ニューアルバム『TIMELESS WORLD』インタビュー

コブクロが考える、時代のど真ん中にある音楽 「どんなテーマで書いても統一感がある」

小渕健太郎

「温度が高いわけでもなく、低いわけでもなく、何でも来い」(小渕健太郎)

――今回のアルバムの中だと、2年前にリリースしたシングル曲「陽だまりの道」が、最初の1曲になりますか。

小渕:そうです。この歌から始まりました。

――この曲は、そもそもどういうテーマで?

小渕:これは旅と言う意味もありますし、生きる道とか、人生において大切なものを探すというテーマなんです。実際その直前に、イギリスに一人旅をしに行ったんですよ。きっかけは布袋(寅泰)さんが渡英されて、いずれ遊びにおいでと言われながらなかなかタイミングが合わず、やっと2週間ぐらいゆっくり行けた時期があったんですね。初めてだったんですよ、そんな一人旅は。その時に感じたことがいろいろあって……布袋さんの車の中で、自分のアルバムを聴いたんですよ。『One Song From Two Hearts』(2013年)を布袋さんがかけてくれて。日本にいるときは最高のアルバムができたと思ってたんだけど、イギリスに行って布袋さんのカーステレオで聴いたら、まあなんとしみったれた音楽だなと思っちゃった。自分の書いた言葉やメロディを、ものすごく客観視したんですね。ある曲は“これは今の感じに合うな”とか、そういうことも思ったけれど、でもここでカーペンターズが流れたら最高に合うし、ビートルズも最高に合う。“これがスタンダードか”という感覚をできるだけ会得して、日本に帰ったんですね。

――はい。なるほど。

小渕:だからスタジオにいながらも、布袋さんのミニクーパーの後部座席で、車窓を流れるイギリスの古い街並みや広い公園の中で音を鳴らす感覚になるというか。それは本当に、その旅で得た感覚なんです。それで「陽だまりの道」ができて、そこには遠くで揺れる針葉樹みたいな景色が見えていて。風の揺れ方が違うような感覚とか、いろいろなものをメロディに込めて、歌詞を書いて、黒田と歌って、今までにない広いものができたなと。今回アルバムが完成して、一番何かを思うのは、僕はやっぱり「陽だまりの道」だったんですね。それぐらい大きい曲で、いろいろ振り幅を広げられた曲だと思います。

――そこから始まった2年半の軌跡が、このアルバムには込められている。

小渕:そうですね。

――世間的にはいわゆる、タイアップのついたヒット曲満載のベスト的アルバム、というふうにとらえられる部分もあると思うんですよ。でもタイアップも一つのきっかけで、表現したいことが何もなければ生まれないと思うので。そのへんの話も、聞いてもいいですか? タイアップ曲を作る時に意識していることは?

小渕:今は波風がたってない感覚というか、本当にフラットになっちゃったんですよ。温度が高いわけでもなく、低いわけでもなく、何でも来いみたいな感じになっちゃってて。

黒田:曲作ろう!って言って、昔は曲を作ってたんですよ。そうすると、曲作ろう!という気持ちがなくなると、まったくできなくなる。それは当然ですよね。ところがこの1年ぐらいは全然違うんです。“こんなテーマで書き下ろしの依頼が来ました”って、ちょっと話して、ものの1時間もしないうちに(小渕が)“あ、わかりました。それなら大丈夫です”って。何が大丈夫なのか、俺には全然わからない(笑)。でも上がってくるものを聴くと、こんなテーマやからとか、もはやそんなところではないみたいです。何が来ようが、自分の持ってる食材でしか料理できないから、“これで何作ろうか”しか考えてない。

――ああ~。

黒田:それは、一皮むけたという言い方が正しいかどうかわからないけど、ナチュラルですよね。無理してない。何をどんなテーマで書いてもコブクロになるし、全部統一感があると思うんですよね。

