相対性理論が過去のパブリックイメージを刷新! サウンドの新モードを読み解く

 そんな山口が作曲に関わった中でも特に耳を惹くのが、「弁天様はスピリチュア」だ。マーク・ジュリアナのビート・ミュージックを想わせる鮮烈な曲で、相対性理論のアナザー・サイドを開拓したと言える。山口はmolt beatsという名義でも音源をリリースしており、やくしまるが作詞・作曲した花澤香菜「アブラカタブラ片思い」のリミックスも手掛けている。ビートのプログラミングが出来て「音楽をアンサンブルとして捉えられる点が優れている」(過去に筆者が行ったやくしまるへのメール・インタビューより)という山口は、本作においてかなり重要な存在だったのだろう。

 それにしても、7月に相対性理論が日本武道館でワンマンライブを行うというニュースには、驚いた人も多かったのではないか。というのも彼らは昨今、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、サーストン・ムーア、フアナ・モリーナ、マシュー・ハーバート、ペンギン・カフェなど、カッティング・エッジな外国のミュージシャンと共演を重ねてきており、独自の美学に基づいた活動を展開していたからだ。先出のジェフ・ミルズとライブでセッションも行ったのも(素晴らしかった!)、そうした活動の延長にあったものだろう。

 しかし、クラムボンやエゴ・ラッピンなど、マイペースに自分の居場所を作ってきたアーティストも今年武道館公演を敢行/予定している。そうした流れを考えると相対性理論が武道館というのも決して不思議ではない。そもそも、武道館は演出に凝ろうと思えば意外に凝ることのできる会場だ。きっと彼らのことだから、一筋縄ではいかない仕掛けを見せてくれるのではないだろうか。実際、オフィシャルHPを見ると、各地から武道館へのバスツアーが企画されており、相対性理論らしい趣向が期待できる。グレードアップしたバンドのパフォーマンスが『天声ジングル』の曲をどう具現化してくれるかも、もちろん楽しみでならない。

■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa

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