市川哲史 × 藤谷千明 対談:『VISUAL JAPAN SUMMIT』がシーンで果たした役割とは 

『ルナフェス』にはLUNA SEAという“献身的な通訳”がいた

ーー『V-ROCK Fes』はネオV系以降のバンド中心の座組だったので、ここまでの幅広いV系のイベントはなかったかもしれませんね。

市川:うん。ただね、それは現在やるべきことなのか? っていう。

ーー「べき」とは。

市川:どうしてもルナフェスと比べちゃうんだけど、アレはV系のポップ・カルチャー的な意義や貢献を世間に明解に提示した、優秀なフェスだった。始祖鳥やミッシングリンク的役割を果たした“生ける伝説”バンドのみならず、思春期にV系を聴いて育った非V系バンドたちも多数出演したことで、V系が初めて音楽の文脈で語られた画期的な出来事だからね。

ーーそれは市川さんが評論家だからかもしれないですね。無論ルナフェスの方がLUNA SEAを中心にした文脈がはっきりしてますもん。

市川:うん。LUNA SEAという“献身的な通訳”がいたからこそ、さっき言った文脈がわかりやすく翻訳されたんだと思うよ。に対して今回は、そうしたカルチャー的解釈とは無縁のーー先輩やらOBやら新入りやら傍系やらが集合した大“集会”なんだな。要は。そういう意味ではとてつもなく非生産的なんだけど、これもまたV系らしさの一面だからなぁ。わははは。そういう意味では、音頭を執ったのがYOSHIKIというのは象徴的だし、その点でいえば相応しい。だけどと同時に、この期に及んでYOSHIKIが未だV系の顔として仕切ろうとしてる姿勢にも、すごく違和感を覚えたよやっぱ。

ーーそれはどういう意味ですか?

市川:秋に発売した近著『逆襲の<ヴィジュアル系>』のサブタイトル《ヤンキーからオタクに受け継がれたもの》にもあるように(←はい宣伝です)、マーケット規模は縮小したかもしれないけどヤンキー文化からオタク文化へと、時代の変容に上手く対応して生き延びてきた。しかも両極端と思われがちな日本ならではの二大体質を股にかけて「さあこれから」って状況なのに、いきなり初代総長が現れて「この族を仕切ってるのは俺でーす」みたいな。実質“V系は/いまも昔も/俺のショバ”宣言じゃん。

ーーさっきの属人性の話につながってきますね。

市川:引退したはずの面倒くさい先代OBが、誰も呼んでないのに帰って来ちゃったっていう。まあ、その大人げのなさこそYOSHIKIの真骨頂なんだけども(激嬉笑)。

ーー「YOSHIKIがゴールデンボンバーのステージでドラム叩きました!」的な。

市川:V系新世代の寵児・金爆を従えた自分の図、はYOSHIKIが今回描いてた数少ない青写真の一枚だったと思うよ? 早くからGACKTは可愛がってたしーーGLAYのHISASHIは単に面白がってただけだけど(苦笑)、某大物芸能人みたく皆、“非常識なエアバンド”に理解を示すことで自らの大御所的な懐の深さを見せたいというかさ。このへんの発想は、やっぱヤンキーっぽい。いいじゃない、金爆争奪戦。わははは。ちなみにキリショーはキリショーで、フェス出演決定直後から当日の出し物のネタを練りに練ってたからねぇ。

ーー構成もすごく凝ってましたよね。

市川:仕込んでたよぉ? 出番が終わった直後に感想を訊いたら、「YOSHIKIさんについて思い当たることを思いきり盛り込んでやってみたつもりでおります」と燃えつきてたし。「出る以上は徹底的にネタにしないと、自分たちの存在意義がない」的な、彼の正確な自覚は素晴らしいよね。さすがです。

ーーゴールデンボンバーにこの言葉を使うのはどうかと思いますが、私は「気合い」を感じました。

市川:上手い! あと、hideのコスプレしてる若い出演者がやたら目についたなー。V系永遠のアイコンなんだなhideはきっと。もしかしたらいまhide祭りを開催したら、V系の結束感は史上最強かもしれないねぇ。時は来た、かも。

ーーとはいえ、過去には「hideサミ」があったじゃないですか。

市川:アレは唐突なイベントだったからなぁ(←2008年5月3・4日味の素スタジアム『hide memorial summit』)。前年暮れのLUNA SEAと1カ月前のXの再結成ドーム公演の流れでなんとなく開催されちゃったというか、当時はV系自体に追い風は吹いてなかったんだよ。に比べて今回はというか、現在はなんかよくわからないけど追い風が吹いてる気がするもんね。楽天・三木谷氏なんか何を勘違いしてしまったのかわからないけど、V系にというかYOSHIKIに沢山お金払ってくれちゃってるし(失笑)。

ーー「対世間」という意味では、ゴールデンボンバーという追い風はあったのかもしれませんね。

市川:にしても清春はよく出たよね! でもどうせ出るなら黒夢時代の曲をやりなさいよ、その方が大人げあって恰好いいのにねぇ。まあ、惜しい奴がちょいちょいいましたな。

ーー個人的な話を申し上げますと、私は信者なので「さすがです清春さんです」としか……。

市川:もちろんお祭りだもの、信者は自分の神輿をひたすら担げばいいのよ(慈愛笑)。そういえば、今回のフェスのために一日復活とかしたバンドはいたんですかね。

ーー純粋にこのフェスのために復活したというバンドはいないかもしれませんね。かまいたちは去年期間限定で復活してますし、BY-SEXUALも11年に単発で復活ライブを行っています。

市川:でもシーンから離れて久しいひとは疎いからさ、このフェスで初めて復活を知った人は多いはずだよ。私なんか、かまいたちがいてバイセクがいて“往年のフールズメイトの目次”みたいな趣きを感じたもんね。

ーー1日目のバイセクのときに「BE FREE」あたりが聴こえたら、人がフロアに戻ってきたのが印象的でしたね。ある意味あの時が一番フェスっぽかったです。

市川:おっさんみたいな事言わせてもらうとさ、バイセクってソニマガ系でアイドル的に取り上げられてたから、V系黎明期のイロモノ視されてて、V系ムーヴメントが本格化するにつれて駆逐されちゃった感がある。そんな当時の力関係やカテゴライズを考えると、今回同じフェスのステージにバイセクもXも立ってる光景というのは、しみじみするな。

ーーあとは何が印象に残っていますか?

市川:俺個人的にはプラ(Plastic Tree)とかよかったねえ、彼らは音楽的にブレがないよ相変わらず。スイチャ(SWEET CHILD)勢の中でも珍しい、“普通にちゃんとした人たち”だもの(苦笑)。

ーー彼ら、近年は邦ロックフェスにも出てますしね。

市川:地味に活躍してるから好きだよ。あとAngeloはさすがのキリト・クオリティーだったね。あの超深夜限定男が午前中にライブしたんだから、それだけで讃えなきゃ。わはは。MUCCはルナフェスのときにも思ったけど、いいバンドになったよねぇ。もうこんなフェスで汗かかなくてもいいくらい、ちゃんとしてるもの。

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