映像作品『MORE FREEDOM』インタビュー
HEY-SMITH 猪狩秀平が語る、ライブとの向き合い方 「使命感はしんどいけど、夢がある」
「キープしたいと、一瞬でも思った自分が気持ち悪かった」
ーーそれぞれのドラマが見えたわけですね。自分のバンドに危機があったり、そういう波がやってくるというのは、あまり考えていなかったことでしたか。
猪狩:解散とか、休止していたバンドも周りにいたんですけど、自分がそうなるとは思ってなかった。ほんまにしんどいことなんやなと。前のメンバーが精神的に崩れちゃって、バンドがおかしいなって思いはじめてから休止するまでは、かなりしんどかったですね。
ーーその経験というのは、今のライブに活きているんですか。
猪狩:どうなのかな。具合的にはわかりません。あると思うけど、それを踏まえてこうしてるというのはあまりないかもしれない。
ーーMCでもよく、自分たちのためにやっているんだということを言っていますね。それは、活動当初から変わらない気持ちですか。
猪狩:そうですね。正直な話、一回、ブレかけたんですけどね。最初は自分のためだけというより、お客さん0人で、対バン相手しか見てないこともあったから、誰かのためもクソもないですからね(笑)。まず自分のためでしかないから、「かっこいいやろ? 誰か気づいて」からスタートしているので。誰かのためにというのが、最初はまったくなかったんです。段々とお客さんが来てくれるようになって、何百人とかいう単位の人が来てくれるようになると、一瞬それを守りたくなったんです。売れるために曲を書いて、キープするために曲を書きにいった“瞬間”があったんです。ほんの一瞬ですけどね。でもその時、この状態をキープしたいと、一瞬でも思った自分が気持ち悪くて。いやいや自分のためやろってなってからは、ずっとそうですね。いつもよりちやほやされて、それを手放したくないなと思った時期が、ちょっとだけありました。
ーーみんなのために、って思っちゃうような。
猪狩:そう。そんなタイプでもないのに(笑)。
ーーバンドのスケールが大きくなっていくと、MCもより大勢に向けて、外に向かってするようになるし、曲も外に向けていくようになるしというのは、たくさん見て来ていると思うんです。それは自分たちでは違うなと。
猪狩:誰とは言わないですけど、ライブのMCが、この会場の先にいる人に喋っているような人もいるなと思って。その会場にいた人が、SNSで「こんなことをMCで言ってた」と書くことが想定された、みんな用のMCとかメッセージというかね。そういうのってわかるんですよね。響かないし。そうはならんとこうっていうのはある。
ーー自分自身が見てきた、かっこいいなと思うバンドたちの影響は、このバンドでのライブにも影響していますか。
猪狩:俺らの憧れの人がどういう感覚でやってるのかは知らないけど、でも勝手に影響を受けていると思いますね。こっちに向かってたくさん言葉を喋ってくる人って、あまり昔いなかったというか。今は、曲よりもMC聞きに来ている人も多分いると思うんですよね。昔は、バンドやったらメンバー同士、ギターとベースが喋って曲にいくみたいのが、よくあったんですよね。そういうバンドで楽しいことをやっているから、それを見にきてっていうスタンスはかなりもらっていると思います。
ーー猪狩さんが、これは影響を受けたなとか、今の指針になっているのはどんなバンドでしょうか。
猪狩:NOFXですね。
ーーNOFXは、それこそ内輪受けのMCを繰り広げているバンドですね(笑)。
猪狩:ほんましょーもないことを、ずっとメンバーで喋ってるじゃないですか。ジャーンって曲が終わって、「昨日行ったSMパーティはこんなので」、「まじかよ」、「おい、その話やめろよ」とか。ドラムがハイ、ハイ、ハイいくよって、はじめるみたいな。ああいうのが見ていて楽しいんですよね。Hi-STANDARDも結構、難波さんと健さんとが、喋るんですよね。あまり、こっちに向けては喋ってないんです。「こんなことあったよね、健くん」、「そうだね。やっぱこうだからね、あは」みたいな。その感じが好き。
ーーそういったものが、今のHEY-SMITHのライブの形になってる。
猪狩:そうかもしれないですね。本来、別にMCなくてもいいくらいで。これからもっと少なくなっていくかもしれない(笑)。そうしていこうと思ってる。