やくしまるえつこ新作が“技術”を駆使して目指すものーー使用した“オリジナル楽器”たちを解説
美術家の伊東篤宏は90年代より蛍光灯を素材としたインスタレーションを制作し、98年に蛍光灯の放電ノイズを拾って出力する「音具」としてOPTRONを開発・命名。当初は遠隔操作するものであったが、徐々に楽器化が進んで手持ちの形態になり、コラボレーションの幅が大きく広がると、数々の個展やソロ・パフォーマンスを開催してきた。2003年にはドラマーとの2ピースバンドOptrumを結成し、これまでに佐々木敦主宰の<HEADZ>より2枚のアルバムをリリース。現代美術側から音および音楽へのアプローチを続ける伊東およびOPTRONの存在は、dimtaktの直接的なルーツであると言えよう。
『第18回メディア芸術祭』エンターテイメント部門で新人賞を獲得したスライムシンセサイザーは、スライムを触ること、または形を変形させることによって音が変わる不定形のシンセサイザー。音を生み出すこと、音を変化させることに特化しているため、これまでのシンセサイザーのように音階を出すことにこだわらず、リズムボックスとしての側面が強いという。開発者の一人であるメディアアーティストのドリタは、ファッションデザイナーのヌケメ率いるドローンバンド・ヌケメバンドのメンバーでもあり、スライムシンセサイザーを用いた独自のパフォーマンスを行っている。
伊東篤宏はかつてOPTRONについてのインタビューで「作為的で判り易い〈神秘性〉みたいなものからは、できる限り離れたいと心がけています」と語っている。音楽は技術と共に進化する。これは紛れもない事実であり、「光と光と光と光の記録」が提示しているのも、決して「神秘性」などではなく、ここから作られるであろう音楽の未来の姿なのだ。
(文=金子厚武)