ニューシングル『風が吹いた日』インタビュー

SING LIKE TALKINGが語る、ポップスと時代の関係「環境に素直に反応して、ベストな仕事をする」

 2018年の結成30周年に向けて、活動のペースを上げているSING LIKE TALKINGがニューシングル『風が吹いた日』(ODS「SING LIKE TALKING LIVE MOVIE –Strings of the night-」主題歌)をリリース。ホーンセクションをフィーチャーしたこの曲からは、デビュー以来、音楽的な欲求を楽曲に反映してきた彼らの現在のモードが伝わってくる。

 今回Real Soundではメンバーの佐藤竹善、藤田千章、西村智彦にインタビュー。昨年10月に行われたプレミアムライブ「SING LIKE TAKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリングス~」の手応え、ニューシングル「風が吹いた日」のコンセプト、30周年に向けたビジョン、さらにAOR、シティポップが復権している現在の音楽シーンに対する印象など、多岐に渡って話を聞いた。(森朋之)

SING LIKE TALKING - 「風が吹いた日」リリックビデオ

「ポップスには時代のあだ花みたいな側面もある」(藤田千章)

ーーまずは昨年10月に行われたプレミアムライブ「SING LIKE TAKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリングス~」について聞かせてください。このライブの模様は「SING LIKE TALKING LIVE MOVIE -Strings of the night-」として映像化され全国の映画館で公開されていますが、30周年のカウント・アップ・ライブの第1弾として、ストリングスをフィーチャーしたライブを開催したのはどうしてなんですか?

佐藤:2013年の25周年のときに“25/50”(「Amusement Pocket 25/50」というライブを開催して、その翌年にはツアーをやったんですけど、2015年にも「30周年に向けて盛り上がっていける、プレミアムな企画をやりたいですね」というスタッフサイドからのアイデアがあって。最初は「ストリングスをフィーチャーして、バラードのライブをやりませんか?」という提案だったんですけど、「マッタリして、つまらなそうだな」と思ってしまったんです(笑)。ただ、ストリングをフィーチャーするという切り口自体はすごくいいなと思ったんですよね。ストリングスといっても、クラシカルなものから、ジャジーなもの、R&Bなど、さまざまなアプローチが出来るじゃないですか。SING LIKE TAKINGは幅広いテイストの楽曲を作ってきたし、ストリングスを背景にした楽曲も多いので、ストリングス自体を主役にして選曲してみたらいいんじゃないか、と。そうすれば通常のツアーではこぼれる曲も演奏できるだろうしーー長くやっていると、どうしても“ライブでやらなくちゃいけない曲”というのがあるのでーーストリングスという観点から僕らの音楽性を見せることができるかもしれないと思ったんですよね。それはファンの人にとってもおもしろいだろうし、自分たちへのイメージを広げることにもつながるんじゃないかな、と。

ーーなるほど。映像を拝見して、とにかくサウンドのクオリティに高さに驚かされました。金原千恵子ストリングスをはじめ、江口信夫さん(Dr)、高水健司さん(Ba)、大儀見元さん(Per)、塩谷哲さん(Pf)、露崎春女さん(Cho/G)が参加するなど、錚々たるメンバーが揃っていますね。

佐藤:凄腕のミュージシャンばかりだし、若い頃から一緒にやっている仲間でもあるので、僕らの音楽のこともよくわかってくれてるんですよね。これまで僕らの楽曲に参加してくれた海外のミュージシャンに対してリスペクトを持ってくれているのも大きいんですよ。特に今回はクレア・フィッシャー(1960年代からジャズ、ポップスを中心に活躍した鍵盤奏者、アレンジャー)の存在が非常に大きくて。2012年に亡くなってしまいましたが、世界的なストリングス・アレンジャーでしたので。

ーークレア・フィッシャーがストリングス・アレンジを手がけた「Your Love」「点し火のように」はライブのなかでも大きなポイントになってますよね。

佐藤:そうなんですよ。そこに今回のライブの柱を置くことで、僕らがどういうふうに世界の音楽シーンを見つめてきたかということを、具体的に表現できるんじゃないかと思いまして。「Your Love」と「点し火のように」はクレア・フィッシャーにアレンジしてもらうことが決まってから書いた曲なんです。ポール・マッカートニーの「ディストラクションズ」という曲もクレアにストリングスを付けてもらうことを前提にして書かれた曲なんですけど、それと同じ発想ですよね。ストリングスの旋律自体が楽曲になっているし、その2曲を繋いで演奏できたことは、ライブのなかのひとつのハイライトだったと思います。間のインタールードを手がけたのはソルト(塩谷哲)なんですが、彼もクレアを尊敬しているし、ずっと研究していましたから。あの部分が上手くいけば、ライブの半分は成功すると思っていましたね。

ーーなるほど。西村さんは去年のストリングス・ライブをどんなふうに捉えていますか?

