『Live What are you looking for』に見る、ハナレグミの“芯”とは? 兵庫慎司によるアルバム考察
この日は、過去の名曲もやらないことはないけど、わりと最近の作品寄りの選曲だった。で、もちろん、『What are you looking for』収録の13曲から11曲が歌われた。そして、その11曲が、それ以外の曲たちとごく自然に並んでいること……いや、違和感なく並んでいるんだけど、その中でも突出していることに、改めて感動した。
というのはだ。ハナレグミはここ数年間、「ひとりで作ってひとりで完結させる」という方法よりも、誰かと一緒に何かを作ることをやりたい、という方向で創作をしている。
2016年5月に公開されヒットした是枝裕和監督の映画『海よりもまだ深く』の劇伴と主題歌を手がけたタイミングで、このリアルサウンドでハナレグミにインタビューした時も、その話をしていたのでまだの方はぜひご一読いただきたいが(こちらです)、2011年に砂田麻美監督の映画『エンディングノート』の依頼を受けてその劇伴とエンディングテーマを作ったあたりから、その傾向は始まっている。そのあとに完成させたアルバム『オアシス』(2011年)はひとりで作っているが、制作自体は『エンディングノート』の前だし、その次の2013年5月リリースのアルバム『だれそかれそ』はカバー・アルバムだし、その次にとりかかったのは(リリースはあとだが)是枝監督から依頼された『海よりもまだ深く』の劇伴と主題歌だし、それに続いて制作に入った『What are you looking for』は、全13曲のうち8曲の作詞もしくは作曲もしくはその両方を、外の作家に委ねた作品になった、というわけだ。
そもそも、確か初めてNHKホールでワンマンをやった時(なので2004年だ)、すでにくるりやスーパーカーの曲をカバーしていたし、フィッシュマンズで歌ったり、東京スカパラダイスオーケストラのゲスト・ボーカルシリーズに参加したり、冨田ラボにも招かれたりしているし、人の曲を歌うこと、歌い手に徹することも、もともと好きなのだと思う。
それから、SUPER BUTTER DOGの初期の頃は、メンバーとともに曲を作ったり歌詞を書いたりもしていたので(たとえば1998年リリースのセカンドアルバム『333号室』では、作詞クレジットも作曲クレジットも池田貴史とふたりになっている曲があるし、他のメンバーとも共作している)、劇伴のように何かとコラボして作ることも、性に合っているうのだとも思う。
ただ、映画の劇伴やカバー・アルバムは、そのことに素直にうなずけるアルバムだったが、『What are you looking for』では、ちょっと予期せぬことが起きた。
先に書いたとおり、レキシ池田貴史、キセル辻村豪文、堀込泰行、大宮エリーなど、さまざまなアーティストが作詞もしくは作曲もしくはその両方で参加したこのアルバムは、ハナレグミが自分では書かない・書けないような曲を歌う意外性が楽しい作品、にはならなかった。むしろ「すごくハナレグミ」「ずっしりハナレグミ」「今のハナレグミ以上にハナレグミ」な1枚になったのである。
身もフタもなくざっくり言ってしまうと、「重い」とか「シリアス」とか「ヘヴィー」とかいうような言葉で形容されるにふさわしい曲が並んでいる。「光と影」で言うなら「闇の向こうの光を見に行こう」のあとに「光の先の闇を見に行こう」と歌うような、「家族の風景」を描く時に「友達のようでいて 他人のように遠い 愛しい距離が ここにはいつもあるよ」と「距離」という言葉を使うような、ハナレグミのコアの部分が、ハナレグミではない作家たちから噴出している、そんな作品集になっている。
それが特に顕著に出ているのが、作詞も作曲も外に委ねた2曲、RADWIMPS野田洋次郎による「おあいこ」と、真心ブラザーズYO-KINGによる「祝福」だ。
「おあいこ」は、「きみ」に対する自分の気持ちの中にあるずるさや残酷さをさらす、告解あるいは懺悔の歌。このせつなくエモーショナルなメロディとあいまって、ライブで聴くととにかく痛く生々しく響く。「究極 孤独 幸福」という、もうこれ以上シンプルでこれ以上本質的なものはないキラーフレーズをたたきつけてくる「祝福」は、日々どう考えてどう生きていくべきか、という指針についての歌。ライブで淡々と、でもほのかに明るく楽しそうに歌われると、ある種宗教的な、とまで言っていいくらい崇高な感触で、こちらの耳に届いた。
野田洋次郎にもYO-KINGにも、こんなすげえ曲人にあげてどうすんの、自分で歌いなさいよ、と言いたくなったが、ただどちらも、ハナレグミに提供するからこそ書けた曲なんだろうな、とも思う。つまり、作品の提供を求められると、「ハナレグミスイッチ」みたいなものが入ってしまう、「ハナレグミターボ」のようなものがかかってしまう、そういう結果になったのだった、参加しているクリエイターみんなが。
『Live What are you looking for』を聴くと、『What are you looking for』の曲たちが、それまでの曲たちに負けないほど、いや下手したらそれを上回るレベルで、言わば「芯を食っている」ことが、聴き通していくとよくわかると思う。
また、それらの曲を永積 崇が悠々と楽しそうに歌いこなしているさまにも、改めて何か感じるものがあるのでは、とも思う。この日のライブを観ていた僕も、こうして聴き直して、今まさにそうなっているので。
■兵庫慎司(ひょうご・しんじ)
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。
■リリース情報
『Live What are you looking for』
発売:2016年9月13日
※配信限定ライブアルバム
・iTunes Store
・レコチョク
・mora
ほか音楽サイト 及び 一部楽曲を定額制音楽サービスにて配信
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