小渕:だから、たとえば「SUNRISE」のようなことをもともと思っていたとする。それは自分の中にあるものだけど、自分では見えなかったりするんですよ。だけど、なぜその人たちが僕たちに曲を書いてほしいと思ったんだろう?と思った時に、あちらには見えてるんですよ。コブクロに書いてほしい何かが。自分では見えないんです。そうすると、姿見を立てられた感じで、のぞき込むと、“ああ、これか”って反射するのがタイアップだと、僕は思うようになってきて。

――はい。なるほど。

小渕:だから波風は一切立たず、“はい、これです”って言うことができる。ないものを無理やり絞り出すとかは、今回のアルバムには本当に1曲もなくて。だからタイアップということに対する怖さとか、音楽性が違うんじゃないか?とか、自分たちの意志と反してるんじゃないか?とか、そういうことはなくなりました。

黒田:昔みたいに“名曲を書こう”みたいな気負いもなくなりました。ただ、寄らば斬る感じ。

――寄らば斬る! かっこいい。

黒田:その射程距離に入らなかったら、刀を抜こうともしない。ずーっと静かにしてて、入った瞬間にシャッ!と斬る感じ。すごいナチュラル。

――達人じゃないですか。

黒田:ほんとにそんな感じですよ。だからいくらでも曲ができる。テーマさえあれば。

小渕:でも、家では一切ギターを弾かないんですよ。カラオケには行きますけど(笑)。一度斬られた名作を聴きにいきます。

――ああ~。かつてこっちが斬られた曲を(笑)。

小渕:この歌は素晴らしいな、この歌も素晴らしいなと思うことが、すごい刺激になってます。だって自分のパソコンで聴くと、同じ曲ばかり聴いちゃうじゃないですか。じゃなくて、自分の好みとかはどうでもいいから、刺激を求めて人の歌を聴くのが楽しいんですよ。

――合気道の達人の話を聞いてる気がしてきました。もはや刀も使わず、空気で投げ飛ばすみたいな(笑)。

黒田:そうそう(笑)。普段は本当にフラットなんですよ。常にいい歌詞を探してるわけでもなく、普通にしてるんですけど、パッと来た時にシャッと斬れる感じ。

――そういう黒田さんは、どういう感じで作るんですか。

黒田:僕はもう、30メートルぐらい向こうまで人を斬りに行く(笑)。走り回って、めちゃくちゃ斬りまくる。

――迷惑じゃないですか!(笑)

黒田:跳ね返った刀で俺もボロボロになって、やっと1曲できる(笑)。

小渕:今スタッフが“あ~あ”って顔で見てるけど(笑)。

黒田:でもね、今回気づいたことがあるんですよ。さっきの小淵のルーツを探る話じゃないけど、僕はもともとヒップホップが好きでR&Bが好きで、黒っぽいものをいろいろ聴いてきて、ふと気づいたんですよ。僕はギターをいっさい弾けないのに、何で曲を作る時にギター弾いてたんやろ?と。それは、こいつの真似をしてたんですね。それが間違いだったんですよ。根本的に俺はギターを弾けない。弾けもしないものを持って曲ができるわけがない。で、年が明けてから、パソコンでずーっと作ってて、MACの中でほぼほぼできあがって、もう一回打ち込み直したりして、できたんですよ。

――それが「Tearless」。

黒田:でもね、3か月もやってたら、めちゃ楽しくなってきてね。これいくらでもできるわと一瞬思ったんですけど、やっぱりできないですね(笑)。もう終わった。心の灯が消えるのを感じました(笑)。

小渕:本日の放送は終了しました(笑)。

黒田: 1曲で、燃え尽きた感はハンパないです。週に2曲も3曲も作るなんて考えられない。

――でも、その魂削って書いた黒田さんの「Tearless」、最高ですよ。めっちゃファンキーで、ボーカルもオートチューンで今っぽくて。アルバムにこういう曲が入ってると、全体が全然違って聴こえます。

黒田:もともとは全然違うアレンジだったんですけど、3か月かけてこねくり回してたら、知らんうちにEDMみたいになってたという(笑)。でもせっかく僕が1曲作るなら、何コレ?っていうのがあったほうがいいかなと思って、思い切って振り切ってみました。次に曲を作れるとしたら、全編ラップかもしれない(笑)。

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