矢野利裕の『ジャニーズ批評』
NEWSの新作はなぜ“西部劇”を連想させる? 矢野利裕による『EMMA』評
昨年末、ジャニーズの歴史を戦後日本との関係からつづった『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)という本を上梓した。おかげさまで好評をもらっているのだが、心残りだったことがひとつ。それは、ジャニーズの主要なグループのなかで、どうしてもNEWSだけを取り込むことができなかったということだ。最後の最後まであれこれと粘ったのだが、おもに紙幅の都合で、NEWSについて言及することができなかった。このことが入稿してからも、心残りで心残りで。ファンのかたにも申し訳ない気持ちがある。
この事態が示すのは、NEWSがジャニーズにおいて位置づけにくい、ということである。ジャニーズは歴史と系譜を重んじる事務所なので、そのグループから過去にたどっていくと、なんとなくジャニーズのなかでの位置づけが見えてくる。TOKIOのまえに男闘呼組とTHE GOOD-BYEがいたり、Sexy Zoneのまえに少年隊とJOHNNY'S' ジュニア・スペシャルがいたり、といった具合だ。『ジャニーズと日本』という本も、そのようなジャニーズの系譜みたいなものを強く意識して書いている。そう考えると、NEWSはどこに位置づくのだろう。基本的には、SMAP以降のテレビタレント型アイドルだと思うが、その位置は嵐をはじめ他のグループにも当てはまる。個人的には、加藤シゲアキの知性にほれぼれしており、そのことはすでに言及もしているのだが、グループの特色とまではいかない。もし、自分が気づいていないだけで、なにかしらの位置づけが可能であるのなら自分の批評眼のなさを恥じるのだが、いまのところ自分にはNEWSをしっかりと把握できなていない。そのことが、『ジャニーズと日本』執筆の最後の最後、NEWSに言及できなかったことにつながっている。
さて、そんなNEWSの新曲が発売された。カップリング含め、一聴したかぎりの印象は、アルバム『QUARTETTO』を聴いたときと同じである。それは、本連載でも書いたように「ポップスでありながらフロア対応も可能」だということだ(参考:NEWSが新作『QUARTETTO』で見せた音楽的可能性 従来ポップスをフロア対応型に?)。「Snow Dance」などもそうだが、NEWSの音楽はやたらとビートが太くて、EDM以降のマナーを強く意識している印象がある。もっともこれは、2010年代も後半となった現在においてはどんなグループも少なからず意識することなので、NEWS独自の特徴とまでは言えない。しかし、NEWSの楽曲はビートとウワモノが乖離気味で面白いな、という印象はなんとなく抱いている。
このことが思いきり発揮されているのが、リードトラックの「EMMA」だ。ジェーン・オースティンの小説が元ネタなのか、女性の名前を冠したこの曲に対しては、女性との危うい関係を歌った歌詞が話題になっている。ナタリーでは、「アメリカンハードボイルドな世界観と大人の色気が混じり合った恋の物語を歌う」とも紹介されている。「ピストル」「銃声」といった言葉が出てくるので、たしかにそういう都市的なハードボイルドの世界観を感じさせもする。ただ、たぶんこの曲、都市的なハードボイルドというよりは、もう少し西部劇の世界観に近い。<衝動的な女にピストル握らせ/風の中で口笛吹いて/不意に抱きしめたんだ><悲しい歌/野良犬さえ涙する><誰のせいでもない銃声が/月を撃ち抜いたんだ>とかも、むしろ荒野の西部劇を連想する。なぜそんなことを思ったのかと言えば、「EMMA」を聴いて最初に連想したのが、アメリカのカントリー歌手、ハンク・ウィリアムスの「カウ・ライジャ」(1953年)だったからである。いや、実際は全然似ていないのだが、ハーモニカと裏打ちのシンセサイザーがあきらかに、カントリー&ウエスタンをEDM化していると感じた。そこでハンク・ウィリアムスの顔が浮かんできた、というわけだ。ボトムがEDMでウワモノがカントリー&ウエスタン――これが「EMMA」という曲だ。なんと変わった音楽であることか。