岩里祐穂×高橋久美子、名曲の作詞エピソード語り合う「新しいものは“違和感”から生まれる」

岩里祐穂×高橋久美子、作詞エピソード語る

 今井美樹、坂本真綾、花澤香菜、ももいろクローバーZ……あらゆる時代で活躍する女性シンガー/アイドルたちの作品を中心に数多く手がけてきた作詞家・岩里祐穂。今年の5月にリリースした活動35周年記念コンピレーションアルバム『Ms.リリシスト~岩里祐穂作詞生活35周年Anniversary Album~』のリリースを記念し8月27日、『岩里祐穂 presents Ms.リリシスト~トークセッション vol.1』を開催した。本イベントは、岩里がさまざまな作詞家を招き、作詞について語り合うというシリーズ企画。

 この日のゲストとして登場したのは、作家・作詞家として活動する高橋久美子。岩里がチャットモンチーのファンであったことから交流がスタートし、高橋がパーソナリティを務める『ごごラジ!』(NHKラジオ第1)に岩里が出演するなど、これまでも共演経験のある両者。それぞれが作詞を手がけた楽曲からお互いに曲を選び紹介するコーナーでは、それぞれの楽曲に関するエピソードを聞くことができた。本記事ではそのトークセッションの一部をご紹介したい。

作品分析コーナー

チャットモンチー「シャングリラ」(作詞:高橋久美子)

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岩里祐穂

岩里:『ミュージックステーション』にチャットモンチーが出ているのをはじめて見たときに、「これはなんだ!」と思ったのがこの曲を知ったきっかけです。「シャングリラ」には「桃源郷」とか「楽園」の意味がありますけど、なんでシャングリラなんだろうと思っていたら、これは女の子の名前なんですね?

高橋:そうなんです。女の子の名前が「シャングリラ」がいいなと思ったんです。これは大学生のときに書いた歌詞で、その時期はあふれるように1日に10個くらい詞を書いてました。卒論で宮沢賢治の研究をしていたので、そういうところから影響を受けた部分もあるかもしれません。ゼミの資料をつくろうとしても、歌詞があふれてきてプリントの裏が全部歌詞になってしまって、朝までゼミの資料をつくらず詞を書き続けたということもありました。ちょうどその頃のものですね。

岩里:シャングリラにしたのは相当変わってると思う(笑)。私は常々、新しいものはある種の違和感からしか生まれないと思っているんだけど、これはなかなかの違和感でしたよ。

高橋:実はあとからシャングリラが桃源郷だということを知って。「これええやん! 一石二鳥やん!」と思いました(笑)。書いてるときは本当に知らなかったんです(笑)。

岩里:それはとてもめでたい(笑)。歌詞はどういう順番でできたんですか?

高橋:まずタイトルが出てきて、歌詞もこの並び順どおりにできました。

岩里:詞が先にできることを「詞先」、曲を先にいただいてメロディにあてはめて書いていくこを「曲先」といいますけど、ということはこの曲は詞先ですね。

高橋:そうですね。チャットモンチーは、曲の90%が詞先でできていました。

岩里:この詞はもともと音楽にするつもりで書いた詞?

高橋:中学校3年生から詞を書いているので、そういうことは意識せずに書きましたね。<携帯電話を川に落としたよ>の部分とかは、本当にむしゃくしゃしてたんだと思います。私は酔っ払って歌詞を書くこともときどきあって。数カ月後にノート見ると、さっぱり覚えていないけど、いいフレーズがたくさん転がっていたり。この曲もそういう部分がありますね(笑)。

岩里:(笑)。そのあとの<笹舟のように流れてったよ>のフレーズもいいよね。大学時代に笹舟というワードが浮かんだこともすごいし、携帯電話が流れていくのを笹舟にしたというのに感心しました。

高橋:携帯電話は普通は沈みますからね(笑)。何人かのファンの方に「沈みますよね」と言われましたことがあって。

岩里:あ、そっか! 今気づいた(笑)!

高橋:やはり岩里さんは、詩人ですね。まあでも、桃源郷だから流れるんでしょう(笑)。

岩里:<希望の光なんてなくたっていいじゃないか>は、酔っ払ってない時に出てきたフレーズ(笑)? ここも素敵ですよね。希望があるから大丈夫だ、ということはよく言うじゃない。どこかに希望があるから前をむいて歩こうとふつうは書くんだけど、「希望なんかなくてもそれでいい」というのは新しいと思ったんですよね。

高橋:「生きていくほかないものね」ということですよね。大学時代は就職のこととかもあったので、このような歌詞が生まれたのだと思います。

ももいろクローバーZ「サラバ、愛しき悲しみたちよ」(作詞:岩里祐穂)

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高橋久美子

高橋:ももクロさんたちの10代のものすごいパワーがわーっとでているところに、同じくらいのパワーの言葉で太刀打ちしているのがすごいです。歌詞にでてくる「VS」というワードはどのあたりから思い浮かぶのでしょう。

岩里:この曲は『悪夢ちゃん』(日本テレビ系)というドラマの主題歌で、天使と悪魔のイメージや白と黒の衣装を着せたいというビジュアルが先にありました。布袋寅泰さんのかっこいいデモを聴きながら、詞もさまざまなパーツを串刺しにした感じ。どあたまのラップのようなところでは、良い自分と悪い自分の“2人の自分”の葛藤を話し言葉で表現したかった。日常は曖昧で、理路整然としていないでしょう。そんなところも表現できたらと思ったの。

高橋:<見ざる言わざる聞かざる>のところとか、哲学的ですよね。

岩里:そこはノリかな。日頃から話していたときに面白いと思った言葉をメモしていて、この曲はそういうストックしていたワードのコラージュなんです。

高橋:<だったら許す>のあとに、<だったら笑え>と続くところもさすがだなと思いました。サビの<眠れない羊の群れ>もインパクトがありますよね。眠れないときに数えるのが羊だけど、眠れない羊……あれ? って。

岩里:あ、それは誰かにも言われたことある(笑)。

高橋:シャングリラと同じで、歌詞で「なにこれ!」となる曲かもしれません。

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