THE BACK HORNが到達した音響デザインの新しさーー小野島大が『運命開花』のサウンドを分析
THE BACK HORNの新作『運命開花』は、きわめて THE BACK HORNらしい、とことん濃厚で熱く激しいアルバムでありながら、同時にかってないほど軽やかでクリアでモダンで優しい作品でもある。
これまでのTHE BACK HORNの作品は、あまりに濃厚でヘヴィで生真面目で人間の本質や内面の営みを捉えきっているがゆえに、作品にまっすぐ向き合わねばならないと思わせる強い力がある代わり、聴く側にも覚悟を強いるようなところがあった。今作ではディープで濃密でありながら、シンプルで開かれていて聴きやすい作品となっている。ここでは主にサウンド面について、考察してみよう。
本作の制作前に三軒茶屋の飲み屋にメンバー全員が集まった。その場で松田晋二が「自分たちににしかできない音楽をもう一度見つめ直して制作に入るのはどうか」と提案したという。それまで自分たちの内面をとことん突き詰め深耕してきた彼らが、3.11の衝撃を経て、自分たちがなすべき使命や歌う意味、表現する意義を模索し得た結論が『リヴスコール』や『暁のファンファーレ』といった作品だった。今回はそれを踏まえながらもう一度THE BACK HORNらしさとは何かを自問自答したのである。
それは単に原点回帰や初期衝動的なものに戻ることを意味しない。自分たちが得意として、自分たちにしか使えない武器は何か、それを今の時代に向け有効なものとして研ぎ澄ませていくためにはどうすればいいか、という探求だった。THE BACK HORNらしさを追求し「核」に向かったはずが、各々の捉えたTHE BACK HORN像を自由に表現していった結果、かってなく振り幅をもった楽曲群が生まれた。それとともに、各々のプレイヤーたちの楽器スキル、アレンジワークや録音手法も見直されることにもなる。
まずはアルバム全体の音響デザインだ。菅波は本作収録の「その先へ」を作った時、自分が若いころに聴き影響を受けたニルヴァーナやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンといったバンド、ひいてはその源流となるレッド・ツェッペリンやジミ・ヘンドリックスといった古典的な「ロックの王道」を自分たちなりにやろうとしたという。だがそれを手癖と衝動だけに任せ漠然と演奏・録音するだけでは、単に古臭いだけのレトロなものとなってしまう。そのために楽器・機材を徹底的にモディファイして、録音の仕方や楽器の鳴りまで、曖昧さのない、とことんソリッドでタイトなサウンド・テクスチャーを目指した。これはたとえば英国のミューズのようなバンドと同じ方向性であり、王道のパワー・ロックの骨太なエネルギーや熱い初期衝動を、モダンで現代的な今のサウンドとして仕上げたという点で両者は共通点がある。いわばTHE BACK HORNがTHE BACK HORNらしさとして本質的に持つ古典的なロックのロマンを、今の時代のクリアでソリッドで曖昧さのない音響デザインで鳴らした。それはそのまま『運命開花』のサウンド・コンセプトとなっているのである。
もうひとつは彼らのアレンジ・ワークである。以前と比べると音数が減り、余白と空間を生かしたシンプルなものになっている。これに関しては、菅波の言葉を引用しよう。先日私がやったインタビューでの発言だ。岡峰光舟のベース・プレイが今作のキーとなっていると菅波は指摘する。
「(岡峰が)かなりコード感を意識してフレーズを作ってるなとも感じてました。(中略)それがアルバムのいい雰囲気につながってると思うんですよ。(中略)ベースの低音がその曲のコード進行をどう表現してるか。シンプルに表現してるのか、彩るようにメロディアスに表現してるのか、それはどんな場面でどんな歌があるのか。いろんな要素をつないでいくのがベースなんですよ。ドラムのリズムと歌のたたずまいとギターをつなぐもの。オレがギターをコードでジャーンと弾くと、コードは和音だから何個も音が重なってるじゃないですか。何個も重なってる中でどの音を強調するかっていうのが、ベースの担っている役割だったりして。その強調の具合によって、明るく聞こえたり、力強く聞こえたり、儚く聴かせることもできる。それって全部ベースができることで。そういうある種の王道のベースの役割ってものに光舟は今回向き合ってくれた。(中略)岡峰のベースが多彩になると、ギターをどんどんシンプルにしていけるんです。ギターを何本も何本も重ねなくても、コード感が十分あれば、ギターの本数を減らしていける。本数を減らしていけば音はクリアになって、近くなってくる」(参考:http://natalie.mu/music/pp/thebackhorn06)
