宇多田ヒカルの新曲は“ヒップホップ的な手法”がカギに? クリス・デイヴ参加の話題作を聴く

 さらに、この曲は“ヒップホップ的な手法”を取り入れたことも一つの特徴であると続ける。

「Aメロが忙しない日常を描写し、Bメロでドラムのブレイクとともに広い空がパーっと開けるような開放感があり、Cメロで会えない人への思いを切々と綴るという、ブロックごとの“絵の描き方”も秀逸ですし、それによってこの曲のヒップホップっぽさがうまく作用しているように思えます。セクションごとの楽器の抜き差しや、重低音の効いたミックスバランス、ブレイクビーツっぽいループ感のあるリズムなど、ヒップホップ的な手法を“ポップミュージックとして”昇華させた楽曲、という印象を受けました」

 最後に、同氏は宇多田の今後の展開について、こう期待を寄せる。

「3.11以降の日本人の喪失感は今も続いているというか、むしろより深まっていて、それが『Fantôme』の、彼女自身のパーソナルな体験と共鳴したのが、あのアルバムがあれだけ受け入れられた一つの理由だと思っています。新章ではその“喪失感”とどう向き合っていけばいいのか、”喪失感”を抱えて、私たちはどう生きていけばいいのか、という部分に焦点を当てた作品を聴いてみたいです。サウンド的には、クリス・デイヴの参加でも生じた“黒っぽさ”が引き続きどう作用するのか楽しみですね」


 7月28日には、ドラマ『ごめん、愛してる』(TBS系)の主題歌である「Forevermore」もリリースされる。この2曲を経て、宇多田が次に到達する新境地はどんなものになっていくのだろうか。

(文=中村拓海)

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