっちゃなスピーカーのデッキや安いイヤホンで聴いても、あるいは、これらの曲をひっさげて大きなステージのフェスに登場しても、どういう環境で誰が聴いてもワクワクするものになったと言っていい。そういう意味では、彼らが列の後ろにつくべきはスピッツやaiko。永遠に変わることのない、ポップスという名の指定席のある列だ。
とはいえ、彼ら自身は相変わらず。ボーリングのボールを手にして波打ち際を笑顔で駆ける『A GOOD TIME』のジャケット写真さながらに、5人は今も楽しそうに浮かれている。でも、この浮かれている笑顔の裏で、彼らはこの1年ほど、人一倍の努力を重ねてきた。目先のトリックやすぐに気づくようなわかりやすい変化球など要らない。では、どこが『A GOOD TIME』をポップスたらしめているのか。さりげなくギラつかせる5人の野心を問うた。(岡村詩野)
ずっとインディーにいるのかどうか? ってことを考えたら、それではダメだろう(阿南智史)
ーー今回のアルバムの中で、メンバーのみなさんそれぞれにとって、最もバンドとしての変化が現れていると思う曲、もしくは新しい挑戦をしようと思った曲。まず、そこから伺いましょうか。
阿南智史(以下、阿南):僕は「海辺の町へ」かな。これは切ない感じを出したかった曲なんです。そういう感じって今までの僕らにはなかったじゃないですか。この曲は、Aメロとかは普通にシンプルなコードなんですけど、サビの部分で、今までやっていなかったメジャー7thを使っているんです。別にメジャー7thを禁じ手にしていたというほどではないんですけど、でも、「この曲でやってみたいんだけど」ってメンバーに話したら、「ああ、いいんじゃない?」って結構あっさり(笑)。でも、僕にとってはすごく大きなトライだったんです。
鈴木健人(以下、鈴木):初めてでしたね、ここまで阿南が自分の主張を伝えて突き通してきたのって。そのメジャー7thからアウトロに向かう、ちょっとまどろむようなフレーズとかも「どうしても入れたい!」って言ってて。最初の16分(音符)もそこまでロマンティックじゃなくても……ってみんな言ってたんですけどね。でも、どうしてもやりたいって。
阿南:僕は今までこのバンドで結構自由にやってたんです。もちろん、曲には寄り添おうとしてて。ただ、この曲に関しては、みんなに寄り添ってもらったって感じですね。この曲は歌詞についてもそうで。曲のイメージと違う歌詞ができてきたから、「変えてほしい」って(安部に)言って。
安部勇磨(以下、安部):とうとうそこ言ってきやがったか! って思いましたけどね(笑)。僕にとってはこの曲、いい意味で、“どうでもいい曲”……“普通の曲”だったんですよ。だから、アルバムの中のバランスとか考えて、あえてこのままっていうか、歌詞もそこまで考え過ぎないで作っていたんです。でも、阿南が「書き直してくれない?」って。あの時は激震しましたね、僕ら(笑)。
ーー最初はどういう歌詞だったのですか?
安部:や、本当にどうでもいい感じだったんです。朝まで遊んで、また起きて……みたいな。本当に意味を持たせたくなかったんです。でも、ツアーかライブに向かう車の中で、いきなり阿南が「あれ、出がらしじゃね?」って言い出して。メンバーみんなそこにいるんですよ。もう公開処刑ですよ。歌詞にまで入ってきたヤツって初めてだったんで、ううううう~って感じで内面が傷ついて。そこまで言うんだったら……ってことで帰ってから書き直そうとしたんですけど、でも、結構僕としても何度か渋ってみたんですよ。「やっぱこのままじゃダメ?」とかって。だって、ここで折れたら、これから歌詞のクレームに全部対応しないといけなくなるから(笑)、防波堤が崩れるような気がして、ここで許していいものかどうか……って葛藤があったんです。でも、「できれば……」「もっと書けるっしょ、いつもの勇磨だったら」って言われて、そこまで言うんだったらやってやろう! ってことで書き直したんです。そしたら「こっちの方がいいって」って阿南も言ってくれて。いやあ、初めての体験でしたね。僕のフロントマンとしての立ち位置が崩れそうになりましたもん(笑)。
ーーこれまで、誰も安部くんの歌詞にはそういう注文をつけようって気持ちがなかったと?
