55周年シングル『今の向こうの今を』リリース記念特別対談

ささきいさお✕畑亜貴が語る、「アニソン界の大王」55年の軌跡とこれから

ささきいさお

「完成したものを聴いて、『声が若いな!』と思いましたよ」

――今作を制作するにあたり、どういったことを念頭に置かれたのでしょうか?

畑:一人の人間として尊敬すべき人生の先輩として、そしてステキな男性として思いを込めて、今のいさお様はどこにいらっしゃるのだろう? という所を表現したいなとすごく思ったんです。今までやってきたことがひたすらに素晴らしいじゃないですか。

ささき:褒めちぎりますね(笑)。

畑:褒めちぎりますよ(笑)! いさお様がここから出す新曲というのは未来を見ているわけです。その姿勢も素晴らしいですし、これまでの誇りや色々な壁を乗り越えてきた力を、ぜひみなさんに勇気として伝えたいなという思いで『今の向こうの今を』を書かせていただきました。サウンドに関しては、「今の向こうの今を」は、堂々とみんなに人生を歌うというのをやってもらいたいので王道的にと。カップリングの「始まりは何度でも」は、やはりファンとして“セクシーな暴れん坊”である一面を見たくて、作曲をしてくれた黒須(克彦)さんに、「こういういさお様が私は聴きたいんだ!」と意図を色々と熱く語りまして(笑)。黒須さんも「光栄なお話、重々承知いたしました」と快く引き受けてくださり、こういう形になりました。

ささき:2曲とも見事に面白い色が出たよね。

畑:黒須さんも、編曲してくれた齋藤真也さんも面白いモノ新しいモノを作りたいと、プロデュース魂を燃え上がらせてくれました。記念碑的作品でありながら、挑戦作であるというのをみなさんに聴いていただきたいと思ったんです。だからプレゼンの段階で「この曲で大丈夫かな?」と言われたとしても、この曲がどれだけいいかを熱く語って、説得しようと思っていたんです。ですが、いさお様もスタッフの方々も、最初から快くOKしてくださって。良い意味で「なんて無謀な人たちなんだ!?」と思いました(笑)。

――両曲ともポジティブな言葉が綴られてます。ささきさんにここまで前向きな言葉を歌われたら、ネガティブなことは金輪際言えないぐらいの説得力です。

畑:説得力も段違いですよ。ささきさんに「“今の向こうの今”を見よう!」と言われましたら「ハイッ!」としか答えようがないじゃないですか。

ささき:僕はこういう風に生きてきて、今がある。こんな歩みの遅い僕が今の先を見つめるんだから、みんなも向こう側を見てみようじゃないかと感じてくれると思っているんです。僕は僕の歌を聴く人に勇気や元気を持ってもらいたい。「今の向こうの今を」は、歌詞一つひとつがその勇気や元気をダイレクトに伝えくれるんだよね。普通、「○○周年」という作品になると、それまでのことを振り返る作品になってしまうものだけど、これは違うよね。

畑:レジェンドであると共にフレッシュを併せ持ったものにしたかったんです。

ささき:その前向きな気持ちがスッと入ってきたから、僕も歌えたんだよ。だからレコーディングしたものを聴いて「声が若ぇな!」と思っちゃったよ(笑)。

一同:(笑)。

畑:いや、これが本当に若々しいんですよ!

――それこそ「始まりは~」は「G.I.ブルース」といった、ささきさんが“和製プレスリー”と称されていたデビュー初期の頃のナンバーを彷彿とさせる、若々しくも大人の色香漂う仕上がりになってます。

ささき:デビュー当時にこれぐらい歌えてたら良かったんだけどねぇ。

畑:いえいえ、積み重ねがあったからこその若々しさとセクシーさが融合した歌声になっていらっしゃるんですよ。このセクシー熱量をなんとかしてお伝えしたくて「始まりは~」はディレクションさせてもらいましたので。

ささき:畑さんの歌詞がしっかりしているから、その分遊んで歌ってもいいかな? と思ったんです。畑さんから「プレスリーっぽくやりましょう」と提案していただいたので、ではそれでいきましょうと、こういう仕上がりになったんです。

畑:ウフフ、意図していた通りになりました。

畑亜貴

「『なんでこうなった!?』と思ってもらえるぐらいの冒険をしたかった」

――畑さんのInstagramには、レコーディング風景の写真が掲載されていました。現場はどういった雰囲気でしたか?

