音楽業界とクラウドファンディングの距離感はどう変化? アーティストの発言からその行方を探る
ここ2〜3年ほど、音楽業界で「クラウドファンディング」や、それに似たニュアンスの言葉・サービスを多く見かけるようになってきた。
物事の是非は一旦後回しにするとして、アメリカのクラウドファンディングサイト『KickStarter』などですでに当たり前になっていた事例が日本においても徐々に定着しつつあり、最近ではメジャー規模のアーティストによる活用例も少なくない。直近で一番話題になったのは、ぼくのりりっくのぼうよみによるメディア『Noah’s Ark』開設プロジェクトだろう。アルバム『Noah’s Ark』のコンセプトとも連動し、「情報の洪水」の時代を生き抜くための術を提示するWebメディアを設立するため、プロジェクトをスタート。結果的に7,027,086円の支援を集め、メディアアーティストの落合陽一や、セクシー女優の紗倉まな、歌人の穂村弘などをゲストに迎えた刺激的な記事をアップし、現在も運用が続いている(参考:http://noahs-ark.click/)。
もちろん、認知の拡大に伴って、クラウドファンディングに対するネガティブな意見も見かけるようになった。サービス利用への壁は依然として高いという声や、アーティスト性が損なわれるのでは、というイメージ面での拒否反応も多い。さらには「拝金主義」といった言葉で強くこれを批判する音楽家・リスナーも存在する。
筆者も日々の活動において、様々なメディアやサービスに触れることが多く、当初クラウドファンディングについては、その考え方こそ理解できるものの、テクノロジー分野以外の業界、つまり芸術領域との親和性を生み出すのは難しいのではないかという、先述の批判的な声に近い価値観を持っていたのは事実だ。しかし、アーティストや関係者への取材を通じて、「適切な使い方さえすれば、うまく乗りこなすことさえできれば、これほど便利なサービスはないのではないか」という考え方へシフトするようになってきた。
きっかけとなったのは、Awesome City Clubが7inch&CDシングル『アウトサイダー』をリリースするために立ち上げたプロジェクトのインタビュー【Awesome City Club×CAMPFIRE・石田光平対談 メジャーバンドがクラウドファンディングを使う意義とは? 】だ。この取材では、「メジャーレーベルに属するバンドがなぜクラウドファンディングを使うのか?」という率直な疑問も投げかけさせてもらい、「お金が足りないから集める」という一点ではなく、アイデアが先行しているが現状のリソースでは動けない場合や、プロジェクトを通じてファンとの距離を縮めたいとき、自分たちだけでは届かないがトライするべきタイミングなど、その目的にも多様性があることに気付かされた。これ以降、クラウドファンディングを使用するバンドは増加していったように思える。それは、後日行なった【Awesome City Club×CAMPFIRE家入一真対談 バンドとネットの関係はどこに向かう?】における家入氏の発言「クラウドファンディングが根付いてきたというよりは、お互いを支え合うという価値観の中で生きていかないと、結構この先しんどいかもしれないと、みんな何となくわかってきたのかな」のように、アーティストとファンを取り巻く状況に変化が生まれてきたのも影響しているのかもしれない。