「ビクターロック祭り 〜2016〜」がオーディエンスに与えてくれた“楽しさ”

 というわけで、以下は、イベント全体としての総評のようなことを書きます。

 1アクトの持ち時間が短くて2ステージ交互に演奏していくシステムであり、しかも2つのステージが近くて移動に時間がかからないので、(渋滞時刻を避ければ)いっぱい観れてお得であること。くるりやDragon Ashといった重鎮から、昨年デビューのAwesome City Clubや藤原さくらまで、幅広く観られること。DJやついいちろうやDJダイノジ(ビクター所属ではないのに去年・今年と出演)なども観られて、バラエティに富んでいること。などなど、今年の『ビクターロック祭り』は、よりいっそう濃く、かつ手軽に、楽しさをオーディエンスに与えてくれるイベントになった。

 また、『ワン! チャン!』優勝バンドの時の盛況ぶりに顕著だったが、耳が早くて能動的な参加者が多い印象だった。すでに全国区に知られつつあるヤバイTシャツ屋さんが満員になったのはわかるが、準優勝のkikiのステージにも、かなりの人が集まっていた。そんな客層なのだから、Gacharic SpinもAwesome City Clubも藤原さくらも、go!go!vannilasもSAKANAMONも、人がはみ出っぱなしの大盛況。DJやついいちろうとDJダイノジの人気は言うまでもなし。つまり、小さなステージをもうひとつ増やして若手をフックアップしたい、という目的にかなったオーディエンスが来場していた、ということだ。○○を目当てに来て、それが終わったら帰る、というのではなく、ちゃんとフェスそのものを楽しむ人たち、いろんなものを積極的に聴きたいというロックファンたちのイベントになっていた。

 最近、デビュー以来ほぼ100%ステージで演奏してきた「そのぬくもりに用がある」をあえて外す、という攻撃的なモードでツアーもフェスも行っているサンボマスターは、この『ビクターロック祭り』でもそれを貫きつつ、6曲中4曲をビクター移籍後の曲からセレクトしてセットリストを組んだ。

サンボマスター/Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)

 Dragon Ashは、「For divers area」で始まり「AMBITIOUS」につなぎ、KenKenがフィーチャーされる「The Live」から最新アルバムの「Neverland」を経て、「百合の咲く場所で」「Fantasista」の2連発でシメるフェス必勝パターンで、場を制圧した。

Dragon Ash/Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)

 2004年リリースのアルバム『アンテナ』の再現ライブツアー『NOW AND THEN Vol.2』を5月に控えているくるりは、「グッドモーニング」「Morning Paper」「Race」「ロックンロール」「Hometown」と『アンテナ』の頭から5曲目までをノンストップで披露、さらに後半では「すけべな女の子」を経て、NHK「みんなのうた」でオンエア中の「かんがえがあるカンガルー」と新曲「どれくらいの」をライブで初披露──というスペシャルな内容だった。

くるり/Photo by Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)

 そして、この日BARK STAGEのトリを務めたサカナクションのステージで、山口一郎は開口一番「帰ってきました! サカナクションです」と言った。一回目の一昨年もトリをやったが、昨年はベース草刈愛美の出産によるライブ活動休止期間と当たったので出られなかった、だからそう言ったのだろうが、「ああ、何かもう、出演者側にとってもそういう場になっているんだなあ」と、改めて思った。

 ひとつだけ不満。
 去年はオープニングの時、シークレット・ゲストで長山洋子が登場してびっくりしたが、今年はそういうカマシ、特にありませんでした。来年あたり、小泉今日子、出てくれないかな。彼女なら、ひょっとしたら出てくれるかも、という気がしません?

(文=兵庫慎司)

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