そうした岡峰のプレイが、本作での剛直一本やりではないある種の柔らかさ、しなやかさ、優しさ、華やかさな明るさに繋がっているのではないか、と菅波は指摘する。
そして本作の制作工程だ。本作は各々が作り込んできた打ち込みのデモ音源をメールでやりとりしながら修正し、さらにスタジオで実際にバンドであわせて、それをさらにデモテープにフィードバックしてアレンジや音色を変え…という作業を経て完成した。いわば「スタジオで大音量で演奏しながら感覚的に感じる部分と、クリアな音で冷静に客観的に聴いて感じる部分」(菅波)が同居して、ライブ・ロック・バンドとしてのフィジカルなグルーヴと、緻密なサウンド・プロダクションが止揚して、そこらの凡庸なロック・バンドが単に勢い任せで演奏するだけでは絶対に出せない、気合い一発の熱量だけでは到達できない、完成度の高い楽曲が作られている。それが前述したソリッドでタイトな音響デザインによって、さらに研ぎ澄まされた現代性を帯びることになったのである。
THE BACK HORNは2002年の岡峰光舟の正式加入以来、まったくメンバー・チェンジをしていない。そのわりにマンネリになったり、怠惰なルーティン・ワークにならず、常にヒリヒリとした緊張感と新鮮さを保っているのは、現状に安住せず、常に挑戦と自問自答を忘れず、自らの表現を更新しようとする意欲ゆえだろう。とはいえ彼らの楽曲はライブで人前にさらされることでエネルギーを注入され、さらに変容し完成するという側面がある。ツアーは来年の2月からと、少しブランクがあるが、その間にたっぷり予習をして、本作の楽曲がどのように進化していくのか確認したい。
(文=小野島大)
■リリース情報
『運命開花』
発売:11月25日
初回限定盤[CD+DVD]¥3,300(税抜)
通常盤[CD]¥2,700(税抜)
初回限定盤 DVD 収録内容
・「運命開花」レコーディングドキュメンタリー
・「悪人」「その先へ」ミュージックビデオ
■ライブ情報
THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」〜運命開歌〜
2月21日(日)渋谷TSUTAYA O-EAST
2月23日(火)千葉LOOK
2月25日(木)HEAVEN’S ROCK KUMAGAYA VJ-1
3月2日(水)HEAVEN’S ROCK UTSUNOMIYA VJ-2
3月3日(木)水戸LIGHT HOUSE
3月11日(金)京都磔磔
3月13日(日)米子AZTiC laughs
3月18日(金)神戸VARIT.
3月20日(日)和歌山CLUB GATE
3月21日(月・祝)奈良NEVERLAND
3月26日(土)松本Sound Hall aC
3月27日(日)甲府CONVICTION
3月31日(木)郡山HIP SHOT
4月2日(土)石巻BLUE RESISTANCE
4月3日(日)盛岡CLUB CHANGE WAVE
4月7日(木)浜松窓枠
4月9日(土)名古屋DIAMOND HALL
4月10日(日)金沢EIGHT HALL
4月14日(木)大分DRUM Be-0
4月16日(土)宮崎SR-BOX
4月17日(日)鹿児島CAPARVO HALL
4月21日(木)岡山YEBISU YA PRO
4月23日(土)高知X−pt.
4月24日(日)松山サロンキティ
5月7日(土)広島クラブクワトロ
5月8日(日)福岡DRUM LOGOS
5月10日(火)熊本DRUM Be-9 V1
5月14日(土)松江AZTiC canova
5月15日(日)高松MONSTER
5月21日(土)新潟LOTS
5月22日(日)仙台Rensa
5月28日(土)旭川CASINO DRIVE
5月29日(日)札幌ペニーレーン24
6月10日(金)なんばHatch
6月12日(日)新木場STUDIO COAST