ささき:レコーディング自体は割とすんなりといったんです。それこそ最初はマイクテストの段階では力強く歌ってみたんだけど、どうも自分でもしっくりしなくて。もう少し柔らかめにしようかなと思って、2回目歌ってみたら「その線で行きましょう、できればもう少し男っぽくお願いします」と言われて、こういう感じに仕上がったんです。やっぱりこういう曲は精一杯歌いすぎるとダメなんだね、どこか余裕がないと。

畑:余裕があるからこそ、初めてメッセージに耳を傾けてもらえる気がします。メッセージ性のある曲を力強く歌うのは簡単で。140%の元気はいさお様は簡単に出せると思うんです。でも、そこからスッと力を抜いた100%で歌っていただくことで、その落としていただいた40%の部分に大人の余裕が感じられるじゃないですか。それが出来ること自体、これまでの積み重ねがあったからこその技や魅力だと思うんです。

ささき:ここ1、2年でやっと、肩の力を抜くことの方法が分かってきたの(笑)。

畑:では、抜き技を極めるのはこれからですね(笑)。

ささき:そうなるといいねぇ。昨年のバースデーライブ(2015年5月17日開催「デビュー55周年記念バースデーライブ」)から、歌声も話も力が抜けるようになってきたんです。何かキッカケがあったというわけではないんだけどね。ステージに立つ以上は、気負ったり力が入ったり、ここで良い恰好を見せなくちゃと、色んなことを思っちゃうものだけど、ようやく自分の素の部分というものが出せるようになれた。だからいつもなら、あれをしようこれをしようと、大変なんだけど今回のレコーディングは、すんなりと臨めたんですよ。特に「始まりは~」なんて歌っていて楽しんじゃった(笑)。声が良く出てたんだ、高音なんか特にね。

畑:サビのところなんか10代のような荒々しい声を出すんですよ、これが。冒頭の「Come On!」という言葉からしてもう仰け反っちゃいますし。聴く度に、もうどこへでも付いていきます! という気分にさせられますね。

ささき:いやいや(笑)。「始まりは~」は最初どう歌おうか? と歌い方が掴めなかったんですよ。そんな時に、そうだ! これはエルヴィスで行った方がいいなと思い、歌ってみたら結構ハマッていてね。後はもう、やけっぱちで歌っちゃいましたよ(笑)。

畑:そのやけっぱちが、ただのやけっぱちじゃないんですよ! セクシーでありながら、長年の成熟ぶりがにじみ出ていらっしゃる。この素晴らしさ!

――畑さんもボーカリストとして数多くの作品を残していますが、歌手・ささきいさおの凄味はどこに感じられますか?

畑:要求されたことに対して、完璧に応えられるところ。これはすごいことですよ! きっと曲や歌詞が自分に合わないと感じた作品もあったかと思うんです。それを歌い重ねることで、説得力を持たせて楽曲として成り立たせ、しかもそれが後世に残る作品になる。そのアーティストとしての背中はもう、大きくて大きくて……私には超えることはできません!

ささき:褒められすぎて怖いなぁ(笑)。僕はレコーディングの時って、声が完成する前に終わってしまうことが多くて。だから後から「こうすればよかった……」というのが毎回のように付きまとうんだよね。でも、納得いく歌を追求し続けたらさっさと死んじゃうな、とも思うんだよ(苦笑)。

畑:大丈夫ですよ! その時は機械の体を手に入れちゃえばいいんですよ。

ささき:色々と旅をしてきたけど、機械の体はダメなんだって教わったんだよ(笑)。今回みたいにスムーズに楽しく歌えたのは初めてですよ。

ささきいさお

――ご自身の“今”が刻まれたものを聴いた感想はいかがですか?

ささき:すごい楽しい作品ができたなと思いました。我が家でもエンドレスで聴いていて、女房(女優の上田みゆき)も「すごく良い」と言ってくれてますよ。「今の~」は前向きなんだけど、ある種の切なさを感じさせる言葉と旋律がいいですね。「始まりは~」はそれこそ正統派なロックで弾けた楽曲で楽しいよね。そう言えば、たまたま先日エルヴィスを特集した番組で湯川れい子さんとご一緒して、そこで「今度エルヴィスみたいな歌を出すんです」と言ったら、ぜひ聴かせて!ということで、CDをお渡ししましたよ。

畑:えっ!? えっ!? どういったご感想を仰ってました?

ささき:昨日渡したばかりだからまだまだですよ(笑)。エルヴィスの権威がどう聴くのか、楽しみです。

畑:初めて聞きました。ドキドキします……。

――えらい話になってきましたね(笑)。今回、畑さんは楽曲だけでなく、ジャケットも手掛けていますが、これはどういうイメージで作ったものでしょう?

畑:このジャケットのお写真、ステキですよねぇ~(ウットリ)。今までと違った切り口でのお写真を見てみたかったんです。今まででしたら正面を向いてニッコリと微笑むお写真が多かったんですよね。それもステキなんですけど、また違った一面を見たいと思ったんです。一人の男性アーティストとしての姿が捉えられたなと思っているんです、厳しく今も未来も見続けている男のこの背中と、裏ジャケットで見せる鋭いまなざし! カッコイイですねぇ~。

ささき:やっぱりトータルでのプロデュースは重要だし必要なんだと感じたね。

畑:今回は冒険がしたかったので、「なんでこうなった!?」と思ってもらえるぐらいの新しい切り口の方が、みなさん新鮮に思っていただけると思うんです。それこそ、これから重ねていく曲への助走になるのではないかなと。

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