『ヒップホップ・ジェネレーション[新装版]』インタビュー

宇多丸が語る、名著『ヒップホップ・ジェネレーション』をいまこそ読むべき理由(前編)

磯部「『ゲットダウン』は、オールドスクールの研究が進んだ中で、改めてそれをデフォルメした作品」

磯部:今回の新装版刊行にあたって改めてこの本を読んでみて、印象に残ったところはありましたか?

宇多丸:改めて納得したのは、サウス・ブロンクスのギャング団の感じとか。『ゲットダウン』に出てくる架空のギャング団が、どちらかというとロックっぽい格好をしているんだよね。『ウォリアーズ』(ウォルター・ヒル監督、79年)ってギャングの映画も、バンバータたちをモデルにしたっていわれているけれど、格好とかはちょっとロック風というか、白人風で。それは映画だからそういう表現にしているんだと思っていたんだけれど、ドキュメンタリーの『ラブル・キングス』(シャン・ニコルソン監督、15年)を観たら実際も同じような感じで。さらに本書を読み直したら、「ああ、なるほど」って、像として一致するところがあった。

磯部:『ゲットダウン』は、オールドスクールの研究が進んだ中で、改めてそれをデフォルメした作品という感じがしましたね。

宇多丸:それこそ、この本がなかったら作れなかったんじゃないかと思うくらい。サウス・ブロンクスの社会状況や、ポリティカルな背景も同時に描かれているから。

磯部:あと、ヒップホップが突然始まったわけではなくて、それまでのカルチャーからどう枝分かれしていったのか、みたいなこととか。

宇多丸:ラップっぽいことは、ヒップホップ以前からあって、それをどんな風に進化させて……って、もちろんフィクション化されてるんだけど、実に見事にわかりやすく説明されていて、面白かったな。

磯部:ラップのスタイルが時代と合っていないところがあるのはちょっと気になりましたけど。

宇多丸:そこね! 最初にフラッシュのパーティーに行ったとき、主人公が「うわー!」って衝撃受けて、いきなりラップすることになるんだけれど、ちょっとラン・DMC調だったりさ。相手のチームのラップとか、これ90年代でしょ? っていう感じだったり。掛け合いとかも、よく出来すぎてて。でも、フラッシュの顔は似てるなとか(笑)。

磯部:『ストレイト・アウタ・コンプトン』のドレと同じで、似せつつ、ちょっと男前になってましたね。それも、ある種の歴史修正主義なんでしょうか(笑)。

(取材=磯部涼/構成=編集部)

■書籍情報
『ヒップホップ・ジェネレーション[新装版]』
発売中
著者:ジェフ・チャン
序文:DJクール・ハーク
翻訳:押野素子
定価:本体2,200円+税
仕様:四六判/808ページ
発売:リットーミュージック

<本書の主な登場人物>
DJクール・ハーク、アフリカ・バンバータ、グランドマスター・フラッシュ、ロック・ステディ・クルー、FAB 5 FREDDY、DONDI、リー・キニョネスほか、著名グラフィティ・ライター、ジャン・ミッシェル・バスキア、チャーリー・エーハーン(『WILD STYLE』監督)、ランDMC、アイス・T、パブリック・エナミー、スパイク・リー、N.W.A、ロドニー・キング、ルイス・ファラカーン(ネーション・オブ・イスラム)、ボブ・マーリー、リー“スクラッチ”ペリー、マルコム・マクラーレン、ザ・クラッシュ、70年代ブロンクスのギャングと80~90年代ロサンゼルスのギャングたち

<CONTENTS>
LOOP 1 バビロンは燃えている 1968-1977
LOOP 2 プラネット・ロック 1975-1986
LOOP 3 ザ・メッセージ 1984-1992
LOOP 4 ステイクス・イズ・ハイ 1992-2001
解説:高橋芳朗

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