巽啓伍(以下、巽):あまり考えたことなかったですね。「ああ、こういう歌詞を当てはめてくるんだ……」って、僕も最初この歌詞を見た時は思いましたけど……。もちろん僕らみんなこのバンドには思い入れはあるし、よくしたいという気持ちはあるんです。でもきっと、阿南は特にこの曲には強い思いがあったってことなんだと思います。
阿南:そう、この曲に対しては特にですね。ジョン・レノンの「ウーマン」をインスピレーションにしたような曲なんです。サビまでシンプルなコードで、サビになったらメジャー7thになるところとか、同じなんですね。なのに、よりによって、勇磨は最もどうでもいい歌詞を用意してきたんですよ(笑)。「眠い、寝ちゃうんだ」みたいな。
安部:いや、結果としてよかったんですよ。僕らの中で最も飄々としてて、このバンドに興味なさそうなアナンがそこまで言うんなら……ってことで書き直したんです。気持ち入ってて嬉しいなって。でも、歌入れした時に「どう?」って阿南に聞いても、「ああ、いいと思うよ……」って結構あっさりしてて。「え、そんな程度なの? もっと褒めてくれてもいいじゃん!」とは思いましたね(笑)。でも、そのくらい歌詞って難しいんだなって思いました。
阿南:実際、新しく書き直されたこの歌詞を聞いて、勇磨は歌い方も変わったなって感じたんですよね。
ーー確かに、安部くんのボーカルスタイルがここにきてまた少し変化しましたよね。去年の『fam fam』ではコブシが結構まわってて、すごく意識的に自分の歌い方みたいなのを作り上げようとしていた印象でしたけれど、今回は割と自然に声をお腹から出せている、喉であまり操作させていないストレートなボーカリゼイションだと感じました。
安部:そうなんですよ。実は、去年、冨田ラボさんの作品(アルバム『SUPERFINE』の「雪の街」)にボーカルで参加した時に、「自分はなんて力量がないんだろう!」って打ちのめされたんです。冨田さんのバックメンバーでもある方に、「猫背」「右肩が下がってる」とかそういう整体に関するような指摘もされて、バンドの中の歌い手、というポジションでどうやってちゃんと表現できるのか、ってことを改めて考えるようになって。それで一度ボイストレーニングに行ってみようってことで、今年に入ってから初めて通い出したんです。ツアーとかライブでキツくなってきていたっていうのもあったので、体調管理も含めて一度ちゃんと見直そうって。そしたら、本当に声が出るようになったんです。それはメンバーにも言われましたね。
鈴木:とにかく今回は歌のパワーアップが感じられるんですよ。もちろん、去年の『fam fam』の時のああいう感じもよかったんですけど、今は不自然さもないし、曲調や歌詞によって変えられるようなこともできるようになってるなって。
安部:僕の歌のクセは曲によっては邪魔になってしまう場合があるなって感じるようになって。音楽に寄り添うためにはもっとコントロールしないとなって。個性を出さないことが個性というか、もっと普通に歌うことの存在感みたいなものを出そうとは思ってて。とはいえ、僕らしい歌い回しや歌詞の特徴っていうのは絶対あるんで、消えることはないだろうなとも思うし。
阿南:まっすぐ歌うことって難しいじゃないですか。コブシを入れたりすると、それだけで個性になるし。でも、まっすぐ歌うことって、ブレスを入れても良い音程を持続させなければいけない。上手い人じゃないとできないことだと思うんですよね。それを、今の勇磨はできるようになってきているなって、感じていたんですよ。だから、歌詞を変えてもらったのって、本当に歌入れの直前だったんですけど、きっと対応してくれるだろうなって確信もあったんですよね。
ーーでは、安部くんにとって、一番の挑戦が現れている曲はどれでしょうか?
