HYUKOHが定義する、新世代のロック・ミュージック “メロウネス”とリンクした音楽性を紐解く

HYUKOHが定義する新世代のロック

 このように様々なジャンルがフラットな視点で巧みに繋ぎ合わせられていることの他に、もう一つHYUKOHには特徴がある。

 それはデビュー当初からあった、メロウネスの存在だ。『23』ではロックの要素が強まったため相対的にメロウネスが薄れはしたが、その要素はいまだに彼らの大きな持ち味と言って良いだろう。いや、メロウネスってボーカルのオ・ヒョンが、R&Bが好きだから、そこから引っ張ってきてるんじゃないの? それについてはHYUKOHの多様な音楽性のところでもう説明したのでは? と思われるかもしれない。たしかにその通りだ。しかしそれでも、ここでメロウネスだけを抽出して話題にしたのは、楽曲におけるメロウネスの存在こそが、現在の音楽シーンの最先端とリンクするキーだからだ。いくつかの例を挙げながらそれについて説明しよう。

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"

 先日リリースされたばかりのCorneliusの11年ぶりのシングル「あなたがいるなら」は、国内のみならず、Pitchfork等の海外メディアでも極めて高い評価を受けた。楽曲の構造は様々な音色のズレを生かした非常に実験的なサウンド・デザインになってはいたが、なによりも人々を驚かせたのは、「あなたがいるなら」という歌詞を繰り返し歌うCorneliusのボーカルメロディを含めた、楽曲全体を覆うメロウネスだった。

Dirty Projectors - Little Bubble (Official Video)

 Dirty Projectorsの新作でもメロウネスはキーだった。USインディー・ロックの帝王といっても過言ではないこのバンドの最新作『Dirty Projectors』は、クラシック~現代音楽やR&B、ジュークなどを取り入れた、早くも年間ベスト級との呼び声も高い傑作だ。そこで特に注目を浴びたのが、かねてよりR&Bからの影響を公言していた、フロントマンのデイヴ・ロングストレスによるしっとりとした叙情的なボーカルだった。

Thundercat - 'Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)

 CorneliusやDirty Projectorsだけではない。いまやヒップホップやR&Bに留まらず、ポップスの領域までその影響力を轟かせている現代ジャズでも、その複雑な演奏や作曲をまとめあげているのはメロウな歌唱やムードであり、そこには実験性と大衆性が矛盾することなく同居している。そして、 メロウネスの本場であるR&Bでの活況は言うまでもない。

 メロウネスへのリンクこそが最先端へのキーである世界は、言い換えればあらゆる音楽がR&B化してゆく世界ともいえる。HYUKOHはおそらく意識せずにメロウネスという最先端の条件に、ロック・ミュージックをアップデートさせることで適応したと考えても決して間違いではないだろう。

 バラエティに富んだバンドサウンドをR&B的なメロウネスで彩り、新世代のロック・ミュージックを定義してみせたHYUKOHの快進撃は、まだ始まったばかりだ。

■八木皓平
87年生。クラシック~現代音楽の影響下で最新の音楽を鳴らす音楽家たちを紹介する【Next For Classic】を、Mikikiで連載中。 他にも『Jazz The New Chapter』シリーズ、『ザ・サイン・マガジン』『ユリイカ』『ラティーナ』『ototoy』等に寄稿しており、音楽について幅広く執筆しています。

『23』

■リリース情報
『23』
発売:2017年6月7日(水)
価格:¥2,315(税抜)
日本ライセンス盤
ライナーノーツ、歌詞和訳付き

■ライブ情報
SUMMER SONIC 2017
8月19日(土)ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ

トイズファクトリー アーティストオフィシャルHP

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