『TROPICAL LOVE TOUR』最終公演レポート
電気グルーヴのライブには二種類の“多幸感”があるーーZepp Tokyo公演レポート
今回のアルバム取材で、石野が「電気グルーヴは、真顔か笑顔で歌える曲のどっちかしかない」と言っていたけれど、この終盤の展開は、まさしく“笑顔”のそれだった(参考:電気グルーヴが語る、楽曲制作の流儀「悲しみや怒りを無理やり同意させるのはカッコ悪い」)。さらに、気が付けば20年以上も前の曲となっている「N.O.」を今歌う意味について、かつてふたりはこんなふうに語っていた。「体験から作った曲だから嘘がない」(瀧)、「嘘がなくて普遍的なところがあるから歌っていて恥ずかしくない」(石野)。このように胸を張って「N.O.」を歌える潔さが、今の電気のライブを、非常に風通しの良いものにしているのだ。
とはいえ、そのクライマックスは、アルバム同様、「ユーフォリック」、「トロピカル・ラヴ」という、実にフロア映えするふたつの楽曲が披露されたときだった。“ユーフォリック・トランス”や“トロピカル・ハウス”など、テクノ・ミュージックのトレンドに目配せをしたような、コンテンポラリーなサウンドが醸し出すメロウネス。ミラーボールの輝きのもと、思い思いに身体を揺らしながら生で体感するこれらの楽曲は、観客たちの身も心も解き放つセンシュアルな魅力を打ち放っていた。やはり、この2曲こそが、アルバム『TROPICAL LOVE』のキモであり、本作を“最高傑作”たらしめている理由のひとつと言えるだろう。
そんなクライマックスを終えたあと、アンコールで登場したふたりは、ついに堰を切ったようにしゃべり始める。とりわけ、観客のリアクションを待たずに次々と話題を変えていく石野のMCは、いつも通り、ほとんど幻惑的ですらあった。相方の瀧ですら「半分くらい何言ってるかわかんない(笑)」と言うのだから、その様子は想像つくだろう。さらには、なぜか最近恒例となっている「瀧、相撲とろうぜ!」という石野の呼びかけから始まる石野と瀧の大一番。この日は、立ち合いから四肢を広げた石野が瀧に飛びつき抱っこされるという不思議な展開に。なぜか会場から湧き上がる歓声と拍手。依然として既成概念を打ち破るトーク&パフォーマンスで観客の度肝を抜きながら、ようやくアンコール曲、ゲストアーティストの夏木マリが出演する映像とともに「ヴィーナスの丘」を披露。そして最後は、人生時代の楽曲をリメイクした「半分カメレオン人間」で、この日の幕を閉じたのだった。
テクノサウンドの高揚が生み出す音楽としての多幸感と、電気グルーヴーーいつも仲良さげではあったけど、最近とみに仲が良さげなアラフィフ男性ふたりが放つ多幸感が、絶妙なバランスで入り混じった空間。それが今の電気グルーヴのライブなのだ。野外フェスなどで観る電気グルーヴも最高だが、この“音圧”の至福と“密室”ならではの狂気のMCは、やはりワンマンならではのものだろう。文字通り“ユーフォリック(多幸感のある)”な体験。この日が初めての電気ワンマン体験という若い客もチラホラ見受けられたが、興奮気味で会場をあとにする彼/彼女らの頬は、なぜかちょっぴり赤らんでいたように思えた。
(写真=Masanori Naruse)
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。
■リリース情報
電気グルーヴ『TROPICAL LOVE』
発売:3月1日(水)
価格:通常盤(CD1枚)¥2,913+税
初回限定盤(CD1枚/DVD1枚/デジパック仕様)¥3,600+税
完全生産限定盤(CD1枚/映像コード/マグネット/レンチキュラーBOX仕様)¥4,600+税
完全生産限定LP’12inch LP2枚組)¥3,800+税
<収録曲>
1.人間大統領/Ningen President
2.東京チンギスハーン/Tokyo Genghis Khan
3.顔変わっちゃってる。/Kao Kawacchatteru.
4.プエルトリコのひとりっ子/Puerto Rico no HITorIKKO
5.柿の木坂/Kakinokizaka
6.Fallin’ Down(Album mix)
7.ユーフォリック/UFOholic
8.トロピカル・ラヴ/TROPICAL LOVE
9.ヴィーナスの丘/Venus Hill
10.いつもそばにいるよ/Stand by You
<参加ゲスト>
KenKen(RIZE, Dragon Ash, LIFE IS GROOVE)/Bass : 「人間大統領」
トミタ栞/Vocal : 「プエルトリコのひとりっ子」「トロピカル・ラヴ」
DJ Cookie/Voice : 「プエルトリコのひとりっ子」
笹沼位吉/Bass : 「ユーフォリック」「いつもそばにいるよ」
夏木マリ/Vocal : 「ヴィーナスの丘」
吉田サトシ/Spanish Guitar : 「ヴィーナスの丘」
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