安部:僕はやっぱりそのボイトレの話じゃないですけど、「SURELY」ですね。ストレートなんですよ、この曲。ストレートな曲だと声のとっかかりが薄くなるんです。それだけに難しい。他の曲はどこかに引っ掛かりがあるんですけど、「SURELY」は本当にストレート。歌詞の感じもメロディも歌い方も。今回、どの曲も歌詞は新しいやり方を試しているんですけど、特にこの曲は曲自体ひねっていないという意味で新しいですね。リズムもこの曲は平らなんですよね。だから……またしても阿南なんかはすごく最初違和感を感じていたみたいなんですよね。
阿南:いや、これ、すごく開かれた曲なんですよ。小さなライブハウスじゃなくて、もっと大きな会場で演奏されたら映えるんじゃないかなって思えるような。最初は少しそこに違和感があったのは確かです。今の僕らのキャパより大きな曲だなっていうか。でも、実際、僕ら、今、演奏する場所が少しずつ大きくなってきているし、それだけにこういう曲は必要じゃないかなって思うんです。僕ら、どっちかっていったらインディー寄りというか、まあ、J-POPど真ん中ではないですよね。でも、じゃあ、ずっとインディーにいるのかどうか? ってことを考えたら、それではダメだろうなって思ったりもして。
巽:それすごくよくわかる。僕にとっては「気持ちいい風が吹いたんです」もそうなんです。より削ぎ落とされてシンプルになっている曲なので、勇磨のボーカルが生きているんですけど、僕自身は、ベーシストとしてバンドの中の立ち位置をすごく考えるようになった曲なんですね。今までって手癖で弾いてたというか、どの曲も同じスタンスで向き合っていたところがあるんですけど、「気持ちいい風〜」は、個性を落として、シンプルにしていく必要があるかなって思って向き合った曲ですね。だから、フレーズ自体シンプルだけど、僕が弾かなきゃいけない1音にかけることの重要さをすごく考えて演奏しています。例えば、SuchmosとかD.A.N.みたいに、ベースがすごくハッキリしてて、音源を聴いてもそれが前に出てるっていう在り方にどうしてもとらわれちゃって……でも、自分はこのバンドでどういう向き合い方をすればいいだろう? ってことを考えた時に、やっぱり動きは少ないかもしれないけどその1音をちゃんと聴かせようということに気づいたんですね。
安部:1音しかないけどすごく情報量が多いというか豊かな音ってあるじゃないですか? かっこいいベーシストにはそれを感じるんです。 たっさん(巽)もそういうベーシストであってほしい、このバンドでは、そうやって1音1音を凝縮して豊かに鳴らすようなプレイヤーであってほしいですね。派手に動けばカッコいいというものではないですしね。だから、たっさんには今回のレコーディングで結構一緒にベースの話をしましたね。「なんでそんなに動いてんの、お前?」みたいな(笑)。「そこでハネることによって、次のメロディが変わってくるよ?」とか「曲に対する理解度がないよ」とかね。もう、ボロッカスに言いましたね(笑)。だって、最初は仲がいいからってことで組んだバンドですけど、ここまでやってきて、もっとこれから大きくなっていきたいって時に、「言いにくい」とかそんな理由で我慢しちゃダメでしょ。スズケン(鈴木)と阿南は割と前からそういうコミュニケーションをとっていたんですよ。でも、すこしでもウソがあったらすぐバレちゃう世界だし、通用しないってこともわかってきたので、たっさんにはちゃんと言わなきゃいけないなって思って、今回はかなり強く言いましたね。で、まるごと録り直ししたりしました。そういう意味では、音だけじゃなく、人間関係もタイトになったと思います。
巽:確かに、録り直す前は歌のアンサンブルに合ってないかんじはしていましたね。