UNISON SQUARE GARDENはなぜ“異色の存在”であり続ける? レジーが『Dr.Izzy』から考察

『Dr. Izzy』と天邪鬼精神

 「結局ね、スゴイ言語化しにくいタイプの音楽なんですよ。もっというと純粋に音楽的な音楽なんですよ。要するになにかの文脈に繋がるものではないので書きにくいのです。(中略)ユニゾンのようにただひたすら上手くていいバンドって日本の音楽ジャーナリズムってどう評価していいかわからないんですよ」(ブログ「kenzee観光第二レジャービル」2011年8月16日

 『「ネオ漂泊民」の戦後』の著者である中尾賢司こと人気ブロガーのkenzeeが自身のブログにてこう指摘してから約5年。「キャラ」や「文脈」に依拠しがちな既存の音楽ジャーナリズムの枠組みでは語りづらい、そんな姿勢を頑なに変えなかったバンドはいつの間にかシーンの中心で動向が注目される存在になった。

 7月6日にリリースされたUNISON SQUARE GARDEN(以下ユニゾン)の新作、『Dr.Izzy』はオリコン初登場3位を記録。オリジナルアルバムとしては彼らの最高位を更新するとともに(これまでは『Catcher In The Spy』の5位が最高)、初動の時点で今まで最もセールスをあげていたアルバム『DUGOUT ACCIDENT』を上回った。

 この好成績の裏側に、2015年における彼らの大躍進があることは間違いない。15年6月にリリースされた「シュガーソングとビターステップ」はiTunesの総合チャートで年間5位にランクインし、その年を代表する楽曲のひとつとなった。また、7月には結成11年目にして初の武道館公演を開催。会場を隅から隅まで埋め尽くしたオーディエンスを前にして、ストイックな中にもショーマンシップが宿る素晴らしいライブを展開した。これまでも高度に構築されたアレンジやキャッチーなメロディ、奇想天外な歌詞に対して高い評価を受けていたユニゾンは、ここにきて名実ともにメインストリームのバンドとなったのである。

 そんな状況を受けて発表された『Dr.Izzy』は、「スリーピースのバンドでもここまでいろいろなことができるんだ」ということを誇示するかのようなバラエティ豊かなサウンドに彩られた作品になっている。3曲目に配された「シュガーソングとビターステップ」の前に鳴らされるのは、いつになく壮大な(個人的にはPerfume「Cosmic Explorer」を思い出した)「エアリアルエイリアン」とユニゾン印のドライブ感満載の「アトラクションがはじまる(they call it “NO.6”)」。アルバム中盤にはギターのリフが中毒性を生むAメロとコーラスワークがキュートなサビのギャップが心地よい「マジョリティ・リポート(darling, I love you)」、終盤にはジャジーなムードの中にバンドの演奏力が映える「mix juiceのいうとおり」などが収録されており、彼らの様々な側面を楽しむことができる。また、歌詞の面白さも相変わらずで、「BUSTER DICE MISERY」では<クルセイダー><シュレーディンガー>といった普通のポップソングでは馴染みのない単語が登場したかと思えば、「オトノバ中間試験」では<斎藤に任せといて>なんていうおちゃめなフレーズが飛び出したり、アルバムラストの「Cheap Cheap Endroll」では<君がもっと嫌いになっていく>と聴き手を思いっきり突き放してみたりと、どこを切ってもリスナーを飽きさせない展開が繰り広げられている。

 ロックバンドとしての底力が感じられる充実の6作目ーーとまとめることができる『Dr.Izzy』だが、ここでは今作を聴いた直後に感じた不思議な「肩すかし感」について告白しておきたい。聴き終えた後に残った「あ、もう終わりか……」という趣の何とも言えない感触は、ポップに突き抜けた4作目『CIDER ROAD』とも、強烈な切れ味が気持ち良い5作目『Catcher In The Spy』とも全く異なるものであった。この感じはなんなんだろう、もしかして様々なタイプの曲があるゆえにアルバムとして散漫なものになっているのだろうか……。

 そんなことを思っていた矢先に目に入ったのが『Dr.Izzy』に関する田淵智也のこんなコメントである。

「やはり「シュガーソングとビターステップ」が入るので、それ以外をどうやったら自分の意図通り、過大評価も過小評価もされないレベルでできるかなっていうのを、なんの衒いもなく計画できたアルバムなんですよ」(MUSICA 2016年7月号)

 バブルはいらない、でも自分たちのやっていることを正しく評価してほしい。そんな気持ちが垣間見えるこの発言を読むと、自分が『Dr.Izzy』に感じた印象の意味がおぼろげながらわかってくるような気がする。つまり、ユニゾンに対する「世の中の過大評価」が始まりそうなタイミングにおいて、彼らはそんなムードに冷や水を浴びせるようなアルバムを作ったと言えるのではないか。多様な曲調が飛び出す収録曲のラインナップも「「シュガーソングとビターステップ」はあくまでもバンドの一側面にすぎない」ということを強調するためだと考えれば辻褄が合う。

 「シュガーソングとビターステップ」でユニゾンに興味を持った人向けにそういったタイプの楽曲を並べるわけでもなければ、かと言って『CIDER ROAD』『Catcher In The Spy』のようにサウンドとしての統一感を出しているわけでもない。言ってみれば、「自分たちはこんなこともやるんですよ」というように手持ちのカードを順番に開示していくかのような自己紹介としてのアルバム。それこそが『Dr.Izzy』という作品の正体なのではないだろうか(ちなみに今作のキャッチコピーは「ユニゾンを解剖する。」である)。定石で考えるとこのタイミングでこういう形のアルバムを出すことは決して効率の良いやり方ではないように思えるが、そういうことをさらっとやってしまう天邪鬼精神こそがこのバンドの面白さでもある。

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