シングル『FLIP FLAP FLIP FLAP』リリースインタビュー
伊藤真澄&ミト&松井洋平によるユニット・TO-MASが考える、“チームで音楽を作ること”の利点
「アウトプットする前に客観視してくれる2人がいるのは新鮮で面白い」(ミト)
――『フリップフラッパーズ』はかなり広がりがあるというか、音楽的にはいろんなことができてしまうような作品ですよね。
伊藤:もう、お腹いっぱい。腹十二分目くらいの感じでした。作品がね、普通じゃなかったから。
松井:メニューの分担は早かったですけどね。何より打ち合わせに初めから参加できたわけですから(笑)。でも、その打ち合わせがすごかった。全員が夏休みの終わりの中学生みたいに、メモを取っていて。
ミト:いま、現時点でオンエアしているコンテンツを観ていただければわかると思うんですけど……もはや一回見ただけではなんだかよくわからないんです(笑)。企画書もプロットも素材をいただいて、ある程度読ませてもらったんですけど、途中で放棄して「会って聞いた方が早い」と思ったんですね。で、打ち合わせで監督が「これから説明します」と言って40分ぐらいわーっと話してくれたのですが、大学の講義のような状態で。挙句その横では音響監督が「え、そんな設定だったの!?」とか言い始めるからこっちもドキドキしちゃって、終わるころには相関図もメモもぎっしり書いていたんです。でも、結局わからない。
ーー深まれば深まるほど奇想天外な世界観ですからね。
松井:そもそも曲が多かったんですよ。大抵の場合は曲が多くても共通のテーマ性があれば1曲を派生させていくことができますが、『フリフラ』の場合はバリエーションがあり過ぎて。
ミト:だからこそ、メニュー表でいただいた内容も決まるのは早かったけど、自分たちで手に負えないものをなるべくそっと避けていましたからね(笑)。でも、メタルものが回ってきたんですよ。書けないしメタルを弾くギターなんて持ってないから、プラグインを買ったんですけど、買っちゃ使い方がわからなくて放置し、また買っては放置し……。結局最後まで引っ張ってようやく作ったんですよ。
松井:3話の砂漠のシーンで使っていた曲なんですけど、めちゃくちゃかっこよかったですよ。
ミト:曲数の多さもカロリーの高さも兼ね備えていたのがこの『フリフラ』でしたね。これが私たちの中の初期活動として多分一つの山になるんだと思います。
伊藤:この作品で、3人で良かったと思いました。1人だったら精神的に辛いだろうし、確実に大変だった。
松井:数々の作品を1人で戦ってきた真澄さんがそれを言うってよっぽどですよ。
伊藤:「ピュアイリュージョン」という特殊な空間世界で、砂漠に行ったり、雪の世界に行ったり、説明のつかないものまで出てきたりして。舞台が各話で変わるので、その分違う音楽を書かなきゃいけなかったんですよ。
松井:12種類のアニメ劇伴を一つの作品でやっているようなイメージなので、僕らとしては基本的に曲は1話使い切りというつもりでした。
ーーちなみにレコーディングにはどれほどかかったのでしょうか。
伊藤:朝から晩まで、がっつり3日間くらいかな。次々とやっていって、千本ノック的でしたよ。
松井:録ってる間に「ポストプロダクションが間に合わないかも」と思い、その場でデータをもらって組み上げるようにしたんです。
ミト:それでも、その場での思いつきも試してみたり、その過程で「これも作らなきゃ」という追加要件も出てくるわけです。その最たるものが今回のシングルのカップリング曲であり挿入歌の「OVER THE RAINBOW」で。スケジュール的に難しいんじゃないかと相談しているときに、松井くんが今まで出来ている劇伴をチョップして引き伸ばしてキーを下げて合体させて、「1曲作ったんで」ってバンと出してきたんですよ。歌詞も一緒に。
ーー驚きのスピード感ですし、楽曲自体もアニメとマッチしたかのような展開で、つなぎ合わせたとは思えないくらい自然な流れになっていました。
ミト:すごいですよね。あと、実はこれらの劇伴と並行してエンディング曲も作っていましたが、これがリテイクになってしまいまして。
ーー今回のシングル表題曲にもなっている「FLIP FLAP FLIP FLAP」ですね。ボーカリストにはChimaさんを迎えていますが、その経緯と合わせて教えてください。
伊藤:最初に出した曲について、フィクサーからNGが出てしまって。
松井:その時にちょうど「ボーカルをどうしよう?」という話になって、ミトさんがChimaちゃんを見つけてきたんですよね。
ミト:打ち合わせ前日の飲みの席にたまたまChimaちゃんがいて、ギターを持っていたから試しに歌ってもらったらすごく良くて。で、真澄さんと松井くんに提案したら肯定的な返事だったし、次の日にChimaちゃんのライブがあったから、真澄さんが観に行ってくれたんです。そうしたらChimaちゃんの声と『フリフラ』の世界観が真澄さんの中で見事にマッチしたみたいで。
