レジーのJ−POP鳥瞰図 第12回

アイドルは年齢とキャリアをどう重ねていく? AKB48、Perfume、Negiccoが示す新モデル

AKB48「翼はいらない」にこめられたアイドルシーンへのメッセージ

 「AKB48 45thシングル選抜総選挙」の投票権が封入されたシングル「翼はいらない」が6月1日にリリースされた。この作品の初動売上は144.1万枚。もはやシングルの売上枚数で何かを語るのがナンセンスであることは世間一般に浸透した印象があるが、それでも今の時代にこの枚数を売り上げるというのは驚異的と言わざるを得ない。幅広い年代に浸透した「365日の紙飛行機」を踏襲したと思われる素朴なフォークソング調のサウンドは、一部の若手ミュージシャンが醸し出す「フォーキー」なムードとは全く異なる「歌声喫茶」的な雰囲気。PVには楽曲のイメージに合わせて学生運動を思わせるシーンが登場するが、<大人たちに支配されるな>というメッセージを発した欅坂46「サイレントマジョリティー」とのリンクを感じなくもない。

 表題曲のセンターを向井地美音が務め、NGT48の加藤美南と高倉萌香が初めてシングル選抜に抜擢されるなど、次代の48グループを担うメンバーが意識的にフィーチャーされている側面もある「翼はいらない」。そんな中で異彩を放つのが、宮崎美穂と大家志津香の選抜入りである。宮崎は「Everyday、カチューシャ」以来実に5年ぶりの選抜入りであり、大家に至っては「じゃんけん選抜(「鈴懸の木の道で「君の微笑みを夢に見る」と言ってしまったら 僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの」)」を除いては今回の曲で初めてシングル選抜のメンバーとなった。

 宮崎は5期、大家は4期とグループではすでにベテランの域であり、彼女たちの後に加入したメンバーの中ですでに何人もの「次世代エース」が登場している。グループにおける「干され」的な立場にあったとも言える2人は、バラエティ番組やライブのMCなどでの活躍を通してこのタイミングでスポットライトの当たる場所を掴みとった。

 次から次に新しいメンバーが加入し、その中で見込みがありそうな人間をどんどんピックアップしていくスタイルをとっている48グループの運営は、その一方で中堅・ベテランのメンバーにもしかるべきタイミングでチャンスを与えている。3期生の仲川遙香(JKT48)や多田愛佳(HKT48)は人気が停滞してきたタイミングでの移籍で新たな活躍の場を得たし、最近では一度メインの「出世街道」を外れた感のあった入山杏奈(握手会での事件など不可抗力の面もあったが)が再びフォーカスされる機会も増えている。必ずしも「使い捨て」ではない「人事方針」は、前総監督の高橋みなみの代名詞「努力は必ず報われる」がグループの精神として浸透している証拠だろうか。

 人気の伸びが一時的に思わしくなくても再び浮上できるという仕組みは、アイドルカルチャーが今後持続可能なものとして定着していくために必ず必要となるものである。ただ、この考え方が根付くかどうかについてはこの文化を受容する側の問題も大きい。「若いアイドルほど持てはやされる」という空気がある限り、一定の年齢(世の中全体で見れば十分に若いとされる年齢がボーダーラインとなる)を越えたアイドルは挽回のチャンスを与えられることなくシーンから退場せざるを得ない。

 アイドルの「年齢」に関する制限(「差別」と言ってもいいかもしれない)は不文律ではあるものの確実に存在しており、それはアイドルカルチャーというものが世間から奇異と嫌悪の視線を向けられる際の根拠の一つとなっていると言えるだろう。ここをいかに打破するか、という観点はこの文化の今後を考えるうえで重要な要素を占めているように思えるが、それに関連して秋元康はこんな示唆的な発言をしている。

「小嶋さん(小嶋陽菜)はAKB48で何とか30歳越えしてほしいし、最終的には40歳までいってほしい。個人仕事をしてもいいし結婚してもいい、公演だってほとんど出なくてもいい。だけど年に一度くらい劇場に出演することが発表されて「え、小嶋さん出るの!?」ってなる。それでそのうち、自分の娘くらいの世代の子とMステに出る。そんなことができるのは小嶋さんしかいないし、それがかっこいいと思う」(2016年3月12日「AKB48SHOW」より 発言の一部を要約)

 冗談っぽいトーンではあったが、ここにはいくらかの本音も混ざっているように思える。ここで語られている姿は一般的に想定される「アイドル像」とは大きくかけ離れているが、こういう形での「アイドル」が登場することこそがアイドルカルチャーの未来につながっていくのではないだろうか。

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