西村:まず、リハーサルが3日しかなかったんですよ。覚えるのに必死で、余裕はなかったですね。

佐藤:ハハハハ(笑)。

西村:ストリングスの編成がダブルカルテットというのも「果たして、どんなものなのかな」と思ってたんです、最初は。カルテットがふたつということですけど、それで音圧が出るのかなって。でも、リハーサルの一発目の音が完璧だったんですよね。室内音楽みたいな雰囲気ではなくて、ちゃんとオーケストラの音になっていて。それはすごくビックリしたし、ギターの手を止めて聴いていたいような気持ちになりました。

佐藤:しっかりしたストリングスが入ると、余計なことをしなくてよくなりますからね。

ーー藤田さんはどうですか? ストリングスをフィーチャーすることで、新たな発見もあったと思うのですが。

藤田:アンコールの1曲目に「止まらぬ想い」を演奏したんですが、この曲は音源にも弦が入ってるんですね。そのときはバイオリンとチェロのダブルだったんですけど、ライブでやったバージョンはアレンジ的により“弦らしい”という感じがあって。楽曲も新鮮に聴こえたし、おもしろかったですね。

ーー弦のアレンジは今野均さんですね。

藤田:そうですね。原曲のストリングスのラインをあまり崩さず、さらに肉付けしてもらった感じなんですけど、想像以上に説得力がありました。

ーー本来やりたかったアレンジが実現できたということですか?

藤田:いや、どうですかね。たとえば「止まらぬ想い」がいまの曲で、いまレコーディングしたのであれば、今回のストリングス・ライブのようなアレンジにしたかもしれないですけど。それはそのときの時代感とか、自分たちの考え方にもよると思うんですよ。僕らはポップスをやっているわけですけど、ポップスというのは時代のあだ花みたいな側面もあるので。あだ花という言葉は誤解を招くかもしれないけど、時代の気分、流行の影響は確実にありますからね。CDに入っている「止まらぬ想い」のアレンジにしても、当時はそれがベストだと思っていたはずですからね。

佐藤:「止まらぬ想い」のアレンジは、その頃(1990年~1993年)一緒にやっていたロッド・アントゥーンが仲間のバイオリニストとチェリストを連れてきてくれて、その場で演奏しながら作っていったんです。それは僕らも初体験だったんですが、まずチェロの女性が弾いて、バイオリンの男性が「じゃあ、俺はこう弾こうかな」という感じで。弦とかホーンはスコアを書くものだと思っていたからすごく驚きましたけど、アメリカでレコーディングしてたときって、そういう体験をたくさんしたんですよ。時代との一期一会っていうのはありますからね。今回のライブのアレンジも、そのときに出来たラインをもとにしているわけだし。

藤田:そう、オリジナルのニュアンスを残すことも大事だなと。それを含めて上手くいったと思います。

ーーなるほど。それにしても、実際に弾きながらストリングスのアレンジを決めるってすごいですね。

佐藤:それも時代の流れによって変わっていると思いますけどね。当時は僕らも「弦とホーンはスコアを書くもの」と思っていたけど、いまの若いミュージシャンはそうじゃないかもしれないし。クレア・フィッシャーのオーケストラもすごかったんですよ。スタジオに行ってみたら通常は4人で構成するはずのコントラバスが6人もいたんです。しかもそれは音を厚くするためではなくて、低音のなかで内声を構築させるためなんですよ。ある意味、前衛的ですよね。

ーー現代音楽のような発想ですよね。

佐藤:うん、そうですね。ソルトも大学時代に現代音楽も吸収していたし、そのなかでクレア・フィッシャーに惹かれたところもあると思います。

佐藤竹善

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