伊藤:ガチッとハマりましたね。で、その日に曲を書いたんですけど、どうもChimaちゃんに寄りすぎているものになっちゃったので、何回かやり直しつつ「FLIP FLAP FLIP FLAP」の原型ができました。
松井:その原型がすごく良かったので、歌詞もすぐ出てきました。
ミト:そしてそれだけでは終わらないのがこのチームなのですが(笑)、仮歌を録ってこのまま行こうとなったところで、真澄さんから「ごめんなさい、サビをちょっと変えます」というまさかの連絡がきたんですよね。
伊藤:サビの部分がすごく可愛いかったんですけど、清潔感があり過ぎるなと思ったんですよ。Bパートがファンタジックでグリム童話のような感じでしたが、サビにその要素がなかったのでもう一捻りしました。申し訳なかったけど、直したものに松井さんがすぐ歌詞を合わせてくれて。ばっちりでした。
ミト:変更した箇所を聴いたら、1小節ごと転調じゃなくて、2拍ずつ転調というアクロバティックな展開に変わっていて。ほぼほぼ同じキーだって真澄さんは主張するんですけど、これ無調ですから(笑)。
松井:調感はすごいですね。でももっとすごいのは、そんな展開をしているのにまた戻ってくれること。そこは真澄さんの上手さもありつつ、ミトさんがリズム周りで見事にキャッチーさを演出してくれて。とくにスネアとキックの使い方が素晴らしかった。下にズンと抜けるというか、一つひとつしっかり踏みしめていくような感じがして。
伊藤:私だったら絶対選ばないような音だった。なんども残るけど、邪魔はしていない。こうやっていてわかったこととしては、私が書いたものってどこか丸っこいんですよ。それをミトさんがシュシュっと綺麗な形にしてくれる。
ミト:キックとかスネアとかがメルヘンチックでヌルっとしていると踊れないんですよ。よくkz(livetune)くんとも話すんですけど、違うテクスチャーにEDM風キックを入れたりすることでポップなハマり方になることが往々にしてあるんですね。それはミュージシャンとして、他の作品を観たとき、その劇伴について感じることも多くて。
松井:作品の出来不出来じゃなくて、自分だったらこうするというアーティスト視点は入りますよね。
ミト:やっぱりこのユニットをやっていて楽しいのは、真澄さんに「ここ、もう一つ転調した方が絶対かっこいいと思うんだよね」と言ってもらったりすることで。自分で作ったものは俯瞰で見れないけど、アウトプットする前に客観視してくれる2人がいるというのは、新鮮ですごく面白いんです。
松井:普通だったらテレビで聴いて「ここにああいう音入れたいな」と思う瞬間があるじゃないですか。それができてしまうという。ミトさんが作った曲を聴いて「あ、これシーケンスが(自分の中で)鳴ってるわ」と思い、「ごめんなさいミトさん。シーケンス入れました」と事後報告したり。
伊藤:なにより、個性はそれぞれあるけど、3人の価値観が一緒なのがいいですよね。これが違ったら、良いエネルギーが生まれないですから。
松井:で、最後に僕が少しだけ音を足して、ファンタジーのお化粧をするという。お互いに遠慮しないのも面白いと思うんですよ。自分のバンドだと、逆に遠慮しがちというか、役割分担がしっかりできているから、お任せできる部分は任せ切っちゃうので。
ミト:あとやっぱり、コンテンツがあるというのも大きいんです。個々がソロアルバムを作るのではなく、最終的には「コンテンツに対して花を添える」という役割があるからこそ、どれだけうちらが主観的に曲を作っても、最終的にコンテンツに寄り添っていないものは振り落とされるわけですから。
――チームによる劇伴作りだと、自身の主観とコンテンツ側の客観に加え、もう一つほか2人の俯瞰が入るわけですよね。
ミト:個人で劇伴を作っていると、途中でカードが無くなったような気になるんですよね。でも、TO-MASはいい意味でぶん投げられる。そうすると、真澄さんから「こういうふうに色が付けられる」と教えてもらったりして、どんどん考える時間が少なくなって、本能的に思ったことを出せるんです。
伊藤:TD(トラックダウン)の時も、ミトさんが作った曲の素材をバサバサと私が落とした時もあったよね。
ミト:あれも目から鱗ですよ。事実としてテレビ放送を見ると、メロを削ぎ落としたもののほうが有効に使われているんです。こればっかりはやはり経験則が物を言うわけで、僕はまだその見識が浅いのだと実感させられる。その浅さをやっぱりカバーしてくれることによって、クオリティーはどんどん上がっていくわけですよ。
伊藤:本当、助け合ったよね。特に、『フリップフラッパーズ』は助け合ったよね。