ニューシングル『深呼吸』インタビュー
ハナレグミが映画『海よりもまだ深く』で再発見した 「音楽でずっとやりたかったこと」
「自分がどういうことをしたかったのかが、この映画によってわかったところがあって」
ーー過去の是枝作品と比べても、監督の自己投影度が高い作品ですよね。
永積:そうみたいですね。実際、監督が暮らしていた清瀬の団地を使っているし。あと、近所の、団地の中での格差みたいなことを、楽しく描いていたりとか。それからね、物音がすっごいいいんですよ! 団地の部屋にある玉暖簾のジャラジャラって音とか、主人公が別れた嫁としゃべってて、襖越しに隣の部屋で、おふくろさんがテレビ観て笑ってる声の距離感とか、その団地の中での密室感がすごく生々しいというか。監督、家の間取りにもこだわって……女と男の姉弟だったら、奥の部屋が南側だったとしても、歳頃の男は自分の世界に入りたいから、北側のみんなと離れた部屋を選ぶだろう、とか。そういうことをすごい落とし込んで、脚本を書いていったみたいで。監督は、家族は音で確認してるんじゃないか、って言いたいのかなあと思った。物音で「あ、親父が帰ってきた」とか、そういうところまで描こうとしてるんだなあ、って。
それからね、さっきの話の続きだけど、自分がどういうことをしたかったのかが、この映画によってわかったところがあって。この映画を観た人が自分と重ねたりとか、自分を見つけると思うんですよ。で、僕のやりたいことっていうか、人に届けて「熱くなれ!」って思ってるのは、その人のものになってほしいっていうか。俺のことはいなくなっていい、ハナレグミが歌ったとかはどうでもいい。たとえば「家族の風景」って曲だったら「ああ、うちもそうだったな」って思ってくれるとか、そういうことの中に、いちばん実があるっていうか、聴き手がそうなった瞬間が「それです!」っていう。俺から「もっとこうやって生きていけよ」って言ったところで、それはその人のものになんかならないっていうか。
そういうことって熱いな、って、この映画を観て教わった。「そうだな、俺ずっと、音楽でそういうことをやりたかったんだな。そういう音になれ!ってずっと思ってたな」って。SUPER BUTTER DOGやってた頃も、わからないながらもそういうことがやりたくてやってたんだろうし、ハナレグミになってからもそうだし、今回の「深呼吸」って曲もそうだなあと思って。
ーー人のものになって初めて音楽だと?
永積:そうなのかも。俺を聴いてくれ!って、ライブとかだと思うけど、最後の最後には、この場所のものになりたい、っていうか。歌いながら自分が消えてなくなれ、ってうまく思えた時がいいライブ、っていうか。ハナレグミの体温ってそういうもので、それはこの映画を観て、監督から「こういうことじゃん」って言われたような気がして。だから、SUPPER BUTTER DOGの頃からやってきたことが……この映画のサントラから、いろんな人に参加してもらった『What are you looking for』、っていう自分の制作の流れで、ちょっとつながってきたっていうか。
それでまた、今、人とやりたくなってたりとかね。たとえばTOSHI-LOW(BRAHMAN/OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)と仲よくなったりとか、それきっかけでTOSHI-LOWのまわりにいるミュージシャンたちの音楽を聴くようになったりとか。あと、今の若い世代のミュージシャン、ヒップホップの人たちの言葉とか……アルバムで「おあいこ」を書いてもらった洋次郎(野田洋次郎/RADWIMPS)もそうだし。あと大森靖子さんの、こないだの、ミトくん(クラムボン)がプロデュースの曲(アルバム『TOKYO BLACK HOLE』の表題曲/2016年3月23日リリース)とか。聴いて「すごい言葉をぶちこんでくるなあ」ってぶっとんだし。だから、「なんとか俺も!」みたいな気に、またなるっていうか。ハナレグミっていうよりかは、SUPER BUTTER DOGの頃の熱量と近いものを感じる、そういう人たちの音楽を聴いた時に。「バンドの方がこんなことを歌えるのかなあ」とか。
「街が滅んでいく感覚に、俺はすごくエレクトしてる」
ーーえ、バンドやるんですか?
永積:いやいや、何もないよ?(笑)。何も予定はないけど、でもなんか、そういうのもまたやりてえなあ、みたいなことは思うけどね。やっぱり、この映画から受けた……「そうだよな、こういう感覚だよな」っていうものって、すごく大きくて。その感覚と、自分が育ってきた多摩の空気感が、自分の中でジャストな感覚でさ。この年齡になってからの多摩っていうものが持ってる、ちょっと影のような部分。さっきも別のインタビューで、その話になったんだけど……そのインタビュアーの人は、「滅んでいく感じ」って言ってたけど。
ーーああ、街がね。それ、映画の中ですごく描かれてますよね。
永積:うん。「そうだ!」と思って。その滅んでいく感覚に、俺はすごくエレクトしてるっていうか。その感覚は、SUPER BUTTER DOGの頃からあったなと思うし。ほら、『333号室』(2ndアルバム/1998年6月10日リリース)を作った時って、マッシヴ・アタックとかのブリストル系がすごい好きだったわけ。ブリストル系の音楽と、俺が大好きな井上陽水さんの「氷の世界」とかのフォーク・ ソング、すっごいつながるなあ、と思って。その感覚って……もしかしたら多摩に感じる空虚感、空洞感みたいなものを、もうその頃持ってたんだな、と思って。そういう感覚がずっとあることが、最近、自分の中で手触りとして、ちょっと見えてきたのかなあ。
だから、言葉でわかられたいんじゃなくて、気配として突き刺され、と思ってるよね、ずっと。目の前で自傷してる男を見てどう思うんだよ? みたいな感じかもね……それはSUPER BUTTER DOGの時だけどね、そういう気分の時もあったし。この映画の中でも、団地ができた頃は若い人たちが住んでたけど、子供がみんな巣立っていって、今いるのは老人ばかり、っていう状況なわけじゃない? 僕の世代ってまさにそれでさ、多摩の実家に戻ると、自分の見慣れてた景色がどんどん年老いてるっていうか。それになんか、ものすごい、立ち尽くすし……だから、エレクトしちゃうっていうか(笑)。
ーー読む人によっては、ド変態だと思われますよ(笑)。
永積:エレクトって言いたいだけだけど(笑)。でもちょっとあるかもね、終わっていく感じに興奮しちゃう。それ、日本人っぽいかもな、とも思うし。枯れていくものに自分を重ねる瞬間。終わっていくものに対しての興味……超ビビってるけど、なんとかギリギリまでは見ていたいっていうか。そう、さっき言った大森靖子さんの曲にも、そういうものを感じたんだよね。自分が見てドキッとしてたことと、その曲で歌われてることがつながってて、「うわ、すげえこと言ってる」って。〈地獄 地獄 見晴らしの良い地獄〉って歌詞じゃん。聴いて「ひゃーっ!」って思ってさ。