作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」第5回
ジャニーズWEST、山下智久、ドリカム……なぜJ-POPの歌詞には“物語”が必要なのか?
――なるほど。ちなみに、物語性のある歌詞をスムーズに書けるようになるためのトレーニングなどはあるのでしょうか。
zopp:インプットに関しては、小説を読むよりも30分アニメを見るほうがわかりやすいと思います。30分アニメって前半と後半に分かれているものが多く、間にCMを跨いでも見させてしまうような展開を盛り込んでいますよね。これって、歌詞でいう1番と2番の関係性に近いと思います。今回のテーマのように続編があったとしても、「この後どうなるんだろうな」という状況で一話一話をしっかりと終わらせているので。
――アウトプットの練習には何が適していますか?
zopp:「サプライズ」ですね。友達や恋人の誕生日に仕掛けるのって、起承転結を設定して、プライベートから常に物語を作っていることが多いと思うんです。同じものをプレゼントするにしても、相手や状況に応じて表現の順番も感動の与え方も違うので、やればやるほど鍛えられますし、作詞のときにも自然とその経験が生かされてきますよ。
――歌詞というのはポップミュージックの中で始まって終わる短いドラマということですよね。ただ、これが小説となると、とてつもない量になりますが、作詞とどこまで使う筋肉が違いますか。
zopp:小説の方が作詞よりも親切じゃないといけないような気がします。歌は長くても3、4分なので、放っておいても耳に入ってくるし、我慢すれば聴ける範囲ですが、小説は長丁場だから、少しでも雑になると読み進めてもらえなくなるんです。そう考えると、歌詞は意外と無責任で、表現しなくてもいい所はたくさんあるんだなと感じました。
――表現しなくても、楽曲を通して伝わるメッセージもありますもんね。
zopp:小説は迷子にさせないためにも、ちゃんと説明を補足しなければならず、書き方によっては、キャラクターの目線が変わるシーンもあります。しかし、作詞の場合は、頑張っても主人公の目線に神様の目線が加わるかどうかで、もう一つ視点を入れると3分じゃ足りなくなってしまいますよね。小説の良さは、長いぶん自由度が高く、目線を多様に持たせることができることだと思います。あと、歌詞の場合はメロディーありきなので「音に合いつつ、良い言葉でなければならない」というのが難しい。職業作詞家じゃない人が書く作詞って、ワードセンスはあるけど、音符の伸びや跳ねという性質を無視しているので、曲と合わせると歌いづらいものが多いということからも、作詞独特の難しさがわかると思います。
――そこと小説を書いた理由は繋がっているのでしょうか。
zopp:はい。作詞っていろんな職業の人が書くじゃないですか。タレントさんもアイドルも脚本家も書いていて、言葉の中でも一番キャッチーな職業に見られているように思えたんです。その次にキャッチーだと思われているのが小説家で、こちらも色々な職業の方が執筆をしていますよね。だから、僕は逆転の発想で、作詞家でも小説を書けるし、しっかりとしたブランドを作れることを証明したかったんです。
――そのなかで来年発売される小説「ソングス・アンド・リリックス」で作詞家を題材に選んだ理由は?
zopp:今回はいい機会だったので、作詞家ってこんな人生で、こんなことを考えて、こんな苦労をして生きているんだよと知ってもらいたかったんです。アーティストという媒介を通している以上、作詞家の良さを歌詞で伝えるのは難しいですし。あと、ハードカバーではなく文庫にしたのは、安いので1人でも多くの人に手に取ってもらってシェアしてもらえたらと思ったからです。
――この作品は、作詞家が成り上がっていく過程をzoppさん自身のドキュメントとフィクションの虚実を混ぜながら綴っていますよね。特に後半になればなるほど、過激なテーマに触れていますが、どこまでが本当なのでしょうか?
zopp:前半も後半も虚実のバランスは変えていないので、全体を通して半分半分くらいだというところまでしかお話できないです(笑)。
――なるほど(笑)。また、文中では日本語詞と英詞の違い、言葉の壁なども題材にあがっていますが、これはzoppさんが留学をしていた際に体験したことを踏まえた内容ですよね。
zopp:はい。向こうの歌詞は日本のものと全く違う世界観で奥深いものだということを、訳詞を通じて学びました。だからと言って日本語詞で表現することをあきらめるのはいけないと思うので、僕は少しでもその掛け橋になれればいいと思います。
(取材・文=中村拓海)
■zopp プロフィール
1980年2月29日生まれ
アメリカ、マサチューセッツ州ボストンの大学でコンピューターテクノロジー専攻。
16歳の時、初めてのアメリカ留学を経験。その時に勉強の延長線上で様々な海外アーティストの歌詞を翻訳している内に、作詞の世界に魅せられ作詞家を目指す。作詞活動と並行して、作詞家の育成(zoppの作詞クラブの講師)、ネーミング等を考える(コトバライター)、テレビ出演など、多岐にわたって活躍の場を広げている。
2013年11月11日に、初小説「1+1=Namida 」(マガジンハウス)を上梓し、小説家デビューを果たす。第二弾小説となる「ソングス・アンド・リリックス」は、講談社文庫より2016年1月15日発売。
作詞家を目指す若者が業界に入り味わう辛苦、高校時代を共にして歌手としては花開かず裏方に回った女性との友情と恋愛、業界のドンとして崇められている大物作詞家との修行と復讐などが、鮮烈に描かれる。
オリジナルの歌詞をちりばめながら、Jポップのクリエイター事情など業界の裏情報満載に、夢へ向かう作詞家のたまごの青春と恋愛を、鮮烈に綴る傑作小説である。
zopp 公式HP http://www.zopp.jp/
zoppのYouTubeちゃんねる Z-POP https://www.youtube.com/channel/UCf_rqxQaXEQnal-RJ9FcDdA