太田省一『ジャニーズとテレビ史』第三十三回:『コード・ブルー』&『ごめん、愛してる』

長瀬智也と山下智久がドラマに欠かせない理由ーー『コード・ブルー』『ごめん、愛してる』から考察

 この『池袋ウエストゲートパーク』、題材が題材だけに乱闘や対決など緊迫したシーンも多かったが、それ以上にコミカルな魅力が視聴者を惹きつけた。つまり、ドラマ自体がシリアスとユーモアが表裏一体になった作りを打ち出したところに最大の特長があった。

 その点で大きな役割を果たしたのが、演出の堤幸彦と脚本の宮藤官九郎である。

 堤は、バラエティ番組やCM、PVの演出の経験も踏まえ、多彩な撮影や編集の技術を駆使して独自の映像世界を築いた。1999年には『ケイゾク』(TBS系)、『池袋ウエストゲートパーク』と同じ2000年には『TRICK』(テレビ朝日系)の演出も手掛け、シリアスなストーリーの随所にパロディ的な小ネタや独特の効果音などユーモラスな要素を全編に盛り込む作風を一気に世に知らしめた。

 その演出作品には、堂本剛の「金田一少年の事件簿」シリーズ(日本テレビ系)などジャニーズが出演することも多い。長瀬智也と山下智久も例外ではない。たとえば、長瀬は2001年に『ハンドク!!!』(TBS系)、山下も2003年に『Stand Up!!』(TBS系)で堤作品に出演している。

 一方、いまや日本を代表する脚本家になった宮藤官九郎は、『池袋ウエストゲートパーク』が初の連続ドラマ執筆作であった。宮藤もまた、若者たちのシビアな現実などシリアスな世界を描きつつ、巧みに小ネタやテンポの良い会話を盛り込み軽快にストーリー展開していく作風で知られる。

 その代表作である『木更津キャッツアイ』(TBS系)など、宮藤作品にもジャニーズが出演するケースは数多い。そのなかでも長瀬智也は、『タイガー&ドラゴン』(TBS系)、『うぬぼれ刑事』(TBS系)、さらに映画になるが宮藤の初監督作品でもある『真夜中の弥次さん喜多さん』、そして『TOO YOUNG TO DIE 若くして死ぬ』と宮藤作品のすっかり常連である。

 こうして振り返ってみても、『池袋ウエストゲートパーク』が2000年代以降のテレビドラマに大きな影響を与えた作品のひとつであることは間違いない。シリアスとユーモアが表裏一体となった作りは、ドラマの定番中の定番的な手法になった。

 長瀬智也と山下智久は、先ほど書いたようにそんないまのドラマで要求される演技の資質を備えていたと言える。また『池袋ウエストゲートパーク』への出演以後、経験を重ねながらそうした演技に磨きをかけていった。

 たとえば、2005年に亀梨和也とダブル主演を務めた『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)で山下が演じた彰の、普段は「~だっちゃ」口調のとぼけた感じでありながらいざというときには正義感を発揮するキャラクターにも、それは感じられる。また今回『ごめん、愛してる』で長瀬が演じる役柄は、裏社会から離れてひとりで生きていくという点で、「大人になったマコト」を思わせなくもない。

 こうして長瀬智也と山下智久は、現在のテレビドラマにとって欠かせない存在になった。『池袋ウエストゲートパーク』から15年以上が経ったいま、俳優として成長した二人がまた共演する姿を見てみたいものである。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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