UNISON SQUARE GARDENはなぜ“異色の存在”であり続ける? レジーが『Dr.Izzy』から考察

ホールでのライブと「自由に楽しもう」

 「効率の良いやり方ではない」という表現を先ほど使ったが、ユニゾンの活動を見返してみると「効率良く“やらないこと”」という点においてかなり徹底されているのがよくわかる(YouTubeで楽曲のフル動画が公開されていないのもこういった活動方針の表れだろう)。訴求点をシンプルに絞ることで伝達スピードが上がるというのは商売の鉄則であり、「自分たちの特徴はこれです」というステイトメントをはっきり掲げた方が支持は広がりやすい。その程度のことは当然わかっているはずだが、それでもユニゾンはそういったやり方には背を向け続けている。

 そんな彼らのスタンスが最もわかりやすく表れているのが、ライブに対する向き合い方である。「大箱で一発やって終わり」という形ではなく地方のライブハウスやホールを丁寧に廻るスタイルは、「時間がかかってもファンの“地元”に足を運ぼう」というユニゾンの誠実さの賜物とも言える。

 ユニゾンのライブに関する特徴的な考え方として、「スタンディング至上主義への挑戦」というものがある。7月15日から始まった全国ツアーも、全44公演のうち約半数が全席指定のホールでの開催。ロックフェスの一般化も含めて「ロックバンドのライブは決まった席のない場所においてオールスタンディングで楽しむ」という考え方がすっかり定着しつつある中、彼らのこのスタンスは異彩を放っている。

 ホールでのライブにおいても、ボーカルの斎藤宏介は決まってMCで「自由に楽しんでください」と発言する。このメッセージは「オールスタンディング=席がないという“表面的な自由”が与えられない場所でも、あなたたちは心から自由に楽しめますか?」というオーディエンスへの挑発のようにも解釈できる。そして、バンド側から「精神的な自由」を担保するかのように、ユニゾンは決してライブ中に「盛り上がっていきましょう」と客席を煽ったり手拍子を要求したりしない。オールスタンディングという一見自由な空間で実は数多の「お約束」が蔓延することの多い最近のロックバンドのライブとは異なる空間をユニゾンは作り出そうとしているし、ライブに参加するオーディエンスもそれに呼応して思い思いの形で熱狂を表現する。

 ツアー初日となる東京・オリンパスホール八王子でのライブにおいても、バンドとオーディエンスが相互作用を見せながら会場全体が熱を帯びていくという素晴らしい光景が展開されていた。オールスタンディングの観客を煽り倒して「人工的な一体感」を形成するのではなく、いす席によって個々人に分断されているとも言えるオーディエンスをインパクトのある演奏のみで夢中にさせていく。ライブにおいて「皆で一緒に楽しむ」ことを重視する傾向が(アーティスト、オーディエンス双方において)強くなっている中、周囲を気にせずロックバンドの演奏を一人で無心に浴びることができるのがユニゾンのライブである。

ロックンロールを追求し続ける

<気安くロックンロールを汚すな> (「デイライ協奏楽団」) 
<完全無欠のロックンロールを> (「フルカラープログラム」)

 ユニゾンは初期作の頃からたびたび「ロックンロール」への憧憬を言葉にしているが、それを実現するための彼らのアプローチは「いい曲を作る」「いいライブをやる」というサイクルをひたすら回し続ける古典的なものである。フェスの動員やSNSでのバズを活用して人気をテンポよく拡大していく(水増ししていく?)今時のバンドと比べると、ユニゾンが志向しているのは「フェス以前、SNS以前の時代におけるロックバンド像」だと言えるのかもしれない。

 ロックバンドはむやみに間口を広げないし、「ファン目線」に降りていかないし、中途半端にフレンドリーにはしない。それに対してファンは、想像力を働かせながら自力で楽しみ方を見つけ出していく。ステージの「上」と「下」で隔てられていた人たちがフラットな関係性を作れる時代においてファンに対しての一線を引こうとする彼らのやり方は今風ではないし、田淵は自分たちのそんなスタンスを「老害」などという自虐的な言葉遣いで評している。しかし、「本来ロックバンドはこうあるべきだ」という哲学を貫き続けた結果としてここまでの支持を獲得するに至ったユニゾンのここまでの足跡は、ゼロ年代から10年代にかけてのユニークなケースのひとつとして語り継がれていくべきものと言ってよいのではないだろうか。

 今の時代の流れを考えると、ユニゾンと同じようなことにトライするバンドというのはなかなか生まれ得ないだろう。ただ、それはすなわち彼らがこれからもシーンにおいて異色であることを意味する。「異色でオリジナリティがある」ということは、「ロックンロール」を構成する要素として重要なもののはずである。今後もバンドとしてのポピュラリティを維持しながら、「完全無欠のロックンロール」を追求する尖った存在であり続けてほしいと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。

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