村尾泰郎の新譜キュレーション 第5回

USインディーは学園ドラマ並のキャラ揃い? F・コスモス、J・ウォーレスら個性豊かな5枚

 USインディー・シーンは、どこか学園ドラマみたいな楽しさがある。オタク、不良、文学青年、変わり者……ユニークなキャラクターが多彩な音楽を展開して実に賑やか。そんななかから、USインディーらしい個性豊かなアーティストの新作を紹介していこう。

 両親がハリウッドスターでNY生まれの女の子、と聞いたらピカピカに着飾ったセレブのお嬢様を想像してしまいがちだけど、彼女はちょっと違う。オスカー俳優、ケヴィン・クラインと80年代のアイドル女優、フィーヴィー・ケイツを両親に持つグレタ・クラインは、小学生の頃から読書好き。オシャレなパーティーに出掛けるより、自宅でマンガや本を読む内向的な日々を送っていた。そんなある日、ザ・ストロークスを聴いて音楽にハマった彼女は、宅録で曲を作ってネットにアップするようになる。そして、その音源が話題になり、彼女はフランキー・コスモスという名前でデビューを飾った。そんな彼女の新作『ネクスト・シング』は、初めて彼女以外のメンバーも交え、バンド・セットでレコーディング。宅録好きのシンガーは“歌心”に頼りがちだけど、彼女の場合、アレンジや音作りにアイデアが散りばめられていて、なかでも骨太なリズム・セクションが曲にポップな躍動感を与えている。そして、つぶやくような歌声は、ツィートというより日記のようなパーソナルな肌触り。日本盤はシンセをベースに作った前作『フィット・ミー・イン』と2in1仕様で、彼女のガーリーな歌の世界を幅広く楽しむことができる。

タオ&ザ・ゲット・ダウン・ステイ・ダウン『A Man Alive』(Ribbon Music)

 一方、サンフランシスコを拠点にするベトナム系アメリカ人女性シンガー/ギタリストのタオ・グエンは、元気一杯のライオット・ガール。彼女が率いるバンド、タオ&ザ・ゲット・ダウン・ステイ・ダウンは、ガレージ・ロック的な荒々しさとオルタナティヴな実験性を兼ね備えたサウンドで根強い人気を得てきた。そんな彼女の3年振りとなる新作『A Man Alive』のプロデュースを手掛けているのは、前作にも関わったチューンヤーズことメリル・ガーバスだ。強烈なリズム・セクションとエキセントリックな音作りにチューンヤーズのカラーを感じさせつつ、エキゾチックな旋律や表情豊かなヴォーカルはタオの得意とするところ。チボ・マットやOOIOOなど、90年代のオルタナ系ガールズ・バンドに通じる自由奔放なサウンドからは、タオやメリルが腕まくりしながら音楽と遊んでいるのが伝わってくる。

 ダミアン・ジュラードは「孤高」という言葉が似合うシアトル出身のシンガー・ソングライター。もともとハードコア・パンクのバンドで活動していたダミアンは、ソロに転じてからは宅録した音源をカセットテープで手売りしながら歌い、1997年にサブ・ポップからデビューを飾った。アメリカン・ルーツ・ミュージックに根差した歌はネオ・カントリーの文脈で語られることが多いが、ここ数年はシンガー・ソングライターのリチャード・スウィフトをプロデューサーに招き、アルバムごとにサウンド面でユニークな実験を展開してきた。新作『Visions of Us on the Land』は、過去2作『Maraqopa』(2012年リリース)、『Brothers and Sisters of the Eternal Son』(2014年リリース)と同じ世界観を共有する三部作の完結編だ。すべての楽器をスウィフトと二人で演奏していて、様々な音を重ねて残響音で包み込んだサウンドはサイケデリックに揺らめいている。その中心にはダミアンの弾き語りがあり、彼の歌声が語り部となってリスナーを不思議な世界へと誘ってくれる。

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